⭕ 囲碁無双
◎ サブタイトルを変更しました。
──*──*──*── 金曜日
──*──*──*── 碁会所
パチ…パチ…パチ…パチ──と碁会所に碁石が打たれる音が響く。
今は玄武と弓弦が対局中で、真剣に勝負碁をしている最中だ。
玄武は指導碁にならぬよう、意識を集中して打っている。
対して弓弦は玄武を負かそうと果敢に打つ。
2人は文句なく強かったが、玄武と弓弦の棋力の差は歴然だった。
プロ棋士を余裕であしらえてしまえる程の弓弦でさえ、玄武の相手にすらならない。
対局を見ていた者達は玄武の強さに絶句し、声を発する事すら忘れていた。
玄武は盤上で弓弦を軽くいなしている。
対局を見ていた誰かが「 こりゃあ……本因坊秀作先生も真っ青になる 」なんて言葉を溢す。
それだけ玄武の棋力は凄まじく高かった。
厳蒔弓弦
「 ……………………ありません… 」
絲腥玄武
「 有り難う御座います 」
厳蒔弓弦
「 ──やはり玄武には敵わないな。
一段と強くなっている 」
絲腥玄武
「 弓弦も上達している。
此処に打ったのは流石だ。
普通ならば見逃してしまう場所だ。
弓弦が此処に打ったから、我──僕は焦った 」
厳蒔弓弦
「 そうか!
玄武を焦らせる事が出来たか! 」
玄武との対局で負けたのに弓弦は嬉しそうに笑う。
声も弾んでいる。
玄武と弓弦は盤上をそのままにして席を立つと、昼食を食べる為に移動する。
誰もがスマホを取り出し、盤上を写メる。
棋譜帳に棋譜を書いてくれた人が、棋譜帳のコピーを済まして皆に配布する。
勿論、玄武と弓弦も貰える。
碁会所の壁には玄武と弓弦が対局した棋譜帳のコピーが貼られており、誰もが何時でも見れるようにされていた。
絲腥玄武
「 ──本因坊秀作か。
生きていないのが残念だな 」
厳蒔弓弦
「 今の本因坊は、桑畑本因坊と言うのだろう?
確か、20年も本因坊を守っているらしいな 」
絲腥玄武
「 20年か。
打ってみたい 」
厳蒔弓弦
「 プロになれば何時でも打てるのではないか? 」
絲腥玄武
「 そうだな。
11月末まで行われる冬季棋士採用試験で、プロ棋士に勝ち続けないとな 」
厳蒔弓弦
「 ──それにしても、この碁会所にも数体憑いてるな 」
絲腥玄武
「 あぁ……無害だから放置してはいるが、やはり黒い靄に見える 」
厳蒔弓弦
「 玄武でもか? 」
絲腥玄武
「 うむ。
彼方ならばハッキリと姿も見れるのだろうが── 」
厳蒔弓弦
「 裏野ハイツに憑いているおどろおどろしい靄が見えない人間には、碁会所に憑いてる靄には誰も気付けないのだろうな 」
絲腥玄武
「 弓弦の矢で射るわけにもいかないな 」
厳蒔弓弦
「 そうだな…。
下に埋まっている骨を掘り起こして出さない限り、靄はまた出る。
米●町で犯罪が多発するのも分かる気がするな…… 」
絲腥玄武
「 過去は戦場だったのだろう。
何処の土地も戦場だったのだろうが、米●町は特に酷い 」
厳蒔弓弦
「 セロが目を付けるのも頷ける 」
絲腥玄武
「 うむ。
毎日、必ず何処かで事件が起きて退屈しない町だからな 」
厳蒔弓弦
「 ──玄武は、この後どうする? 」
絲腥玄武
「 我──僕は昔の棋譜帳を見たいと思う。
本因坊秀作の棋譜帳の写しがあるらしいからな。
弓弦は? 」
厳蒔弓弦
「 わた──いや、オレは多面打ちしようと思う。
少しでも多くの人達と打ちたいからな 」
絲腥玄武
「 御互い、新しい自称には慣れぬな 」
厳蒔弓弦
「 確かに!
子供らしい言葉使いも難しい 」
玄武と弓弦は物騒な話をしつつ、笑いながら弁当を完食した。
玄武は受け付けで棋譜が保管されている資料室の鍵を借りる。
弓弦は希望者の6名を相手に多面打ちを始めた。
絲腥玄武
「 ──弓弦、そろそろ切り上げて帰ろう 」
厳蒔弓弦
「 もう時間か? 」
切りの付いた所で、6名との多面碁を切り上げた弓弦は帰り支度を始める。
玄武はその間、碁会所の外に見える青白い両足を見詰めていた。
厳蒔弓弦
「 ──待たせたな、玄武。
どうした? 」
絲腥玄武
「 弓弦、駅まで走るぞ 」
厳蒔弓弦
「 は?
急にどうした? 」
絲腥玄武
「 全速疾走だ。
ヤバいのが碁会所の出入り口に立っている 」
厳蒔弓弦
「 分かった 」
玄武は弓弦の手を強く握ると「 電車に間に合わないから! 」と言って走り出した。
碁会所の自動ドアが開くと玄武は青白い足には目も呉れず、一目散に最寄り駅へ向かう。
後ろは決して振り返らない。
“ 振り返ってはいけない ” と玄武の本能が囁いていた。
絲腥玄武
「( 面倒事に巻き込まれるのは御免だからな )」
碁会所の最寄り駅へ到着した玄武と弓弦は何時もの様にトイレへ入り、大人の姿に戻ると改札口へ向かい歩いた。
◎ 嫌ですよね、通っている碁会所で複数の黒い靄が見えていたら。
埋まっている人骨を掘り起こして、きちんと供養しないと黒い靄が消えない──とか。
ゾッとしませんか??