第81羽 これはガバ
ブクマありがとうございます!
題名変えてみました。
―――やっと。やっと再会することができた。
眼前で力強く羽ばたくお母様。その姿は記憶のままで。
最後に見たときの傷も特にないようで安心しました。
ただ少し違うのが重圧のようなものがより強く感じられる点でしょうか。龍帝が言っていた私が知るお母様が弱っていたという言葉は真実だったのでしょう。
しかし今は聞かなくてはならないことがあります。
「……なぜ街を襲うようなマネを?」
お母様は魔物です。価値観が人とは違います。そして強大な力を持っている。そんな強者は往々にして、弱者の立場にある人間を下に見ることがあります。
短い間ですが一緒に過ごす中で母様にもその傾向が見られました。それ自体は……良くはないですけど別にいいです。ただ、お母様には強さに応じた誇りも持ち合わせており、少なくとも快楽的に人間を殺そうとするような性格でもないと思っています。
こんな大量虐殺未遂を理由なく実行するとは思えません。
ああ、でも。私は理由があって欲しいのか、なくて欲しいのかもうわからないのです。だって理由があるのなら、街を消し飛ばそうとするほどのことだから。
『……知れた事よ。我が子が人間のせいで死んだ。その報復だ』
「は……」
吐き出された息が吸い込めない。頭が真っ白になる。そんな……。
もしかしてと思った。
覚悟はしていたつもりだった。フレイさんと最後に話していたときに覚悟は終わったと思っていた。でも今、やはり私の脳は現実を理解することを拒んだ。
なんど転生しても大切な人の死は慣れることはない。心を蝕む毒のようなものだ。
震える唇をなんとか動かして問う。
「人が……殺したんですか……?」
そうだとしたら……私は―――。
『厳密には違う。人の妨害で我が子を助けられなかった。邪魔をされて間に合わなかった。……我の力不足だ。それは認めよう。だがそれでも―――』
吹き荒れる嵐がその猛威を増す。
やるせなさと怒りが混じった言葉が紡がれた。
『―――人を許せない』
そう言ったお母様はその実、怒りの矛先はほとんどが自分に向いている。
……わかります。だって私も同じだから。
大切な誰かを守れなかったとき。
自分が憎くて許せなくて、それでも死ねないから。
耐えられない怒りを、湧き上がり続ける怒りを誰かにぶつけないと壊れてしまいそうになる。いっそ壊れてしまえばどれだけ楽だっただろうか。
原因の一端となった何かに責任を被せて、悪いのはお前だと。大切な人がいなくなった現実から目を背けて。
それで滅ぼしても。きっと自分は許せないまま。
だって私はそうだったから。
『我は何者にも揺らがされる事のない”天”だ。その我がまさか我よりも小さな者に揺るがされようとは思いもしなかった』
自嘲するように笑うお母様。だからこそ私はお母様を止めなくてはならない。
無関係な者を巻き込んではいけない。それをすれば被害を受けた誰かの報復が必ず訪れる。なにより自身が同じレベルに墜ちることになるから。
復讐を全てにしてもいけない。それをすれば復讐の終わりが人生の終わりを意味します。復讐はあくまでも精算。リセットして再び歩み始めるための行為です。……受け売りですけどね。
まあ、私が言えたことではないかと自嘲する。
私がこうやって冷静に考えていられるのもお母様が怒っているのを見ているから。目の前に怒っている人がいると、人間水をかけられたように冷静になるなるものです。
私も兄弟姉妹の誰かが死ぬ原因になった奴は許せません。
一旦落ち着いたら、一緒に復讐しましょう。詳しく話を聞いて、関係のある奴に地獄を見せて根絶やしにするのです。
『”天”として罰を人間に与えよう。それが―――』
そのために先ずは私はお母様を止めなくてはならない。独白を続けるお母様に向き直る。
『我が娘、メルシュナーダへの手向けとなろう』
うん。
うん……?聞き間違いかな……?
「えっと。今、誰の手向けって言いましたか?」
『面倒だな貴様。我が娘、メルシュナーダだ』
……?
…………????
……それは私では?あれ、私の名前ってメルシュナーダでしたよね??
違いましたっけ?なんだか自信なくなってきました……。
いやいやいや、私はメルシュナーダです。ミルとお母様に着けて貰った名前ですから間違えるはずありません。
もしかして、私だとお母様に気づかれてない?
とりあえず話を聞いてみましょう。
「確か失せ物探しの魔法がありましたよね?」
ギロリと睨まれた。
ヒエッ……!!コワイ……。
『貴様、なぜ知っている……?まあ良い、教えてやろう。我の探知の魔法は一定距離を離れると場所が特定できなくなる。存在は確認できるのだ。だが、約2週間前だ。探知に反応すらなくなった』
私のこと、ちゃんと探してくれてたんですね。良かった。迎えに来てくれなかったのは探知の範囲のせいだったんですね。
しかし反応がなくなったとはどう言う事でしょうか? 2週間前……?
