⭕ 犬神の呪い 6
──*──*──*── 3日後
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マオ
「 次で9件目か。
やっとだな。
順調に進んでるし、今日で現場巡りも終わりだな 」
霄囹
「 順調に進み過ぎてる気もするがな── 」
マオ
「 有り難いじゃないか。
順調の何が悪いんだよ? 」
霄囹
「 陰陽師の勘だ。
嫌な予感がするんだよ 」
マオ
「 良く言うよ。
シュンシュンの式神で瞬殺出来るだろ 」
霄囹
「 まぁな…… 」
マオ
「 それにしてもさ、ペットも可哀想だよな。
ゲージの中から出れないペット迄、無惨にも喰い殺されてるんだからさ── 」
霄囹
「 マオは妊婦と胎児の死体よりもペットの方がショックみたいだな 」
マオ
「 そ…其処迄は言ってないだろ!
犬なら飼い主を守る為に犬神に牙を向けて、吠えて威嚇したり、飛び掛かったりするだろうけどさ、ゲージの中で大人しくしてるペットは威嚇なんてしないだろ。
喰い殺す必要なんてないじゃんか 」
マオ
「 ウサギ,ハムスター,ハリネズミ,インコの事を言ってるのか 」
マオ
「 猫や小型犬もな!
中型犬とか大型犬なら被害に遭うのも分からなくはないよ 」
霄囹
「 呪詛師の指示か、犬神の判断のどちらかだろ 」
マオ
「 犬神って式だろ。
自分で判断とか出来るのか? 」
霄囹
「 呪術の素人が作った出来損ないの犬神とは訳が違うからな。
呪術に詳しいプロが作る式だからな、理解力の有る知能の高い犬神を作る筈だ。
使い回しが出来る様に工夫もしてるだろうしな 」
マオ
「 プロにはアレンジが出来るんだったよな 」
霄囹
「 あぁ……。
唯の犬神なら良いんだがな── 」
マオ
「 シュンシュン、どうしたんだよ。
何時にも増して表情が暗いじゃないか 」
霄囹
「 ザワザワするんだよ。
マオには分からないだろうがな 」
マオ
「 ………………。
それにしてもさ、不妊治療に協力的だった夫が依頼をした犯人説って有るのかよ? 」
霄囹
「 今度はネット民の素人推理かよ。
まぁ、確かに “ 有り得ない ” と断言は出来ないな。
実際に浮気相手を選び、正妻を殺害した夫が実在するからな。
否定は出来ない 」
マオ
「 何で浮気相手の方を選ぶんだろうな?
正妻が嫌いだったとか? 」
霄囹
「 そんなのは正妻を殺害した夫にしか分からないさ。
下半身に従ったのかも知れないな。
息子は正直だからな 」
マオ
「 息子って──。
勃たない正妻よりも勃つ浮気相手を選んだって事か?
そんな理由で殺害するかな? 」
霄囹
「 男は女よりも性欲に忠実なんだよ。
性欲の前じゃあ、男の理性なんて屁みたいなもんさ 」
マオ
「 経験者は語る──ってヤツだな! 」
霄囹
「 誰が経験者だよ!
盛った猿じゃ有るまいし。
犬神の呪いとは無関係だが、こんな事件が実際に有ったんだ── 」
シュンシュンが話して聞かせてくれた内容は以下だ──。
とある所に仲睦まじい夫婦が居た。
だが、夫婦は子供に恵まれなかった。
子供を欲しがった夫婦は不妊治療を始めた。
世間的に見ても不妊治療に対して珍しく協力的な夫で、妻と揃って産婦人科へ通っていた。
妊娠したと分かり妻は喜んだが、夫は複雑そうだった。
ある日、妊婦の妻が何者かに殺害されてしまった。
寝室に大量の血が飛び散り、かっ捌かれた腹からは臓物が抜き取られており、寝室にバラ撒かれていた。
胎内で順調に育っていた筈の胎児が取り出されており、天井に杭で打たれた状態の胎児が発見された。
夫が出張で自宅を留守にしていた日に起きた凄惨な事件だ。
誰もが愛妻家だった夫に同情し、何者かに最愛の妻を奪われた夫だと信じていた。
夫もまるで現役の役者の様に悲劇に見舞われ、妻を奪われた可哀想な夫で有り続けた。
犯罪者を追跡する番組にも出演し、最愛の妻を殺害した犯人へ向けてメッセージを送っている。
誰もが愛妻家の夫を被害者だと信じ、疑わなかった。
1年が経ち、夫はとある女性と再婚し、子育てに協力的なイクメンパパとして幸せな生活を送り始める。
それを怪しんだ2名の女性が居た。
2名の女性は、何者かに殺害され人生を終えた前妻の姉妹だった。
前妻は家庭の事情で両親から絶縁されており、実家と疎遠だった。
故に夫には自分が三つ子で、2人の姉が居る事を知らせていなかったのだ。
妹を亡くした姉妹は、女性と再婚した義弟の行動を激しく怪しみ、2人で協力して事件の真相を暴き、義弟を警察に逮捕してもらう為、独断で調査を始めた。
年月が経ち、判明したのは以下だ──。
