⭕ リンフォン 8
という訳で──、僕は切る必要のない印を大袈裟に印を切って見せながら陰陽術を発動させる。
天井に張り付いていた黒髪の地縛霊(仮)は光の玉となり、窓をすり抜けて彼方へ飛んで行った。
霄囹
「 良し、これで若女将の依頼は解決だな 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、この旅館の女将も浮気相手の子孫ですエリ。
憑いたりしませんエリ? 」
霄囹
「 あぁ、それは大丈夫だ。
僕が地縛霊(仮)を飛ばした先は、浮気相手が旅館を追い出された後に出会った男との間に産まれた子供の子供だからな! 」
キノコン
「 女将の異母弟の子供──甥っ子ですエリ! 」
霄囹
「 そうだな。
祖母に負けず劣らずのクズゲス野郎として多くの女性を泣かしてるよ 」
キノコン
「 地縛霊(仮)は追い出せましたエリ。
澱みは消し去りますエリ? 」
霄囹
「 そうだな~~。
この部屋の澱みを消し去るより、澱みの出所を見付けて絶つべきだな。
とある場所から、澱みが此処まで流れて来てるんだ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、澱みの元は何処にありますエリ? 」
霄囹
「 そうだったな。
キノコンや視聴者達には澱みは見えてないんだったな。
良し、一致ょ肉眼でも見える様にしてやるろう。
一寸待ってろ 」
そんな訳で──、僕は切る必要のない印を再び大袈裟に切って陰陽術を発動させる。
霄囹
「 どうだ?
これで宿泊室に集まっている澱みが見えるだろう? 」
キノコン
「 凄いですエリ、霄囹ちゃま!
めちゃんこハッキリ見えますエリ!
銭湯の煙突から出ている灰色の煙みたいですエリ! 」
霄囹
「 澱みを見てみろ。
廊下へ続いているだろう。
この澱みを辿れば、原因の場所へ辿り着けるって訳さ! 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、今から行きますエリ? 」
霄囹
「 そうだなぁ~~。
ひとっ風呂浴びる前に行ってみるか。
日が暮れると澱みは見え難くなるからな 」
キノコン
「 霄囹ちゃまが澱みの出所を清める瞬間を視聴者に見せれますエリ! 」
霄囹
「 まぁ、そうなるかな。
対した事はしないけどな 」
という訳で──、僕はキノコンを連れて宿泊室を出ると、澱みを辿る事にした。
──*──*──*── 宿泊旅館・敷地内
──*──*──*── 蔵の前
キノコン
「 霄囹ちゃま、立派な倉ですエリ。
澱みは倉の中から出てますエリ 」
霄囹
「 そうだな。
倉の中に澱みを生み出す原因が有るって事だ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、倉を開けますエリ? 」
霄囹
「 先ずは相談者の若女将に報告だな。
倉を開けるとなると女将の許可をもらう必要があるだろうな。
まぁ、澱みの原因を放置する事になっても僕は困らないからねぇ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、交渉に行きますエリ? 」
霄囹
「 取り敢えずな。
陰陽術で倉の鍵を開けて中へ入っても良いんだが──、生配信中だからねぇ。
視聴者達の前で犯罪は起こせないだろ? 」
キノコン
「 霄囹ちゃまの前科が増えちゃいますエリ★ 」
霄囹
「 キノコン!
僕は逮捕される様な事は未だしてないからな!
誤解される様な事を言わないでくれよ 」
キノコン
「 了解ですエリ★
倉の鍵を抉じ開けちゃいましょうエリ! 」
霄囹
「 女将から許可されたらな! 」
そんな訳で──、僕は動画配信中のキノコンを連れて、若女将の元へ向かった。
──*──*──*── 倉の中
キノコン
「 霄囹ちゃま、女将に倉を開けてもらえて良かったですエリ 」
霄囹
「 まぁな。
話の分かる女将で良かったよ 」
女将に倉の鍵を借りる事が出来て、倉の中へ入る事も出来た。
倉の中に入っている物が視聴者に見られない様に陰陽術を使い目隠ししている。
澱みは倉の地下から出ている。
陰陽術で土を掃くと、地下へ続く扉が出て来た。
霄囹
「 地下か。
埋められている可能性は低そうだな。
警察の出番かも知れないねぇ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、めちゃんこドキドキして来ましたエリ★
白骨死体と御対面しますエリね! 」
霄囹
「 ハッハッハッハッ!
