✒ 囲碁サロン 4
着物を着た年配のオッサンと向かい合わせになる様に腰を下ろして椅子に座る。
パタパタと動かしている扇子が邪魔だ。
オレは白石を選んで、相手のオッサンに先手を譲った。
オッサンは子供に先手を譲られたのが気に入らないのか、顔をムスッとさせる。
マジで傷付いちゃうぞ!
本当に秒で負かせてやろうかな!
オレだって大人だ。
一々ムキにはならない様に深呼吸して心を整える。
この対局では左手で打とうと思う。
セロとの過酷でハード過ぎる鬼修業で両手利きになったけど、囲碁に関しては右手でしか打っていない。
左手では上手く打てないから、初心者だと勘違いされるかも知れないな。
上手く打てない子供の指導碁に惨敗してくれよな、オッサン!!
お互いに「 お願いします 」と挨拶をして対局を始めた。
パチ──、パチ──、パチ──、パチ──。
碁石を盤上に打つ音が響く。
迫力の有る打ち方をするオッサンだ。
このオッサン、中々強いかも知れない。
オレが打っているのは勝負碁じゃなくて指導碁になってるから、この対局もオレが勝っちゃうんだけど、オッサンは諦めずに食らい付いて来る。
院生の子とは気迫が違う。
モタモタと白石を盤上に置くのに指導碁を打ってる子供を前にして、このオッサンは何を思うんだろう。
そろそろ終盤かな。
もうオッサンの投了は間近だ。
オッサンは「 ありません 」と言って、静かに打つ手を止めた。
手が震えている。
勝てると思っていたのに負けちゃって悔しいんだろうか……。
マオ
「 勝たせてもらっちゃったね 」
なんて態とらしく言ってみる。
オッサンは顔を歪ませて、悔しそうな目でオレを睨んで来る。
こっわぁ~~~~。
マオ
「 もう一局、打つ? 」
不機嫌なオッサン
「 待ってろ。
其処を動くな 」
オッサンは椅子から腰を浮かせて立ち上がる。
扇子を裾の中へ入れたオッサンは、裾の中からスマホを取り出した。
何処かに電話を掛けているのか、歩きながら話を始めた。
オッサンが戻って来る前に盤上の棋譜をスマホで写メる。
碁罫紙にも棋譜を記録しとく。
セロに鍛えられた所為で、棋譜を記録するのにも慣れた。
棋譜の記録を済ませたのに、オッサンは戻って来ない。
何してんだろう?
長電話をする人なのかも知れない。
暫くすると漸くオッサンが戻って来た。
オッサンは「 待たせたな 」と言って椅子に腰を下ろして座る。
マオ
「 長電話だったね 」
不機嫌なオッサン
「 君は何処の《 囲碁教室 》に通っている院生だ? 」
マオ
「 院生?
オレは院生じゃないよ。
アマチュアだよ 」
不機嫌なオッサン
「 プロ棋士の私を相手に指導碁で勝つ君が、院生ではないだと? 」
マオ
「 院生の子にも聞かれたよ。
オレは指導碁ばかり打たれてたから、指導碁の打ち方を覚えちゃったんだ。
オレより強い人が相手じゃないと勝負碁は打てないんだ 」
不機嫌なオッサン
「 君より私の方が “ 弱い ” と言うんだな 」
マオ
「 そうだね。
何度対局してもオレが指導碁で勝つよ。
オレ、ウンザリする程鍛えられたからさ…… 」
不機嫌なオッサン
「 ハンデを付けても君には勝てないのか 」
マオ
「 置き石するって事?
オッサンが9子置いてもオレが勝つと思うよ。
やってみる? 」
という訳で、オッサンが盤上に黒石を9子置いてもらった状態で対局を始める。
パチ──、パチ──、パチ──、パチ──。
オッサンはオレに勝とうと黒石を打つ。
オレは9子を回収していくから、次々にハンデが消えていく。
オッサンが焦っているのが分かる。
プロ棋士って言ってたけど──、オレとの対局が原因で棋士を引退しないよな??
2回目の対局もオレが勝った。
オッサンは悔しそうに苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
一寸だけ気不味いかも知れない……。
盤上の棋譜を記念に写メってから、碁罫紙に棋譜を記録する。
セロなら逆転させちゃうんだよなぁ~~。
動画に使えるから残しとかないとな!
不機嫌なオッサンと3度目の対局をする事になった。
懲りずに挑んで来るなんて、流石はプロ棋士だと思う。
プロ棋士同士で対局をする世界だから、色々と鍛えられてるんだろうな。
めげない精神は見習いたいと思う。
オレだって、心がボキボキに折れるくらいセロに鍛えられたから、断る訳にはいかない。
売られた対局は買わないとな!
オッサンと対局をしていると周りに人が集まって来た。
どうやら、オッサンの知り合いらしい。
さっき電話をしていたから、知り合いでも読んだのかも知れない。
対局はオレの勝ち。
知り合いが子供の打つ指導碁に負けたからザワついている。
まぁね、普通はそうなるよな。
オレはスマホで以下省略──。
オッサンの知り合い達は、盤上の棋譜を見て興奮しているみたいだ。
オッサンの知り合い達は、オッサンに3回も勝ったオレをマジマジと見て来る。
どうやらオッサンの知り合い達は、オレと対局をしたいらしい。
プロ棋士のオッサンに9子のハンデを与えて、指導碁で勝った子供なんて珍しいんだろうな。
セロから「 囲碁をする様に 」って言われてるしな。
マオ
「 えぇと……、同時に全員と打とうか?
全員、黒石で良いし、置き石に9子しても良いよ 」
なんて言うと、オッサンの知り合い達は手際良く準備を始めた。
テキパキとテーブルや椅子を運んで来たり、碁盤と碁笥も持って来る。
めっちゃ対局する気満々じゃんか──。
準備が終わって、オッサンとオッサンの知り合い達に囲まれての5対1の対局が始まった。