第一章 1-6 「異世界という事実を知った時」
シスターのリリアンはこれまでの状況を説明してくれた。
「ここは、王都フロートリアの国立病院。あなたはビジュマラの森で魔物、ゴブトカブトの巣に捕らえられていたのです。間一髪で王国軍精鋭部隊、フロートリアガーディアンに救われ、道中、気を失ったようです。
そのあとはフロートリアガーディアンに連れられて、ここ、国立病院へ運び込まれました。
あなたはは比較的軽症でしたので、薬剤で処置を行っています。
ただ他2人、同時に運ばれた方々は、残念ながら運ばれてきた際には既に...お亡くなりになっていました」
「そんな....さっきまで懸命に生きようとしていたのに」
「よくあることです。彼らは内臓が潰されていました。あの状態で蘇生するのはかなり難しかったでしょう。」
「俺、こんな身近に人が死ぬなんて初めてだ...しかもこんな残酷な死に方なんて、、俺と同じように、たまたま森に入っただけかもしれないのに、生きようとしていたのに、、酷すぎる...」
「死に際に会うのは初めてなのですか、不思議ですね。良い御身分なのでしょうか。
あなたのお名前は?出生はどちらですか?」
「俺は伊藤シンイチ。千葉県出身、日本人です。」
「千葉県?日本?聞いたことないですね。それがあなたの出生ということですね」
「ここは日本じゃないんですね。そして、地球上のどこでもない。」
「地球という土地も聞いたことないですね」
「人間が生きている星、大地の名前です」
「そうですか」
「どうやったら帰れますか?」
「地球、日本にですか」
「そうです」
「私は聞いたことありませんし、分かりません」
「どうして!!
さっきまでアスカと、友達と一緒に遊んでいたんです!なのに気づいたら知らない森にいて、巨大な生き物に追いかけられて、捕まった!先に捕まっていた人たちは血まみれで、身体が曲がっていて、肉が削がれて、白骨化している人もいた!みんな殺されていた!一歩間違えたら俺も死んでいた!実際、死にそうになって、身体はボロボロだ。」
「そうですか。可哀想ですが、あなたは混乱しているようですね...落ち着くまでここにいて構いませんよ」
「なんで、、信じられないですか?俺の話が!」
「信じるも信じないも私は知らないのです。教えて頂けませんか?」
「なんで、、知らないんだ、、」
俺は、涙で顔を上げられなかった。
異世界って夢のある話だと思ったよ。
俺も異世界に転生して『俺つええええ』ってやりたかったさ。
でもそんなの物語の話さ。
無理だよ。
簡単に人が死ぬんだよ。
自分だって死ぬかもしれない。
傷ついたら痛いし、魔法でも簡単に治らない。
内臓が潰れたら戻せないらしい。
そんなんじゃ戦うなんて無理じゃないか。
それに、元の世界にやり残した事が多すぎる。
アスカ。。
元の世界に戻れないなら、告白なんてしないで最後まで一緒に帰れば良かったかな。
会いたいなぁ。
俺を慰めて欲しい。
あいつはみんなに優しいんだ。
ちょっと照れ屋だけど、それが可愛いんだ。
「...すみません、1人にさせてください。」
「わかりました。何かあったら呼んでください。」