第84羽 vs天帝 その3
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『再び一度この距離まで近づかれるとは思っていなかった。もう一度聞こう、さっきのはどうやった?』
『もう一度言います。教えるわけないでしょう?』
言ってしまうと有効性がかなり薄れてしまいますから。
闘気には自身の魔力に対する親和性と、他者の魔力を拒絶する性質があります。今回役立ったのはその拒絶する性質の方。
お母様の使っていた羽の水砲弾に私の闘気を送り込みました。魔法の中に他者の魔力を拒絶する闘気を送り込めばどうなるか。その答えは先ほど見た通り。
魔法の構成を切り崩し、内側から崩壊させたのです。最初は槍で受け流したときにそのまま。次は打ち込んだ羽に込められていた闘気で。
槍での受け流しの時に構成を崩壊させるのに必要な闘気の量を割り出すことができました。次からはさっきのように羽に込めた闘気で水砲弾は砲壊させることができるでしょう。もっとも別の技だったり、水砲弾にしても大きく規模を変えられると砲壊させるのに必要な闘気の量が変わってしまいますが。
やっていることを言ってしまえばばれる可能性がありますが、黙っていればさすがにわからないでしょう。
羽水砲弾が有効ではないと思って貰うだけで十分、他の技も有効でないと警戒して貰えれば御の字。正体不明の見せ札としてしばらく機能してくれるでしょう。
『言う気はないか……。ならば無理矢理聞くとしよう』
『随分……過激ですねッ!!』
つばぜり合いの様な状況から一転。不可思議な飛行方法をしながら振るわれる翼。まるで巨大な双剣のように左右から襲い来る翼を槍と足で捌きいていく。
頭上から迫る翼を槍で後ろに滑らせるように受け流し、反対から迫った翼を闘気をまとった足で外に弾く。次いで下から掬い上げられた翼が見え闘気の出力を上げる。【回舞】で弾こうとして力負けを悟り、自分が反動で動くように調整して難を逃れた。
力では負けている。速さでも負けている。
でも、接近戦の技量では負けていない……!!
『……こうやってまともにぶつかるのも案外悪くないものだな。普段戦うときはまともに触れることもないからな』
それはお母様ほど強ければ敵なんて、文字通り吹けば飛ぶように感じるのでしょうよ……!!
嵐の様な攻撃を受け流しながらも、闘気を次々生成して『氣装纏鎧』と『氣装纏武』に送り込む。現在の拮抗の生命線です。切らすわけにはいきません。受け流しに戦撃も使っているので闘気はゴリゴリ減っていきます。比例して生命力も。
そんな中、お母様を観察していて一つのことに気づきました。
それはお母様の羽が実に柔らかそうに風に揺らいでいることです……!!
……ふざけている訳ではありませんよ?
私と打ち合っているときの翼の羽は風を受けても全く揺らいでいませんが、胴体の羽は動いています。翼の羽は私の槍と打ち合っても微動だにもしないけれど、胴体の羽は風にすら揺らぐ。つまり胴体は硬くなっていない可能性が高い。
そこまではわかった。意表を突いて硬化している場所以外を攻撃することができればダメージを与えることができるでしょう。
そうすればお母様に私だと認めさせることができるかも知れない……!!
『空の息吹』。
このスキルのおかげで私が激しく動き回っても息切れすることなく、この戦いに着いていくことができている。
常に肺に空気を送り、無尽蔵のスタミナをもたらす鳥の魔物の能力。戦いの合間に呼吸を挟む事なく常に全力で動き回れる、人間には獲得不可能な強力なスキル。
そこまで考えたところで吐息に熱が籠もる。
そう、熱だ。熱が邪魔をする。スタミナだけで考えると全力を出し続ける事のできる破格なスキルだが、鳥は汗をほとんどかかないため全力を出し続けると体が冷却できず、どうしても熱が溜まっていく。
生き物が動くためには熱は必要だ。激しい運動の前に体を温めるとパフォーマンスが向上するように熱は必要なものだ。しかし過ぎたるは及ばざるがごとし。
溜まりすぎた熱は体の動きを鈍らせ、重しとなる。
『氣装纏鎧』を使えるようになったことで能力が引き上げられ、普段以上の力で戦う事ができるようになりました。しかしその分体の熱は多く溜まるということです。無視して動くことはできますが、咄嗟の動きに差が出てしまう。
あと一歩の所で攻撃に踏み切れない。お母様の攻撃を捌く為の動きに遅れが出てきた。ヒヤリとする場面も増えている。この熱がなければもっと動き続けられるのに……!!
『どうした? 動きが鈍くなっているぞ』
「くッ!?」
コマの様に回転して高速で打ち付けられた翼を受け損なってしまった。体が後ろに押し流される。マズい、距離が開く。
私の隙を逃さず羽を放ってくるお母様。魔力の籠もっていない通常の羽。私の闘気にかき消されることを警戒したのでしょう。
また接近するのは大変です。距離を取られすぎないように羽を捌いていくものの。
「数が多い……!!」
このまま負傷覚悟で前進するか、一旦後退するか。数十を打ち落とした所で決断を下した。負傷はソウルボードに設定した『吸血鬼』の能力で回復可能でしょう。
しかし私は下がることを選んだ。
このまま突っ込んでも有効打を決めることができる確率は低いから。さっき攻撃に踏み切れなかったのに羽を抜けて消耗した所でできるとは思えません。今は無理な消耗を避けるべきでしょう。一旦距離を取って熱の冷却を試みます。
それに魔法をまとった羽を使わなかったので、しばらくは羽での強力な遠距離攻撃はないでしょう。ただの羽での攻撃なら距離を取っても凌ぐことはできます。
……そう思っていた時期が私にもありました。
『お前の厄介なさっきのに、これは消せるか? 《羽天》――――』
「!? ……どこを狙っているんですか?」
お母様が上に向けて翼を振るう。予想を裏切られて発射された魔法をまとった羽。しかし放たれた羽はそのまま雲に飲み込まれて消えていった。まるでそれは私を狙っていないように見えました。
それでもお母様が無意味なことをするとは思えません。何をしているのか訝しみつつも、迅速に対応できるように身構えることは忘れない。
その数秒後現れたその光景に目を見張った。
「はい……?」
『―――《墜星》』
嵐の中、雲を切り裂いて燃えさかる岩が招来する。一つだけではない。二つ、三つと増えていき、数え切れないほどになった。
空から降る燃える岩の群れ、すなわち流星群。普通は燃え尽きるのを眺めるだけの美しい景色のはずのそれは、しかし迫り来れば大災害だ。
『天気を操るんじゃなかったんですか!?』
『ふむ、今日の天気は雨時々――――星だ』
『天気に流星群があってたまりますか!?』
『――――我故に天在りて、天すなわち我なり。 天気は”天”たる我が決める。お前ではない』
それよりもと、災害を降り注がせたお母様は蘭々と輝かせた目を私に向けて問いかけた。
『これにはどう対応する?』
その前に雲の切れ間から入ってくる太陽光が痛いんですけど!?
・補足
普段魔法を壊さないのは普通に弾いた方が簡単だからです。魔法に闘気を送り込むより消費も少ないですし。
ちなみに他者に闘気を送り込むと、対象の生命力に闘気が中和され相手が元気になります。利敵行為ですね。死にかけなら中和されずに魔法が使いにくくなりますが倒すなら殴った方が早いです。捕縛に使えるかな?まああんまり使わんですね。