✒ 顔の変わる人形 7
飛んで行った全ての御札が8角形をしたキャンプファイヤーの丸太の中に入り込んだ後、シュンシュンが呪文を唱え始めた。
暫くすると中に入っている人形に火が着いてパチパチ,メラメラと燃え始めた音が聞こえて来た。
マオ
「 ちょっ──、シュンシュン!!
何で人形を燃やしてるんだよ?!
【 呪人形の館 】に展示する為に使う人形じゃないのか?! 」
霄囹
「 落ち着け、マオ。
別に燃やしてない。
この炎は “ 幻炎 ” って言う陰陽術だ。
幻炎を使い、人形に憑いてる怪異や霊的存在を弱らせる効果が有る。
弱体化させた怪異を纏めて僕の式隷にするんだ。
実体の無い霊的存在は式隷に出来ないから祓う事になるがな 」
マオ
「 お焚き上げ──って言うから供養するんだと思ったけど、違うんだな 」
霄囹
「 当たり前だ。
『 供養する 』なんて言ってないだろ。
良いか──、“ お焚き上げ供養 ” なんてのは、人間にとって都合の良い建前なのさ。
とかく人間ってのは思い出の品に対して、粗大ゴミとして捨てる事に罪悪感を抱き易い傾向に有る。
最近は御構い無く捨てる輩も増えて来ているが、良心が辛うじて残ってる人間ってのは、処分するゴミにすら罪悪感を抱くんだから面白い。
少しでも “ 捨てる行為 ” で抱いてしまう罪悪感──心の負担を軽減する為に考えられたのが、“ お焚き上げ供養 ” と言われる供養形式さ。
“ 供養 ” って聞くと悪い意味に取れないだろ。
自分は “ 良い事をしているんだ ” って錯覚させる事が出来るんだ。
現実から目を逸らせ自分を騙せる。
偽善者になってでも自尊心を守る為に自分を誤魔化すのに便利なのが “ 供養 ” なのさ 」
マオ
「 そう……なのかな? 」
霄囹
「 要はゴミ処理場で燃やされるか、神社や寺の敷地内で燃やされるかの違いに過ぎない。
どんなに綺麗事で誤魔化しても、燃やして処分する事実は変わらない。
“ お焚き上げ供養 ” は特別な儀式感が有るから、お焚き上げ供養をすれば “ 罰当たりにならない” と感じ易く錯覚し易い。
人間の心理を上手く利用し易い “ お焚き上げ供養 ” は、神社や寺にとって貴重な収入源にもなる。
捨てる側にとっても受ける側にとっても双方共にWin-Winなのさ。
まぁ…寺でしてもらう場合は、檀家で無くても受けてはもらえるが、有料になる。
檀家の場合は、檀家割り引きされたり、無料だったりするな。
神社は知らんが── 」
マオ
「 神社も寺も維持費や修繕費を稼ぐ必要が有るもんな。
お賽銭の金額だけじゃ足りないだろうし? 」
霄囹
「 参拝者の少ない神社や檀家の少ない寺は特にな。
人間ってのは “ 供養 ” ですら、商売の道具にして稼ごうとする浅ましい人種なのさ。
神佛に対して御供えされた賽銭を維持費や修繕費に使わず、懐に入れて着服,横領する様な罰当たり極まりない神主や住職は、罪悪感を抱く良心を失っている畜生にも劣るクズだ 」
マオ
「 ははは…………辛辣だな…… 」
話題を変えた方が良さそうかな?
マオ
「 あっ、そう言えばさ──。
この前だけど、“ 呪舞 ” を見たよ。
シュンシュンも幻夢さんみたいに呪舞しないのか? 」
霄囹
「 舞か──。
陰陽師は貴族だからな。
貴族の嗜みとして教わった事は有るぞ 」
マオ
「 へぇ……、そうなんだ? 」
霄囹
「 舞だけじゃない。
人間だった頃には──、剣術,弓術,乗馬,蹴鞠,囲碁なんかを元服前に一通り教わった。
貴族として産まれた子供は、食わせて養ってもらう代わりに英才教育を受けるのが義務みたいなもんだったんだ。
幻夢も玄武も教わってる筈だから、一通りは出来るだろうよ。
陰陽師は当時の国家公務員だったから、何時何処で誰から何を急に要求されるか分からなかったからな、恥を掻いて困らない様に最低限の知識,教養を身に付けていた。
上手く活かせた奴が出世して行くのが貴族社会だ 」
マオ
「 貴族ってのは、贅沢な暮らしをして遊んでた訳じゃないんだな 」
霄囹
「 貴族と言ってもピンキリだぞ。
本当に遊び呆けていた馬鹿息子だって居たんだ。
親に権力と財力が有ると子供は “ 自分も偉く、尊い存在だ ” と錯覚する痛い輩も多かったな。
救い様の無い阿呆な主人に仕える事になる家臣は、賢い奴が多かったんだ。
馬鹿には野心や野望を上手く隠して、主人を手玉に取り、巧みに転がし操るなんて出来ないからな 」
マオ
「 阿呆な主人は大歓迎って事か? 」
霄囹
「 強い野心や野望を抱く家臣からすれば、都合が良いだろ。
僕は阿呆な主人に仕えるのも尽くすのも御免だがな! 」
マオ
「 …………………………ははは………… 」
霄囹
「 おぃおぃ、勘違いするなよ。
別にマオの事じゃないぞ。
お前は皇子だし、学識も有る。
生き残る術だって身に付けてるし、自衛も出来る。
唯一無二の僕の財布だからな! 」
マオ
「 “ 財布 ” と書いて “ ともだち ” って読むのはシュンシュンぐらいだろうな~~ 」
霄囹
「 良いじゃないか。
財布!
いや──、“ 財布 ” と呼ぶべきだな! 」
マオ
「 どっちにしても嬉しくないけどな! 」
キノコン
「 霄囹ちゃま──、全体に幻炎が行き渡ったエリ 」
霄囹
「 そうか。
なら、始めるとしようか── 」
シュンシュンは楽しそうな顔をして、唱え始める。
此から何が起きるんだろうな??