⭕ お祓いの依頼 7
マオ
「 新しい間取りと飼い犬の写真が有れば特定が出来るなんて凄いな、シュンシュン! 」
霄囹
「 出来る事ならペンデュラムは使いたくなかったんだ。
何せ、400万もする貴重な水晶だからな。
くっ…………胃がキリキリする………… 」
マオ
「 キリキリする胃なんて持って無いだろ~~。
それにしてもさ、昔は和式だったんだな。
リホームして洋式に変えたとは思えないよ。
陰陽師って家の中をリホームさせたりするのか? 」
霄囹
「 普通はしないだろうな。
和式を態々洋式にリホームさせた──か。
金目当てだったのか? 」
マオ
「 全く……シュンシュンみたいな奴だよな 」
霄囹
「 僕と一緒にするな!
僕はリホームなんて無駄な事はさせない。
僕の懐にリホーム代は入らないからな 」
マオ
「 あっ、それもそうか!
──人様の家の設計図を御祓いしてから処分するなんて、やり過ぎじゃないのか?
どんな目的でそんな事をしたのか気になるよな 」
霄囹
「 陰陽師の事は後で聞く事にしよう。
先ずは飼い犬の降霊をしないとな 」
マオ
「 は?
飼い犬の降霊??
シュンシュン、何をする気なんだよ? 」
霄囹
「 飼い犬の未練をペンデュラムに降霊させるのさ 」
マオ
「 ????
でもさ、飼い犬は30年前に保健所送りになったんだろ?
未練ったって30年も経ってるのに保健所に残ってるもんなのか? 」
霄囹
「 保健所へ連れて行かれた動物は殺処分場に送られる。
殺処分場には動物の未練──残留思念体がウジャウジャ浮いてるんだ。
家族を守る為に毎日、威嚇していた責任感の強い飼い犬だ。
飼い主の身勝手な都合で殺処分されたとしても、家族を守れなかった未練は強く残っている筈だ。
降霊が出来なければ、飼い犬は飼い主をキッパリと見限って晴れやかな気持ちで成仏したって事さ 」
マオ
「 ………………どっちに転んでも複雑な気持ちになるな……。
殺処分場には動物の未練がウジャウジャ浮いてるんだろ?
違う動物の未練が降霊したらどうするんだ? 」
霄囹
「 僕を誰だと思ってるんだ?
史上最強の陰陽師だぞ!
そんな初歩的なポカはしない。
降霊を成功させるポイントは、写真と名前だけより、飼い犬が愛用していた物が有れば尚良いが──、30年も経っていれば処分しているかも知れないな 」
マオ
「 そう、だよな……。
御近所さんの苦情に屈して愛犬を保健所に連れて行くぐらいだもんな…… 」
──*──*──*── ダイニングキッチン
霄囹
「 よし、今から飼い犬の未練をペンデュラムに降霊させるぞ 」
場所をダイニングキッチンに移したら、シュンシュンの降霊術が始まる。
テーブルの上にはリホーム後の間取りが分かる設計図が置かれていて、その上には陰陽陣が描かれている白い布が敷かれている。
その上には、ぶら下がっている水晶のペンデュラム。
ペンデュラムに通している紐を持っているのはオレだ。
シュンシュンは陰陽術を発動する為に両手を使うからだ。
飼い犬の写真も有る。
若い旦那さん,若い奥さんと一緒に写っている写真だ。
霄囹
「 偉大なる陰陽師──、春舂霄囹が命ずる。
現世にさ迷えるペポハの未練よ、僕の声に応じよ!
お前の家を狙っている奴の場所を僕に教えろ。
志し半ばで人生を終えたお前の代わりに僕が、お前を捨てた家族を助けてやる。
僕にはそれだけの能力が有るぞ! 」
マオ
「( 飼い犬の未練を抉って逆撫でするなんて、辛辣だなシュンシュン…… )
──シュンシュン!
ペンデュラムが揺れだしたんだけど!? 」
霄囹
「 降霊が成功したぞ。
僕が睨んだ通り、殺処分場に飼い犬の未練が残っていた 」
住人の女性
「 …………その中にペポハが入っているの?
