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第87羽 ちいさくなる

お久しぶりです。いつもご愛読ありがとうございます。

 

「あ……」


 もう戦う必要がなくなった。そう認識し、安堵すると同時に空の上で私の体がグラリと傾いた。


『おっと』


 体から力が抜け、あわや自由落下かと肝が冷えたところでお母様の翼に受け止められた。危なかったです……。


「ありがとうございます、お母様。なんだか急に力が抜けてしまって」


 感謝の言葉を伝えてお母様の翼の上でクタリと脱力する。体が重いし眠いです。


『それはそうだろう。普通は進化するタイミングで睡眠を取ることで体力の消耗を軽減させ、同時に回復もするのだ。それをお前は戦闘中に眠らずに進化、「踏破越到(リープオーバー)」したのだから疲れていて当然だ』


「リープオーバーって一体何なのですか?」


『眠らずに戦闘中に進化することを「踏破越到(リープオーバー)」と言う。様々な条件下でようやく起こりうるごく稀な進化だ。普通はできん』


「そう……なんですね……」


 お母様の声を聞きながらも船を漕ぐように頭が揺れる。まぶたにネオジム磁石でも入っているのかも知れません。それともメリィさんが悪戯でもしに来たのでしょうか。それなら捕まえないと……。


『限界のようだな。その話は今度しよう。ほら』


「あう……」


 私の様子に苦笑したお母様が私を背中に乗せた。


『帰るぞ。さっきお前の様子に驚いて巣の周辺に置いてきた風の結界を解いてしまったからな。急がなくては。お前はそこで眠っていろ』


「わかりました……」


 ぼやけた思考で何となくお母様の言葉を理解すると槍をしまって人化を解除する。体を丸めればふかふかで最高の羽毛布団がそこに。


『我を布団扱いか。起きたら覚えておけよ?』


『ふぁい……』


 その会話を最後に私の意識はゆっくりと溶けていった。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 



「――――小さくなぁれ♪」






『あいたっ!?』


 暖かで心地よい眠りが突然の浮遊感と直後の衝撃に破られた。いてて……、なんで私はここにいるんでしたっけ?


 翼で目元を擦りつつ寝ぼけまなこで周りを見渡せば、巨大な枝に生い茂る緑の葉。周りのほぼ全てが見渡せるほどの高さ。足下は重厚な木の幹が。

 どうやら私達の巣がある巨大な木の上、その枝の一つにいるのがわかった。


 直前の記憶がジワジワと思いされてくる。確か南の大陸に帰ってきて、家のある森を探していたところでお母様と再会。良くわからない理由で戦闘して……。


 思い出しました。あまりに眠すぎてお母様の羽毛を布団扱いしてしまったのでした。仕方ないではないですか。あまりに極上のふかふかで暖かいんですよ?


『お母様? 布団扱いしてしまったからと言って振り落とすなんて酷いですよ?……お母様?』


 念話で呼びかけても返事がない。特定の誰かにピンポイントで言葉を送っている訳でもなく、広範囲に語りかけているので遠くにいない限り声は届くはず。それに遠くから見てもすぐわかるお母様の大きな体が見当たりません。


 う~ん、飛んでいる最中にお母様が誤って落としてしまったのでしょうか。考えていても仕方ありません。巣があるのはもっと上のはずなので飛んで行ってみましょうか。

 未だ重い体を起こし、飛び立とうと脚と翼に力を込めた途端。


『な、なんだこれは!?』


 驚愕したような念話が聞こえてきた。見れば私を同じくらいの大きさの純白の翼を持つ鳥の魔物が慌てふためいていました。

 念話が聞こえてくるまで全く気がつきませんでした。お母様の大きな姿を探すために視線が上向きだったとはいえ気づかないとはかなり疲れていますね……。

 それにしてもどなたでしょうか?純白の鳥の魔物……。う~ん、弟妹にはこんな子はいなかったはずですが……。


『もしもし?どうかされたのですか?』


 とりあえず話を聞いてみようと声をかけると、翼で肩辺りをガバッと掴まれた。……どうやってるんですかそれ?まるで指みたいに……。


『これはどう言う事だ!!なにがどうなっているかわかるか!?』


 狂乱してまくし立てる彼女の言っていることは全く理解できません。それにまるで知り合いみたいな雰囲気です。


『よくわからないのですが、えっと、どなたですか?』


 そう答えると彼女の表情がポカンとしたと思ったらみるみる怒りの色に染まっていく。あれ? なにか失敗しました?


『お、お前の母だ!! バカ娘が!!』


『ああ、お母様なのですね。その態度も納得……ん?』


 お母様……?お母様とはお母様のことでしょうか。 それともお母様? つまりお母様? それはなんてお母様?


 数秒の後、空回りする脳みそでようやく意味を理解した私は驚愕に目を見張った。


『え……ええ!?う、嘘でしょう!? 本当にお母様なのですか!?』


『だからそう言っているだろうが!』


 その後事実関係を確認するために話してみると確かにお母様でした。あの尊大な態度は他人にはそう真似できません。わかりやすいですね。


『何を考えている』


『あ、あはは。なんでもないですよ?』


 態度はそのままに小さくなったお母様は不機嫌そうにこちらをジロリと睨んだ。勘が鋭いですね……。


『……我はお前が人化を解いたらすぐにわかったというのに、お前は我が小さくなった程度でわからなくなるんだな』


『うえ!? ご、ごめんなさい』


 思わぬところに飛び火しちゃいました。私が気づけなかったのが結構ショックだったのでしょうか?


『全くお前と来たら……。蛇の時は止めろと言ったのに勝手に行く。探そうにも探知の範囲から出る。帰ってくるどころか南の大陸全部回っても範囲に入らない。挙句には珍妙な能力で死んだと誤解させる。そして我に気づかない。お前は馬鹿だ。バカ娘め!!』


 ――――カッチーン。


『あ、謝ったじゃないですか! そこまで言うことないでしょう!? お母様だって私が人化してるときは私だってわかってなかったし、その後馬鹿みたいな理由で戦いをしかけてきたくせに!! 姿に引っ張られて態度まで小さくなってるんじゃないですか!?』


『なんだと!?』


『なんですか!?』


 お母様のあんまりな言い様に額を押しつけて睨み付ける。気づけば体が勝手に翼を広げて威嚇していた。お母様も同じようにしています。


 私だって疲れていますが、小さくなったお母様くらいけちょんけちょんにしてやりますよ!!


 押し返される額を負けじと力を込めて拮抗させる。単なる意地の張り合いですが……負けない!!


『……おや?』


 額押し相撲でお母様とバトッていると上空からヒュウと何かが落ちてくる音が聞こえた。それは木屑を巻き上げて私とお母様の目の前に着地すると手に持っていた何かを側に放り捨てて口を開いた。


「くひゃひゃ、こりゃあ良い。天帝が戻ってきた時はどうしたものかと思ったが、なかなかどうして使えるじゃねえか。なあ、人間?」


「教祖様ぁ~。こんなのとブッキングするなんて聞いてないですよぉ」


 それはこちらを見下すように嗤う男体のコアイマと、身の丈以上の大槌を担いだ女の子だった。

 そしてそれを見た私達の心は同じでした。すなわち――――


『邪魔ですねこいつら』『邪魔だなこいつら』と。


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