⭕ リンフォン 7
キノコン
「 霄囹ちゃま、天井の隅っこに張り付いている黒髪の長い女も見えますエリ。
あれもリンフォンの怪奇現象の1つエリ? 」
霄囹
「 うん?
あぁ──あれは怪奇現象とは無関係だ。
この宿泊室に取り憑いてる地縛霊みたいなもんだな 」
マオキノ
「 地縛霊ですエリ?
霄囹ちゃま、地縛霊の憑いてる部屋に泊まりますエリ? 」
霄囹
「 僕は陰陽師だからねぇ。
旅館から “ いわく憑きの宿泊室があるから調べてほしい ” って依頼が入ったらしい 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、天井に張り付いている地縛霊を浄霊しますエリ? 」
霄囹
「 キノコン、陰陽師は浄霊なんて手間の掛かる面倒な手法で霊的存在を祓わないんだぞ。
手っ取り早く除霊するんだ。
反撃が出来ない様、ボロ雑巾みたいに式神でコテンパンに叩きのめして弱らせてから祓うのが陰陽師の手法さ! 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、めちゃんこ悪い人みたいですエリ~~ 」
霄囹
「 陰陽師はどんな霊的存在,異形や怪異の類いにも差別する事なく平等に除霊するのさ!
生き霊を飛ばす様なけしからん奴には、呪術を掛けた生き霊を戻してやるんだぞ。
優しいだろう? 」
マオキノ
「 霄囹ちゃま、めちゃんこ悪い顔してますエリ 」
霄囹
「 ハッハッハッハッ!
そう褒めるなよ、キノコン。
気分が良いから、この宿泊室に憑いてる地縛霊の事をキノコンと視聴者達にも教えてやろう。
特別だぞぉ! 」
マオキノ
「 教えてくださいエリ!
めちゃんこ気になりますエリ 」
霄囹
「 よしよし、キノコン。
僕じゃなくて、地縛霊を撮すんだぞ 」
キノコン
「 バッチリ撮ってますエリ 」
霄囹
「 天井に張り付いている霊的存在は、この宿泊室で婚約者に騙され、殺された女の残留思霊体だ。
残留思念体だったが、長い時間澱みに当たり、残留思霊体となった。
現在は地縛霊(仮)みたいな状態だ。
完全な地縛霊になると、並みの霊能力者や悪魔祓いでは簡単に祓えなくなる。
僕なら地縛霊も簡単に祓えるけどねぇ! 」
マオキノ
「 霄囹ちゃまが凄いのは登録者達や視聴者達は存じてますエリ 」
霄囹
「 コイツには結納を済ませ、結婚式を控えていた婚約者が居た。
だが、この婚約者には浮気相手が居た。
浮気相手と結婚すれば悲劇は起きなかっただろうが、厳格な父親と世間体を気にする母親に逆らえず、両親が選んだ好きでもない女と婚約する事になった。
結納を終えても男は浮気相手と別れる事はなかった 」
キノコン
「 最低なゲス野郎ですエリ 」
霄囹
「 そう言うな、キノコン。
男ってのは浮気してでも自分の種を蒔き散らしたい生物なんだ。
浮気相手に自分の種を蒔いたのは、婚約者との婚前交渉を両親から禁止されていたからだ。
婚約者に種を蒔けていたら、男も浮気相手に種を蒔いたりは──いや、するな。
男は色んな畑に種を蒔き散らしたい欲望を抱いているからな!
節操と理性と誠実さを欠いたクズゲス野郎だった──って事にしとこう 」
キノコン
「 男は羊の皮を被ったケダモノでしたエリ 」
霄囹
「 結納を済ませ、結婚式を控えていた矢先、浮気相手の妊娠が発覚した。
浮気相手と結婚を考えていた男は、婚約者を独身最後の婚前旅行に誘った。
女は迷ったが必死な婚約者の誘いに折れてしまった。
断っていたら別の形で殺害されていただろう 」
キノコン
「 婚約者を殺害する目的で独身最後の婚前旅行に誘いましたエリ? 」
霄囹
「 男ってのは、結納を済ませた好きでもない処女の婚約者より、妊娠させた非処女ビッチを選ぶもんさ。
好意を抱けない処女なんて面倒臭い女よりも、簡単に股を開いて自分を受け入れてくれる相思相愛のビッチの方が可愛く見えるもんさ。
愛しさすら芽生えて来るもんだ。
自分が彼女と授かった子供を守らないと!──みたいに正義感が芽生えたんだろうねぇ。
障害となり邪魔な存在でもある婚約者を排除する結論に至った訳だな 」
キノコン
「 理不尽で身勝手過ぎますエリ 」
霄囹
「 そう言ってやるなよ、キノコン。
視野が狭くて周りが見えなくなっていたんだ。
恋は人を盲目にさせるからな、正常な判断を出来なくなるんだ。
方向性を見誤った防衛本能さ。
男は両親が経営している旅館に婚約者と泊まる部屋を用意した。
それがこの部屋さ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、クズゲス野郎は旅館の跡取り息子でしたエリ? 」
霄囹
「 そうだぞ。
男に殺害されず、男と結婚していれば、彼女は旅館の女将になっていただろう。
だが、そうはならなかった。
男は婚約者に睡眠薬入りの珈琲を飲ませ、朦朧とする婚約者の顔を濡れたバスタオルで覆い、大きめの紙袋を被せると、御丁寧にも婚約者の処女を奪った 」
キノコン
「 クズゲス野郎は、ヤりながら殺った訳ですエリ。
最低ですエリ~~ 」
霄囹
「 殺害した婚約者の遺体を男がどうしたのか僕は知らない。
見事に弊害となる邪魔者な婚約者を亡き者にした男は、浮気相手と結婚した。
浮気相手は女将になる事を嫌がり、旅館の仕事には一切関わる事なく離れで自由気儘に過ごしていた。
夫には見向きしなくなり、出産した子供は夫の両親に丸投げし、子育てを放棄して、好き勝手に遊び回り、何人もの恋人を作っては人生を謳歌して楽しんでいた 」
キノコン
「 男がクズゲスなら浮気相手もクズゲスでしたエリ 」
霄囹
「 そうだな。
“ 類は友を呼ぶ ” って言うからな。
クズゲス同士で気が合ったんだろう。
男は妻に不満を抱いていたが、浮気相手と産まれて来る子供の為を思い、何の非もなかった婚約者を殺害した後ろめたさがあった。
男の恋人を何人も作り、遊び歩く妻に偉そうな事を言える資格は男には無かった。
自分の浅はかな身勝手さで婚約者を殺害した人殺しの犯罪者が、妻に何が言えるって言うんだ?
