✒ 顔の変わる人形 2
──*──*──*── 2階・廊下
ランチルームで果物を堪能した後、オレは1人で2階へ上がった。
シュンシュンが依頼人と会う為に使っている応接室を覗いてみる事にしたんだ。
ランチルームで果物を食べていた時も、何名か依頼人が来ていた。
ランチルームの前を通って歩いている依頼人達は、紙袋や段ボール箱,風呂敷なんかを持っていた。
まさか、あの中の全部が人形だなんて言わないよな??
人形ばっかり増えちゃうと、《 陰陽師4事務所 》が人形屋敷になっちゃわないか心配になる。
──*──*──*── 応接室・前
廊下に立って応接室の中を覗いて見ると、左右のソファーに腰を下ろしているシュンシュンと依頼人が向き合って座っている。
真ん中に配置されているテーブルの上には、段ボール箱,紙袋,風呂敷が置かれている。
アレが全部、人形なのか……。
マジでシュンシュンは何を考えて人形なんかを受け取ってるんだよ?
然もだ、依頼人は茶封筒を出してシュンシュンに手渡してるぞ。
随分と厚みの有る茶封筒だな。
シュンシュンが分厚い茶封筒の封を開けると中から札束が出て来たぁぁぁぁぁぁ?!
シュンシュンは茶封筒を傍に立っているキノコンに手渡すと、キノコンは高速で札束の枚数を数え始めたぁぁぁぁぁぁ!!
キノコンは何かをサラサラサラ書くと、シュンシュンへ手渡す。
キノコンが書いたペラペラの紙をシュンシュンが依頼人へ手渡す。
シュンシュンと依頼人が、ガシッと握手を交わすと依頼人がソファーから腰を浮かせて立ち上がり、シュンシュンにペコペコと頭を下げてから、ドアへ向かって歩いて来た。
何の取り引きをしてるんだろう?
応接室のドアが開くと、依頼人は廊下を歩いて階段の方へ向かって行く。
霄囹
「 覗き見するとは良い趣味してるねぇ、マオ! 」
マオ
「 シュンシュン──。
嫌味かよ? 」
霄囹
「 違うねぇ。
褒めてるんだ。
お前は僕の主人だぞ。
覗き見する必要なんか無いだろ。
堂々と入って来いよ。
水臭い奴め 」
マオ
「 ──何の取り引きしてたんだ? 」
霄囹
「 おぃおぃ、“ 取り引き ” なんて誤解を招く言い方は止せよ。
何も悪い事はしてないぞ 」
マオ
「 分厚い茶封筒を受け取ってたじゃないか 」
霄囹
「 引き取り料と供養料だよ。
まぁ、供養なんてしないがな! 」
マオ
「 しもしない供養料を上乗せした金額を請求してるのか? 」
霄囹
「 そうだが?
当たり前だろ。
此方は彼方さんが厄介物扱いして処分に困ってる人形を大量に引き取ってやるんだぞ。
引き取り料に善意料を上乗せして何が悪い!
当然の権利だ!! 」
マオ
「 ………………善意料って何だよ?
初めて聞くんだけどぉ! 」
霄囹
「 優しくて良心的な僕の善意に対する謝礼金に決まってるだろ 」
マオ
「 ……………………それで、そんなに多くの人形を引き取って何するんだ? 」
霄囹
「 日本全土から集めた曰く憑きの人形を展示した【 呪人形の館 】を作ろうと思ってな!
今年の夏には間に合わないが、来年の夏に向けて間に合わせる予定だ 」
マオ
「 呪人形の館ぁ!?
売れ残りそうなホラーゲームのタイトルみたいだな。
またオカルト関連の事業を始めるのかよ?
シュンシュンも好きだな~~ 」
霄囹
「 フン、別に良いだろ。
皆好きだろ、怪しさがプンプンする曰く憑きの人形が──。
建設途中で中断したまま放置されてる土地を買ったんだ。
その広大な土地に【 呪人形の館 】を建設する予定さ。
建設作業は全てキノコンに任せるし、運営もキノコンに任せる予定で計画している。
何もしなくても、僕の懐には金がザクザクと入って来る予定さ! 」
マオ
「 建設途中の土地を良く買えたよな~~。
持ち主の記憶をセロに頼んで改竄でもしてもらったのか? 」
霄囹
「 そんな事するかよ。
腹黒くて欲深い議員も絡んでたから、土地を手放したくなる様に軽く揉んでやったのさ★
涙と鼻水でグチョグチョに汚れた顔で、僕に寄付してくれたよ!
良い大人が “ お漏らし ” なんかしてさ、僕に『 土地を貰ってください!! 』って土下座して頼み込むんだぞ!
全く傑作だった!
マオにも見せてやりたかったよ! 」
マオ
「 オレは遠慮しとくよ…… 」
どんな目に合わせたのかも考えたくないし、知りたくも無いな。
イキイキと話してくれるシュンシュンの事だから、相当楽しかったんだろうな──って思う。
──っていうか、買ってないじゃんかよ!! 」
マオ
「 その【 呪人形の館 】に展示する為に必要な曰く憑きで厄介扱いされている人形を買い取ってる訳かよ 」
霄囹
「 そうさ。
期待する様な人形とは御目に掛かれないがな。
無ければ人形に仕込めば良いだけさ 」
マオ
「 仕込むって──、ヤラセかよ 」
霄囹
「 オカルトは娯楽だぞ。
ちょっぴり怖さを含んだワクワクを提供して楽しませるエンタメだぞ。
娯楽にとってのヤラセはスパイスさ★ 」
マオ
「 どっかで聞いた事が有る様な台詞ぅ~~ 」
霄囹
「 人形の中に式隷を入れて、御客にドキッとする恐怖を楽しんでもらうのさ。
土地が広いから1館だけはアトラクション用で、後は宿泊施設の洋館も建設する予定だ。
中身はアトラクション用と同じ内装にして、リッチ感を味わえるホテルにするんだ。
曰く憑きの人形を展示するホラー好き向けの洋館ホテルとホラーが苦手な御客向けの洋館ホテルを用意する予定だ。
ホラー好き向けの洋館ホテルには、細々とした恐怖を仕込んでおくんだ 」
マオ
「 陰陽師のシュンシュンが完全監修して演出も手掛ける洋館ホテルになる訳だな 」
霄囹
「 そうさ!
どうだ、完成が楽しみだろ? 」
マオ
「 そだな…… 」
“ 楽しみ ” って気持ちより、不安な気持ちの方が多いんだけどな……。