『最初は何かの間違いだと思った。次は我が知らないような反応がなくなる術、もしくは場所でもあるのかと。しかしどれだけ待っても反応は復活することはなかった。もう、あのバカ娘はいないんだ……!!』
感情の揺れと共に吹き付けられる風の力も強くなる。吹き飛ばされないように耐えつつお母様の言葉について考えを巡らせた。
2週間前と言えば何をしていたでしょうか。確か……パルクナットにはいましたよね。フレイさん達と出会った後くらいでしょうか。
当時のことを辿るように記憶を掘り起こしていく。
冒険者ギルドで従魔登録して貰って、街で数日過ごしました。人類の文化も教えてもらって、大陸の場所も探していました。お世話になっているお礼のためにもフレイさん達の調査を手伝って……そうそう、いつの間にかソウルボードに『呪人族』が復活していて……。
ん……?何かにたどり着けそうな……。
ソウルボード……『呪人族』……呪術耐性……、あっ。
……えっと、原因がわかりました。私の持つ、呪術耐性です。
呪術耐性の効果はこうです。「体調を悪くしたり直接干渉してきたりするような魔法、魔術に耐性を持つ」
お母様の探知の魔法は私の居場所を何らかの方法で特定して、その場所を知らせるものです。
その特定する段階で私の呪術耐性がレジストしてしまった。そういうことなのではないでしょうか。
……。
…………。
………………えっと。
もしかして今の状況って、私のせいですか?
……いやいやいやいや、待ってください!予測できないでしょうこんなの!?
よく考えると探知は敵に使われた場合かなり厄介な効果の魔法ですよ?逃げても場所はすぐにバレ、倒そうにも接近には気づかれるので逃げられてしまいます。レジストするのは当然の効果です。
でも味方に使われるとありがたい効果であることは確か。私が視野に入れていたのもそっちの効果なのでレジストされるような魔法だとは思ってもいなかったんですよ。
お母様の探知を呪術耐性でレジストするなんて思いつきももしなかったですし、それが街消滅の引き金になるなんて、だれが気づけるんですか? だれも気づかないでしょう!?
とある世界でこんな話があります。
敵国同士の国境の睨み合いの最前線にて。トイレに行くことを伝えずに消えた兵士がいました。それに気づいた仲間が、「敵国の奴がさらった!!」と勘違いして突撃して戦争の引き金に。
それに似た何かを感じます。もしこれで到着がもう少し遅くて街が消えていたらと考えるとゾッと背筋が凍る。腹を切っても詫びきれないですよ……。冷や汗がダラダラと流れ落ちる。
と、とにかく全て未だ未遂です。お母様の巻き起こす嵐で天気が最悪ですがセーフだと思いましょう。
『さあ、話は終わりだ。我の憂さ晴らしになれ、人間。貴様を殺して次は人間の街だ』
やめてください。そんなの死んでも死にきれません。過去でも類を見ない最悪の最後ですよそれは。想像しただけで吐きそうです。
とにかく呪術耐性をオフにしてお母様に探知をしてもらいましょう。それが私であることの照明になるはず。
「お母様!! 私です! 私がメルです、メルシュナーダです!!」
『何だと……? 貴様我をコケにしているのか? 邪魔をするだけでは飽き足らず、死んだ我が娘を騙るか!!』
怖気が走るほどの殺気が全身を刺し貫く。お母様の怒りに呼応して嵐に雷が混ざり始めた。もっと落ち着いて話を進めれば良かったでしょうか?
「お願いします! もう一度探知を使ってみてください!!」
『確かに反応があるが、貴様は人間だろうが!!どんな手段を使ったのか知らんが欺くような真似をして……ただで済むと思わないことだ!!』
失敗した……!?
雷鳴が所狭しと響き渡り、電光が視界を埋め尽くす。
信じて貰えない……いや、さっきお母様は人間と言ってました。なら――――
鳥の姿に戻れば!!
『ほら!! お母様! 私ですよ! メルシュナーダです!!』
習得したばかりの念話を使って全力で言葉を伝える。
蒼い羽毛の空気抵抗で嵐に攫われそうになるのを耐えていると気づいた。そう言えば私の姿、進化して変わっていました。色も白から蒼へ。これじゃ……気づいて貰えない。
『あれ……?』
一瞬にして嵐が消え失せ、どこまでも続く青空が姿を見せた。驚くように目を見開くお母様と目が合う。
そして―――
『……そこまで言うのならお前の力で、我が娘だと認めさせてみろ!!』
特大の暴風と大雨が世界に満ちる。天帝は力を示せと叫んだのだった。
びっくりしました?誰も死んでないですよ。
ちなみにお母様は巣を暴風圏から外してます。蛇が襲ってきたときは巻き込むので使えなかった能力です。巣ごと風に巻き込むか、風の空白地帯が大きすぎて効果を及ぼさないかの二択だったので。
お母様はどこまで行っても魔物です。主人公は元が人間なのでアレですが、天帝の価値観は魔物のもの。家族こそ愛してますが、そこら辺はご容赦を。




