⭕ プロになる為に 1
──*──*──*── 11月
──*──*──*── 日曜日
──*──*──*── 冬季棋士採用試験会場
パチン──、パチン──、パチン──、パチン──。
盤上に碁石が打たれる音が響く。
8月上旬 ~ 11月下旬まで行われる冬季棋士採用試験に10歳の子供の姿で絲腥玄武と厳蒔弓弦も参加していた。
絲腥玄武と厳蒔弓弦は双子の二卵性双生児の兄弟として生活している為、絲腥玄武は “ 厳蒔玄武 ” と名乗っていた。
冬季棋士採用試験は毎週末、プロ棋士と対局をする事が決まっている。
厳蒔玄武と厳蒔弓弦は、プロ棋士も絶句する程に負け無しの白星を上げていた。
プロ棋士
「 ………………ありません… 」
厳蒔玄武
「 ──有り難う御座いました 」
プロ棋士
「 …………君は本当に囲碁が強いんだね。
まさか、採用試験でプロ棋士が指導碁を打たれるなんて……。
いやはや……自分の目を疑ってしまうよ… 」
厳蒔玄武
「 …………これでも兄さんには敵いません。
僕は指導碁を打たれる側なので… 」
プロ棋士
「 こんなに強いのに指導碁を打たれるのかい?
君のお兄さんも囲碁のプロ棋士を── 」
厳蒔玄武
「 いえ、兄さんは《 セロッタ商会 》の跡取りなので、囲碁は趣味です。
今は他県で本屋を経営しています 」
プロ棋士
「 そう、なのか…… 」
厳蒔玄武
「 僕が指導碁を打ってしまうのは、指導碁しか打ってくれない兄さんの所為かも知れません… 」
プロ棋士
「 成る程ね。
君と弟君の強さの秘密は指導碁しか打たないお兄さんか… 」
厳蒔玄武
「 はい…。
1番上の兄さんは、5人中1番強いです。
2番目と3番目の兄さんも囲碁を嗜みます。
2番目の兄さんは、5人中1番弱いです。
3番目の兄さんは陰陽師アイドルをしていて多忙なので、囲碁どころではないです 」
プロ棋士
「 えっ!?
君のお兄さん、陰陽師アイドルなのかい?
もしかして──、春舂霄囹かい?? 」
厳蒔玄武
「 春舂霄囹は陰陽師アイドルをしている時の芸名です。
本名は厳蒔霄囹です 」
プロ棋士
「 へぇ~~。
陰陽師アイドルの身内と打てたなんて、仲間に自慢が出来るよ!
惨敗したけどね。
君は午後の試合が残っているね。
午後の採用試験も白星を期待しているよ 」
厳蒔玄武
「 有り難う御座います。
( ふぅ……。
大分、標準語にも慣れて来たな。
弓弦の試合は終わったか? )」
厳蒔玄武は盤上の碁石を碁笥へ入れて片付けると席を立つ。
弓弦が対局している席を探していると、人集りが出来ていた。
厳蒔玄武
「( 何だ?
あんな後ろで人集りだと? )」
厳蒔玄武は人集りの出来ている場所へ向かって歩く。
人混みを掻き分けて前に出ると──、試験会場に何故か居るセロフィートがプロ棋士と対局をしていた。
厳蒔玄武
「 ──セロ!
じゃなくて──、セロ兄さん! 」
セロフィート
「 ──玄武。
久し振りです 」
厳蒔玄武
「 何故、セロ兄さんが試験会場に? 」
セロフィート
「 可愛い弟達がプロ棋士になる為に採用試験を受けると言うので、どんな場所か見学に来ました 」
厳蒔玄武
「 …………何故、プロ棋士と対局を? 」
セロフィート
「 玄武と弓弦の兄だと話したら一局、誘われました 」
厳蒔玄武
「 対局の結果は? 」
セロフィート
「 ワタシの勝ちです。
手心を加えた方が良かったようです。
勝負碁では直ぐ決着が付いてしまいます 」
厳蒔玄武
「 手心とは……ハンデか? 」
セロフィート
「 そうですね。
彼ならば、40子程度の置き碁をするべきでした。
それでもワタシが勝ちますけど 」
厳蒔玄武
「 確かに随分と早過ぎる決着だな… 」
厳蒔玄武は盤上に並んでいる碁石を見て溜め息を吐いた。
どうやらプロ棋士はセロフィートに秒殺されてしまったようだ。
プロ棋士の顔色は真っ青になっている。
セロフィート
「 指導碁を断られての勝負碁ですから仕方無いですね。
弓弦は対局中です? 」
厳蒔玄武
「 あぁ……多分な。
マオ……兄さんは一緒じゃないのか? 」
セロフィート
「 来てますよ。
売店でお菓子を見てます 」
厳蒔玄武
「 マオ兄さんらしいな… 」
セロフィート
「 玄武は午前の試験は済みました? 」
厳蒔玄武
「 あぁ。
順調に白星を増やしている 」
セロフィート
「 流石、ワタシの弟です。
午後の試験まで時間があるでしょう?
お弁当を持って来たので一緒に食べましょう 」
厳蒔玄武
「 分かった 」
厳蒔玄武がセロフィートと話していると、プロ棋士と対局を済ませた厳蒔弓弦が近寄って来た。
厳蒔弓弦
「 セロ兄さんか。
誰かと思った 」
セロフィート
「 弓弦、試験はどうです? 」
厳蒔弓弦
「 順調に白星を増やしている。
さっきの対局も勝った 」
セロフィート
「 午後の試験も勝てそうです? 」
厳蒔弓弦
「 あぁ、余裕だ。
マオ兄さんでも勝てる相手ばかりだからな。
負ける気がしない 」
セロフィート
「 それは頼もしいですね。
午前の採用試験が済んだなら、昼食にしましょう 」
厳蒔玄武
「 弁当を持って来てくれたようだ 」
厳蒔弓弦
「 それは助かる。
売店で買う手間が省けた 」
セロフィート
「 売店に居るマオを捕まえて休憩所へ行きましょう 」
◎ 訂正しました。
40石程度 ─→ 40子程度