✒ 犬神の呪い 5
──*──*──*── 事件現場
──*──*──*── 室内
玄関のドアを開ける前に、予め用意されているビニール製の靴カバーを手渡される。
現状維持をしている現場だから、床を汚さない為かな?
ビニール製の靴カバーを靴に着けたら、手渡された白い手袋も両手に嵌める。
玄関のドアを開けてもらい、廊下を歩いて殺害現場となった[ ダイニングキッチン ]に足を踏み入れる。
床には黒ずんでいる乾いた血痕が生々しく残っている。
隣の[ 居間 ]にも血痕が飛び散っているし、床にはテープも貼られている。
[ ダイニングキッチン ]の床には、人型のテープが貼られていて、離れた場所にも丸くテープが貼られている。
床だけじゃなくて、壁や天井,シンクや食器棚,テーブル,椅子,冷蔵庫にも血痕が飛び散っている。
マオ
「 ひぇえ…………凄いな……。
実際に現場をガッツリと見ちゃった第1発見者の旦那さん達は、トラウマを発症しちゃうレベルじゃないのか? 」
霄囹
「 だろうな。
何せ無惨にも喰い散らかされた最愛の妻の死体を目撃した訳だしな。
精神病院に通ってカウンセリングを受けてる旦那も居るらしいぞ。
あまりにもショックがデカ過ぎて鬱病を発症したりな 」
マオ
「 マジかぁ…… 」
霄囹
「 そう言えばマオは未だ現場の画像を見てなかったよな。
閑羽刑事、マオにも現場の画像を見せてやってくれ 」
哲朶刑事
「 うえぇ?
アレを見せちゃうんですか!? 」
閑羽刑事
「 見せても大丈夫ですか?
かなり気分の悪くなる画像ですが…… 」
霄囹
「 大丈夫だ。
僕の助手だからな。
死体なんてのは見慣れてるさ 」
閑羽刑事は半信半疑な様子でタブレットの電源を入れると事件当日の画像を見せてくれた。
画像は襲わた状態で床に仰向けに倒れている妊婦の死体。
確かに首を食い千切られている。
鮮やかな血液が床や壁に飛び散っていて、臓物も床に飛びっている。
妊婦から離れた場所には喰い殺された胎児の無惨な姿もバッチリと写っている。
妊婦の腹部はズタボロだ。
色んな≪ 大陸 ≫で悪党を斬り殺し、怪物に喰い殺されている死体も見慣れている。
可愛いキノコンに頭からバリボリと美味しく頂かれている人間の様子や肉体から臓物を引き摺り出されてキノコンに美味しく頂かれている人間の様子を何度も見ている事も有ってか、不快感は無い。
不謹慎だと思うけど、激しく「 ふ~~ん 」って感じだ。
マオ
「 この画像と照らし合わせて見てると──、此処等辺に胎児が転がってたんだな。
臓物も広い範囲で散らばってたみたいだ 」
霄囹
「 画像の妊婦の死体を見てみろよ。
腕や脚が有り得ない方向に曲がってるだろ。
犬神に咥えられた状態で、振り回された可能性が有る。
食器棚やテーブル,冷蔵庫にぶつかっていたかも知れないぞ。
内出血や青痣も多かったみたいだからな 」
マオ
「 人間を余裕で振り回せる犬神か──。
かなりの凶暴性を秘めていたって事かな? 」
霄囹
「 この家では動物を飼ってなかったから、ペットの仕業は有り得ない──って結論が出ているんだ 」
マオ
「 プロだから、強力な犬神の式を作れたって事か? 」
霄囹
「 可能性の話になるが、腐った餌に蟲毒を混ぜていたかも知れないな。
呪物も有り得る 」
マオ
「 蟲毒って、毒虫を共食いさせてを最後に生き延びた毒虫の事だよな?
そんなのを腐った餌に混ぜて、空腹の犬に食わせるのかよ? 」
霄囹
「 より強い犬神の式を作る方法は以外にも手探りなんだ。
基本的な作り方は決まってるから、自分なりに色々とアレンジして模索するもんさ 」
マオ
「 へぇ……。
経験者は語る──って奴だな 」
霄囹
「 僕は犬神なんて作らないぞ。
犬神を使わなくても簡単に対象を呪い殺せるからな!
フフン 」
マオ
「 刑事さん達の前で言っちゃ駄目だろ……。
でもさ、こんな酷い状態で見付かった妊婦が後8名も居るんだよな……。
被害者はまた出ると思うか? 」
霄囹
「 可能性は有るな。
だが、あくまでも可能性の話だ。
絶対とは言えないさ。
依頼主がどうしたいかなんて部外者の僕等には分からないからな。
これで打ち止めにするのか──、更に被害者を増やすのか──。
完全に依頼主次第だな 」
マオ
「 ………………妊婦を狙うなんて許せないよ……。
シュンシュン──、逮捕が出来なくて、人間の法律でも裁けないなら……シュンシュンが罰を与えてやってくれよ。
こんな酷い事をして罪に問われないで、のうのうと生き続けるなんて…………あんまりだ…… 」
霄囹
「 僕に頼むより、セロフィートに頼んだ方が良いんじゃないか?
可愛い〈 合成獣 〉の玩具にしてもらうとかな。
それかキノコンの玩具かな。
最後は喰われるだろうが── 」
マオ
「 〈 合成獣 〉は無邪気でさ、純粋にボール遊びをする感覚で遊ぶし、キノコンは拷問染みた遊び方をするんだよなぁ…… 」
霄囹
「 なら、キノコンで決まりじゃないか?
キノコンなら被害者の妊婦が受けた様な苦しみや痛さを加害者に与えられるだろうからな 」
マオ
「 そだな……。
警察にも逮捕が出来ない場合は、キノコン行きにしよう! 」
霄囹
「 僕は犬神の痕跡を探ってみるから邪魔するなよ 」
マオ
「 分かった 」
シュンシュンは[ ダイニングキッチン ]で陰陽術を使う。
どんな探り方をするのかオレには分からない。
狩り衣の袖から御札を出した。
あの御札の値段は幾らだろうな?
抑、御札を使って分かるもんなのか??
シュンシュンは御札に陰陽術を掛けると[ ダイニングキッチン ]にバラ撒いた。
バラ撒かれた沢山のペラッペラな御札は、青い炎に包まれて消えて行く。
綺麗だ……。
暫くすると[ ダイニングキッチン ]に黒い靄みたいなのが現れ始めた。
あの黒い靄っぽいのが犬神の痕跡なのか?
シュンシュンは狩り衣の袖から空のペットをボトルを取り出す。
空のペットボトルの中には御札が入れられている。
シュンシュンが空のペットボトルに陰陽術を掛けると、空中に漂っていた黒い靄っぽいのが吸い込まれて行く。
[ ダイニングキッチン ]が心無しか明るくなった様に見える。
霄囹
「 終わったぞ。
犬神の痕跡を捕まえた 」
マオ
「 シュンシュン!
あの黒い靄みたいなのが痕跡だったのか? 」
霄囹
「 そうだ。
最初の現場にも関わらず、強く残っていたのを考えると、残りの8ヵ所でも期待が出来るな 」
マオ
「 それ、どうするんだ? 」
霄囹
「 犬神を誘き出すのに使うのさ。
最後のお楽しみだ。
次の現場へ向かおう 」
マオ
「 助手の出番が無いな 」
霄囹
「 今はな── 」
シュンシュンは含みの有る顔をしてニヤっと笑う。
嫌な予感がするぅ~~~~。
閑羽刑事と哲朶刑事に事情を話して、次の殺害現場の家へ向かって出発した。




