✒ 事件が終わらない 2
強面刑事は意外にもオレへの事情聴取を丁寧にしてくれた。
威圧的な態度や上から目線の偉そうな口調や鼻に付く様な対応は微塵も無い。
配慮してくれているのが犇々と伝わって来る。
もしかしたら、身長が150cmしかないオレは、小学生くらいに見られてるのかも知れない。
複雑な心境では有るけど、ドラマで見る取り調べみたいな対応で事情聴取を受けるのも嫌だから、此処は敢えて素直に甘んじようと思う。
今だけオレは小学6年生の厳蒔磨絽で通すぞ!!
強面な刑事
「 ──事情聴取は以上だよ。
協力してくれて有り難う。
お父さんの方は終わったかな? 」
あ……やっぱりぃ~~。
父親と子供だって思われてたんだな。
後々の事も考えて此処は「 異母兄弟です 」って訂正しといた方が良いよな?
マオ
「 あの……セロとは親子じゃなくて異母兄弟なんです… 」
強面な刑事
「 そうなのか?
それは済まない事を言ったね 」
マオ
「 良く間違われるから平気です 」
強面刑事は申し訳なさそうに笑う。
この人は外見の所為で、色々と損をしてそうな刑事かも知れない。
マオ
「 そうだ、刑事さん。
川原で男の人を殺害して逃げた人は逮捕された?
事件は解決した?
オレとセロね、夜散歩で川原に立ち寄ったばっかりに、第1発見者になっちゃって──。
犯人に狙われやしないか不安で……怖くて………… 」
強面な刑事
「 川原の殺人事件か──。
捜査している班が違うからね。
状況は分からないんだ。
ただ “ 犯人を逮捕した ” って話は未だ聞いてないね 」
マオ
「 そっか……。
未だ野放し状態なんだね……。
音を聞いただけで姿は見てないけど……犯人は第1発見者のオレとセロに殺害する所を “ 見られた ” って勘違いするかも知れないよね? 」
強面な刑事
「 “ それは無い ” とは言えないね。
“ 犯人は現場へ戻る ” とも言われているし、可能性は有る。
不安で心配なら警官を1人、警護に付ける様に伝えておこう 」
マオ
「 良いの? 」
強面な刑事
「 これ以上、被害者を出す訳には行かないからね 」
セロフィート
「 その必要は無いです。
多忙な刑事さんの手を煩わせる事はしません。
犯人の方から接近してくれた方が事件解決も早まるでしょう。
人を殺害した危険極まりない犯人が相手ですし、正当防衛で両足をへし折るくらい大目に見てくれますね、刑事さん 」
強面な刑事
「 へし折る?
穏やかな話では有りませんな 」
セロフィート
「 刃物を振り回し襲って来た殺人犯の両足を素手でへし折るのは過剰防衛にされます? 」
マオ
「 へし折る前提かよ…… 」
セロフィート
「 では2度と歩けない様に両足の骨を砕けば良いです?
逃亡防止になります 」
マオ
「 先ずは凶器を持てない様に両腕を使えなくした方が良いんじゃないか? 」
セロフィート
「 それだと走って逃げられてしまうでしょうに。
首を折っては死んでしまいますし、やはり両足でしょう 」
マオ
「 刑事さん、正当防衛でセーフ…だよね?
護身術で身を守るだけだし、セーフだよね? 」
強面な刑事
「 過剰防衛だと判断される可能性は高いと思いますな。
“ へし折る ” だの “ 骨を砕く ” だのと言う物騒な事は一般市民には先ず出来得ない事ですからな 」
セロフィート
「 それは残念です。
刃物を振り回し襲って来た殺人犯に対して、抵抗せず大人しく刺されろ──と言いますか。
酷い話です 」
マオ
「 迎え討たずに尻尾を巻いて逃げるのも癪だよ。
殺人犯を調子付かせちゃう事になるじゃんか。
どうせならノックアウトさせたいよな 」
セロフィート
「 刑事さん、ノックアウトも過剰防衛に入ります? 」
強面な刑事
「 “ 防衛の為、やむを得ずした行為 ” と判断されなければ、過剰防衛とみなされるだろうな 」
マオ
「 “ やむを得ない行為 ” にはならないよな…。
へし折る気満々で──、骨を砕く気満々で──抵抗するんだもんな。
ノックアウトも駄目か…… 」
セロフィート
「 残念ですね、マオ 」
マオ
「 残念がってるのはセロの方だろ 」
セロフィート
「{ 刺されても死ねませんし、逆に恐がられるでしょう }」
マオ
「{ そだな…。
すっかり忘れてたよ }」
強面な刑事
「 お兄さんは中々ユニークな発想をされるのですな… 」
セロフィート
「 ふふふ…。
“ ユニークな発想 ” ですか。
オブラートに包まなくとも “ 過激な発想 ” と言ってくださっても構いませんよ。
こう見えても物書きですし 」
強面な刑事
「 物書き…ですかな?
ルポライターとかですかな? 」
セロフィート
「 いえ、しがない小説家です。
趣味で書いていたネット小説が編集さんの目に止まりまして──。
最近だと【 私が犯人だった件 】が発売されました 」
マオ
「 何…そのタイトル?
犯罪を犯した犯人視点の話かよ? 」
セロフィート
「 違いますし。
日常で起こる一寸した些細な不思議にも大なり小なり、何等かのドラマが展開している──という内容です 」
マオ
「 日常で起こる一寸した些細な不思議??
どゆこと??
探偵推理小説って事か? 」
セロフィート
「 探偵は登場しません。
誰でも “ 犯人となり得る ” という事を伝えている内容です 」
マオ
「 犯人…………物騒な話だな… 」
強面な刑事
「 部屋を出る時には確かに机の上に置いていた筈のライターが、帰宅をしたら別の場所に移動していた──とかのミステリーに対する謎に迫る内容の小説でしたな。
誰も居ない筈の部屋で、ライターが移動する謎を解明しようとする主人公の葛藤が面白いと評判ですな 」
マオ
「 刑事さん、知ってるの? 」
強面な刑事
「 愛読しとります。
表紙がシマエナガなのはニクい演出ですな 」
セロフィート
「 ふふふ…。
カバー裏にもシマエナガの写真が印刷されてます 」
強面な刑事
「 自分は予約して買いましたよ。
予約特典にシマエナガのクリアファイルとシマエナガのセレブポケットティッシュ6Pが付いていましたな。
勿体無くて使えてませんよ 」
マオ
「 小説に予約特典を付けて販売してたんだ?
購入特典は無かったのか? 」
セロフィート
「 数量限定で購入特典にはシマエナガの栞4点セットが付いてました 」
マオ
「 わぁ~~。
シマエナガに便乗しまくってる小説なんだ…… 」
セロフィート
「 シマエナガ様々です。
人にも依りますけど、同じ値段で買うなら “ 特典付き ” を買いたいと思うでしょう? 」
マオ
「 確かに…… 」
強面な刑事
「 勤務中で無ければサインを頂きたかったのですが……残念です…… 」
セロフィート
「 ワタシの弟が小説を読んでくださっている刑事さんの事情聴取を受けたのも縁でしょうし、サインをした小説を送らせて頂きましょう 」
強面な刑事
「 良いんですか? 」
セロフィート
「 勿論です。
発売予定の新刊と合わせて発送させて頂きます。
刑事さんの御名前と所属部署と警察署の── 」
セロ、楽しそうだな。
この強面刑事がセロの玩具にならない事を〈 久遠実成 〉に祈ろうと思う。
小説を買ってくれるファンの1人だし、大丈夫……だよな??