義弟は不妊治療に積極的で協力的だったが、本心からではなく妹に知られない為のフェイクだった事──。
義弟は浮気をしており、妹が妊娠する前に浮気相手の妊娠が発覚していた事──。
義弟は妹と別れて浮気相手と再婚しようとしていた事──。
妹の妊娠が発覚し、妊娠を喜んでいる妹と別れる事が困難となり、激しく悩んでいた事──。
妹には長期出張だと嘘を吐き、浮気相手の家で念密な殺害計画を立てていた事──。
そして、とうとう、殺害計画が義弟と浮気相手の手により、身勝手極まりない残忍な方法で妹の殺害が決行されてしまった事──。
凄惨な妹の殺害事件は、義弟と浮気相手が再婚し、新しい家庭を築き、幸せに暮らす目的の為に起こされた痛ましい事件だった。
素人ながら、此処まで真相を暴けた姉妹だったが──、妹を殺害した犯人として義弟と浮気相手を逮捕してもらう為に必要な証拠が無かった。
真相が判明しても、真犯人が判明しても、義弟と浮気相手が殺害事件を決行した確固たる証拠が無ければ、警察も逮捕には踏み切れない。
待ちに待っていた子供を授かり幸せを噛み締めていたであろう妹を、妊娠した浮気相手と再婚する為に殺害したクズ過ぎる義弟を逮捕する事が出来ない。
妹から愛する義弟を略奪し、義弟の妻としていけしゃあしゃあと良い母親面をして幸せに暮らしている殺害犯の浮気相手を野放しにしないといけない。
姉妹にすれば辛かったろうし、悔しかっただろう。
義弟と浮気相手は証拠が無い故に裁かれず、正当な罰も受けぬまま、犯した罪の存在すら忘れ去り、幸せを噛み締めて生きている。
義弟と浮気相手が残酷で残忍な殺害犯人で有る事を知らずに、両親として慕い、すくすくと成長していく息子と娘──。
姉妹は煮え切らない思いを爆発させてしまい、とうとういけない行動に出てしまった──。
姉妹は義弟と浮気相手の子供を連れ去り、殺害すると、2人の生首を梱包する。
義弟と浮気相手の結婚記念日に祝いの品として届く様に指定した。
子供達の身体はバラバラに切り刻まれ、子供達の誕生日に義弟と浮気相手へ届く様に指定した。
姉妹は事件になる前に各自、別の病院で整形を済ませると、別人として暮らし始めた。
喜ばしい結婚記念日に祝いの品として配達された最愛の息子と娘の生首を見て、正妻を殺害した夫と浮気相手は何を思っただろう。
息子の誕生日と娘の誕生日、綺麗に包装された状態で届けられた贈り物の中身が、バラバラに切り刻まれた最愛の息子と娘の肉体だと解った時、どんな気持ちになったんだろう。
正妻と胎児を身勝手な理由で殺害した報復だと気付いたんだろうか──。
自分達が殺害犯で有る事を棚に上げ、被害者ぶって、警察に犯人逮捕を依頼したんだろうか──。
2人の子供の命を奪って、妹の復讐を成し遂げ、別人として暮らした姉妹は逮捕されたのだろうか──。
三つ子の家庭は、近所でも有名だった。
両親は噂になる程の毒親で、三つ子との仲は最悪だった。
2人の兄が居たが、早々に毒親を見限っており、寮生活が出来る高校へ入学し、実家とはそれっきりだった。
毒親に育てられた影響か、三つ子の仲は頗る悪く、何時も互いを罵り合い、言い争いを繰り返しており、取っ組み合いの喧嘩をする程姉妹仲は悪く、近所の人達も心配する程に酷い状態だったらしい。
三つ子の長女と次女も毒親を見限り、寮生活が出来る別々の高校へ入学し、実家とはそれっきりとなったが、三女は実家から通える高校に入学し、実家で毒親と暮らしていた。
三女が高校を卒業すると、警察沙汰にもなった大喧嘩が毒親と繰り広げられ、それが原因で三女は毒親から絶縁され、実家を出て行った。
実家を出て1人暮らしを始めた矢先に、結婚をする夫と出逢ったらしい。
三女は毒親,兄兄姉姉に結婚する事も、結婚した事も知らせていなかった為──、妊婦になった実娘が無惨に殺害された状態で発見されたと知った時、肉親達は寝耳に水だっただろう。
実際にその通りだったらしい。
近所の人達は、耳を揃えて言ったそうだ。
あの毒親と兄弟姉妹達が、殺された三女の復讐をするなんて有り得ない──と。
それだけ家族仲が深刻に悪い家庭だった──と。
三女の葬式も1番簡単で値段の安いモノで身内だけで済ませたらしく、妻を亡くし傷心気味の義息子に対しても冷遇だったとか。
姉妹達の調査で判明した事だが、義弟の付き添いで浮気相手も葬式に参列していた。
浮気相手は義弟の実妹として身分を偽り、参列していたのだ。
義弟と共に火葬を見届け、先祖代々の家墓へ納骨される瞬間も立ち合い、確りと見届けていたのだ。
一体どんな気持ちを抱えて見届けたんだろうか──。
女ってのは恐ろしいよな!!
◎ 訂正しました。
死体よりめ ─→ 死体よりも
三つ子で、─→ 三つ子で、