ペポハ── 」
霄囹
「 ペポハの霊じゃなくて未練な。
ペポハの魂は既に輪廻の流れへ還っている。
30年も経ってるんだから、既に何処かの何かに生まれ変わっているだろう。
生物の魂は等しく来世へ転生するのが摂理だからな 」
住人の女性
「 ペポハは入ってないのね………… 」
奥さんは残念そうな顔をしてペンデュラムを見ている。
マオ
「 凄い揺れるな。
シュンシュン、此って止まるのか? 」
霄囹
「 まぁ、見てろ。
直ぐに止まる 」
水晶のペンデュラムは振り子の様に左右に揺れたり、クルクルと回って揺れたりしている。
降霊が成功したペンデュラムって凄いんだな……。
暫くの間、大きく揺れて動くペンデュラムを見ていたら、揺れも動きも小さくなって来た。
小さな揺れから小刻みな揺れに変わり、動きが止まったペンデュラムから真っ赤な液体が垂れて来た。
まるで血の様に赤い液体を見て、奥さんが短い悲鳴を上げる。
マオ
「 シュンシュン──、この赤い液体って血なのか? 」
霄囹
「 水晶だぞ。
液体なんて入ってる訳ないだろ。
この液体は──── 」
霄囹
「 この間取りの位置では──、此処だな 」
マオ
「 唯の天井だろ。
此と言った変化は見れないけど?? 」
霄囹
「 天井裏だな。
式隷に探らせるさ。
家の中に隠されている物も探させる 」
マオ
「 気を捻ってる原因の物と絡めてる原因の物か? 」
霄囹
「 気じゃなくて氣な。
──リホーム前の設計図を持って行った陰陽師について話してくれ。
和式を洋式にリホームをする運びになった経緯も合わせてな 」
マオ
「 どうやって知り合ったかもだよな 」
住人の女性
「 分かりました……。
お話しします 」
奥さんの話を簡単に纏めると──、陰陽師と出会った切っ掛けは、とある人から紹介されたんだとか。
誰に紹介されたのかと言うと、旦那さんの会社の上司みたいだ。
毎日、煩く吠える飼い犬を保健所へ連れて行った翌日から、ずっと家に居る専業主婦の奥さんの体調が悪くなったらしい。
奥さんを病院へ連れて行き、色んな検査を受けさせて、診察も受けて、医師に診断してもらったけど、身体の何処にも異常は見当たらず、健康体だと診断されたらしい。
「 健康体の奥さんには薬を出せない 」と言われ、「 通院も必要無い 」と言われたらしい。
だけど、奥さんの体調は確かに悪い。
身体の何処かに必ず原因が隠れている筈だと考えた旦那さんは、奥さんを連れて色んな病院を回り、あらゆる検査を受けさせたそうだ。
体調を悪くしている何かが、早期発見される事を期待していたのかも知れない。
奥さんが子供を身籠ったけど、体調が芳しくない事と不安とストレスなんかが原因で2回も流産してしまった。
奥さんは明らかに体調不調なのに何処の病院の検査を受けても “ 異常無し ” の “ 健康体 ” だと診断されて、「 原因不明で現代の医学では御手上げ 」とまで言われたそうだ。
奥さんの体調が悪くなって5年後、旦那さんは上司に向かって弱音を吐 (は)いたり、みっともなく男泣きしてしまったらしい。
──で、その上司に紹介されたのが、陰陽師だった訳だ。
紹介者の上司も立ち会い、陰陽師との対面を果たした旦那さんと奥さんは、何かが起こる度に陰陽師へ相談する様になったそうだ。
まぁな──、色んな病院で検査を受けても原因が判明しないんだから、「 御手上げ 」だと匙を投げた医学を見限り、陰陽師に頼る事を選んだ旦那さんと奥さんの気持ちも分からなくはないかも知れない。
色々と問題が起きる度に陰陽師へ相談する様になってからは、奥さんの体調も良くなり、2年後には3度目の妊娠が発覚し、子供を無事に出産する事が出来たそうだ。
それからも陰陽師との付き合いは続き、産まれた娘さんの首が据わって落ち着いた頃、陰陽師から和式を洋式へリホームする話が出たらしい。
◎ 訂正しました。
水晶 ─→ 水晶
殺処分には ─→ 殺処分場には
◎ 変更しました。
成功したんだ。─→ 成功したぞ。
未練が残っていたんだ ─→ 未練が残っていた