第一章 1-4 「はじめての魔法」
轟々と燃え盛る炎の中から何者かが近づいてきた。
それは男女2人組の人間だった。
「まだ生きている者が居るのか」
女性が俺の方を向いて、呪文を唱えた。
「零下の防壁 アイシクルウォール」
俺の周りの大気温度が一気に下がった気がした。
男性の方は俺たちの容体を見てくれている。
そして女性はそのまま魔物に対して
「業火の渦動舞い上がれ ファイアウェイブ」
先ほどよりも大きな炎があたりを包みこんだ。
一瞬だった。恐ろしい魔物の群れを一瞬で倒した。
この人は最強だと思った。
全ての魔物が焼け死んだ後、炎は鎮火された。
魔物に捕らえられていた人間で、原型を留めていたのは8人。そのうち5人は死んでいた。生きていたのは俺の他に2人だった。2人の息はわずかで、四肢が脱臼、骨折、一部肉が削がれており、内臓が潰されていた。あと少し救助が遅れていたら死んでいた。
そして、俺もそうなっていただろう。
俺自身は多少の傷と火傷で済んだ。勿論すごい痛い。痕が残りそうだ。けど、重傷者2人を前に泣き言は言えなかった。
現れた2人の人物は、魔物に捕らえられていた重症な2人の応急処置をしていた。折れ曲がった四肢を戻し固定、出血箇所を焼き閉じた。
男性も何か呪文を唱えていた。回復系魔法なのだろうか。重傷者が先ほどよりも安らいだように感じた。
俺に対しても気にかけてくれた。
男性は俺に手を近づけて呪文を唱えた。
「かの者に活力を与えよ ヒーリング」
痛みが和らいだ気がした。
しかし俺は恐怖で何も言えなかった。
かろうじて、ありがとうございますとだけ言えた。
街へ向かうというので着いていくことにした。
もうこんな森には居られない。