それはどうかな? 」
僕は陰陽術で地下へ続く扉を開ける。
手で開けると汚れるからな!
持っていたハンカチを依り代にして、体が光る式神を呼び出す。
明かりの代わりだな。
僕の前にスマホで撮影しているキノコンが式神の明かりを頼りにして、地下へと続く階段を下りる。
キノコンと僕が地下に下りたのを見計らって、誰かが扉を閉じる可能性を考慮して、念の為に式神を倉の中へ残しておく。
考え過ぎかも知れないが、婚約者を殺害したのは旅館の跡取り息子だ。
旅館の跡取り息子が婚約者を殺害したってのに、当時は騒ぎにもならなかったし、事件にもならなかった。
明らかに旅館の中に息子の協力者──いや、共犯者になった奴等が居るってわけだ。
先祖代々から続く旅館の名誉を守る為、馬鹿息子の罪を世間から隠蔽する為、婚約者の死体を隠す手伝いを両親がした線も捨てきれない。
身内の恥を外に漏らさない為に死体遺棄の共犯者が家族って事は良くある話だ。
用心に越した事はない。
旅館に潜んでいる共犯者に見付からない様に、式神は目立たない場所で待機させておく。
扉を閉じられても転移陣で外に出られるんだけどねぇ。
キノコンの後に僕が階段を下りる。
──*──*──*── 地下室
キノコン
「 霄囹ちゃま、水色の入れ物が2つ有りますエリ 」
霄囹
「 う~~~ん。
これはコンクリートや肥料を混ぜる時に使われる作業用のロト舟だな。
中に入ってるのは肥料の入った土みたいだ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、倉の地下で野菜でも育ててますエリ? 」
霄囹
「 家庭内菜園をしてる様には見えなかったねぇ。
地下へ下りる扉は土を被って隠されていたんだからねぇ 」
キノコン
「 地下室の中にはプラスチック性のトロ舟と──、土の入っていた袋がありますエリ。
シャベルとスコップも有りますエリ。
霄囹ちゃま、肥料の袋も有りますエリ 」
霄囹
「 僕は園芸には興味無いけど──、どうやら旅館の跡取り息子に殺害された婚約者の死体は、このトロ舟の中で分解された様だねぇ。
トロ舟の中へ遺棄されて何十年も時間が立っているんだ。
特殊な薬や肥料を混ぜて使っている筈だから、すっかり土に溶けてしまっているだろう。
茸栽培でもしていれば怪しまれずに済んだかも知れないが、残念だったな。
僕に依頼したのが運の尽きだな 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、死体が溶けてしまった土を警察に調べさせますエリ? 」
霄囹
「 キノコン、僕は陰陽師だぞ★
陰陽術を使えば、土に溶けてしまった骨を元通りにする事なんて朝飯前だ!
婚約者を殺害した犯人も共犯者も既に亡くなっているから犯人逮捕は出来ないが、1つの未解決事件は解決する。
それに変わり果てた姿になってしまった婚約者も、家族の元へ帰れるんだ。
婚約者の両親も既に他界しているだろうから、引き取り手は実家を継いだ兄夫婦の子孫になるだろうが。
漸く彼女は出掛け先の旅館から実家へ帰宅する事が出来る。
両親の眠る墓に入る事が出来るんだ。
まぁ、兄夫婦の子孫から受け入れを拒否されなければの話だけどねぇ 」
キノコン
「 叔母さんになりますエリ。
受け入れてあげてほしいですエリ…… 」
霄囹
「 殺害された婚約者の実家事情なんて僕達には関係無いさ!
放っとけば良いし、気を止む必要も無いさ。
さてと、じゃあ早速、土に溶けてしまった死体を元に戻すとするかな! 」
キノコン
「 陰陽術って凄いですエリ~~。
めちゃんこワクワクしますエリ★
生配信もバズってますエリ~~ 」
霄囹
「 アッ~~~~ハッハッハッハッ!
僕は本物の陰陽師だからねぇ!!
他の陰陽師とは格が違うのさ! 」
生配信されているから大袈裟にカッコ良く、陰陽師らしく派手に印を切る!
僕が陰陽術を発動させるとトロ舟の中にバラバラに切断された肉の塊が現れた。
霄囹
「 バラバラ死体にしてから土の中で溶かしたみたいだねぇ。
人間って奴が1番の化け物かも知れないねぇ 」