夫婦仲は完全に冷めきっていた。
そんなある日、男は旅館の庭園の中にある池から水死体で発見された。
全身に黒髪がビッシリと絡まった状態でだ。
雪の降る寒い朝方の事だった 」
キノコン
「 男は呪い殺されましたエリ? 」
霄囹
「 呪いなんてのは人間が勝手に呼んでるだけさ。
男が池の中から水死体で発見されたのは、怪異の悪戯さ。
警察が到着した時には男の全身に絡まっていた黒髪が綺麗さっぱりと消えていたって言うんだからねぇ 」
キノコン
「 怪奇現象ですエリ! 」
霄囹
「 因みに男に処女を奪われ、殺された婚約者だけど──、当時は未だ残留思念体だ。
何も出来ず、殺害された部屋の中で静かに佇んでいる事しか出来ない状態だった。
残留思念体も残留思霊体も心霊現象を起こせない存在だ 」
キノコン
「 旅館の跡取り息子が死んだ後は、どうなりましたエリ? 」
霄囹
「 旅館に貢献しない女は離れからも旅館からも追い出されたよ。
育児放棄をして遊び歩き、男遊びばかりしていた女だ。
収入も無い。
親権なんて認められる筈もない。
親権剥奪された女は旅館も出禁になった。
子供は旅館の跡取りとして男の両親に育てられる事になった。
跡取りと言っても女子だからな、現在は女将として旅館に人生を捧げて生きてるよ 」
キノコン
「 この旅館の女将になってますエリ? 」
霄囹
「 あぁ、今は若女将を育てる為に毎日ハッスルしてるよ。
依頼人は若女将でねぇ、“ 気味の悪い部屋を調べてほしい ” って言われたのさ 」
キノコン
「 それがこの “ いわく憑きの宿泊室 ” ですエリ? 」
霄囹
「 そういう事だな。
怪奇現象起きてる事で、室内に澱みが集まり易くなっているんだ。
地縛霊(仮)の姿が変わって来ているのが見ても分かるだろう?
澱みの力を甘く見ない事だ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、どうやって澱みを消し去りますエリ? 」
霄囹
「 結界を張り、正しい供養をして、清めるんだ。
花や供え物,手を合わせて冥福を祈るのは、墓を訪ねて済ませる様に心掛ける必要がある。
事故現場に花,供え物を続け、手を合わせる人間が居ると、澱みが集まる。
霊観の弱い一般人の目には澱みは見えないからな、自分が間違った事をしている意識も認識も自覚も抱き難いんだ。
其処に佇む残留思念体が残留思念霊体となり、澱みの悪影響を受けて地縛霊となり、悪霊に成り変わり、様々な厄災を引き起こす起こす。
事故現場で事故が繰り返される原因だな。
人知で良かれと思ってしている行為が、実は知らず知らずに厄災を引き起こす貢献をしている事に気付いてない人間は実に多いんだ 」
キノコン
「 鼬ごっこを繰り返す事になりますエリ? 」
霄囹
「 そうだな。
人間ってのは、故人の遺骨が納骨されてる墓へ参りに行くより、事故現場に花や供え物をして参りたがる可怪しな種族なのさ。
何の為に墓を建てるのか理解してない奴等が多いんだ。
教わる機会も場所も無いんだろうな。
自分の先祖の事を詳しく知らない子供が多いし、先祖事に取り組むのを面倒臭がったり、嫌がり避けて関わらない様にしている両親も多い。
更には散骨やら樹木葬やら墓仕舞いなんていう先祖を粗末にする罰当たりな行為を寺や神社が賛同し、国民に推進している世の中だ。
身勝手な親の子殺しは昔から良くあったが、子供の親殺しが増加したのは、世の中が乱れて来たからだ。
自然災害が頻発しても人間は文句を言える立場じゃないねぇ。
知らず知らずに自然淘汰されてるのさ 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、この部屋の澱みは清めますエリ? 」
霄囹
「 出来なくはないけど、正しい供養ってのは面倒なんだよねぇ~~。
除霊するのも面倒だから、地縛霊(仮)は浮気相手の子孫へ飛ばしてやるよ。
子孫はロクデナシに育ってて、悪さばかりしてる様だかねぇ。
カモをゲットだ! 」
キノコン
「 霄囹ちゃま、新たなカモをゲットする為に地縛霊(仮)を利用するなんて痺れますエリ★ 」
霄囹
「 ハッハッハッハッ!
もっと褒めて良いぞ、キノコン! 」