第70羽 帰還
ブクマと評価ありがとうございます!
遂に200に!ありがとう!!
これからもうちの主人公をよろしくお願いします!!
それと話は飛んでないので安心してください。
早朝、パルクナット。ギルドに向かう途中の大通りにその後ろ姿を発見した。駆け寄って声をかける。
「フレイさん!取ってきましたよ!!」
「は?メル!?もう帰ってこれたの?まだ一週間経ってないよ!?」
私に気がついたフレイさんが驚いて二度見する。
ジャシンの影が溢れた日に龍帝と別れた後、9時間が経ったくらいでしょうか。
霊峰に付くのに6時間。山頂に到達するのが5日。2時間が休憩。下山が1時間、帰還が6時間になります。比べてみると登山に対して下山が早すぎますね。
原因は龍帝です。話の結果早く帰る方が良いとなり、2時間の休憩を挟んだ後出発することに。
龍帝が霊峰ラーゲンの頂上を覆う雷雲に穴を開けてそこに向かって私を発射。なるべく酸素を使わないように体力を温存して滑空。霊峰の頭上を覆っている雷雲の範囲を抜けて飛行可能高度まで下がった後、パルクナットへ向けて移動を開始しました。
下山を手伝って貰って貴重な情報ももらったので願いはこれで問題ないと龍帝に伝えたら、こんなので願いが消費できるかと言われました。うーん頑固。
ただ実際にやってみると雷雲の範囲を抜けるまでは高度を下げないようにしないとならず寒いし、空気は薄いしで結構キツかったです。普通に下山してももうドラゴンに襲われることもないし環境も楽になる一方なので、登りよりも格段に早く快適に済んだはずですが今回はスピードを優先しました。
「霊峰ラーゲンまではかなり早い馬車で片道10日はかかるんだけど……」
「あはは、空を飛べますので……」
今は直線飛行速度は大体時速500kmくらいでしょうか?ここパルクナットから霊峰ラーゲンまでは6時間なので……、距離にして3000kmといった所ですか。人として考えると結構遠いですね。
「やっぱりとんでもないね、あんた……」
フレイさんは驚きを通り越してなんだかあきれ顔になっているような……。
「それよりもマンドラゴラ取ってきました。早く届けましょう」
「……そうだね。色々と言いたい事があるけどそっちが優先か。ギルドに行こう」
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
「ギルドマスター、マンドラゴラ取ってきました」
マジックポーチからマンドラゴラが入った袋を取り出して机の上に置く。中身を確認したギルドマスターは安堵したように頷いた。
「……うむ。確かに。要求した数よりもいくつか多いな。これは?」
「予備です。一応失敗したときの為に。使わなくてもあって困るものでもありませんから」
「そうか。気遣いに感謝を」
「いえ、気にしないでください」
私は私のしたいことをしたまでです。
「そうは言ってもじゃな……。おい君、これを薬師殿に届けてくれ」
首を振って応えればギルドマスター困ったように眉を下げ、ひとまず側にいた職員さんに袋を預けた。今から薬を作ってもらうのですね。
職員さんが袋を持って退出すれば、部屋の中には向き合った私をギルドマスター。そして私の後ろで見守ってくれている、フレイさん達3人の計5人になりました。
「本当に良くやってくれた。お主には礼をしなくてはならんな」
「いえ、ですから気にしないでください」
「そうは言ってもじゃな……」
ギルドマスターの言葉に応えれば、やはり困り顔になる。
「お主は魔物の身でありながら我々を二度も救ってくれた。迅速に、大した被害もなくな。それに対して礼の一つもなくては我々の品位を疑われる」
「ですが……」
未だ迷う私に後ろで静観を貫いていたフレイさんが頭に手を乗せて言った。
「人には体裁ってもんがあるのさ。ギルドマスターのためを思うならもらっときな」
「……わかりました」
「よし、それで礼は何が良い?儂に用意できるものなら全力で融通しよう」
「う~ん……」
お礼ですか……。今欲しいものは特にないんですよね……。龍帝に頼まなかったくらいですし。
……あ。
「なにか思いついたのかい?メル」
「はい、この街で作った私の冒険者カードが欲しいです」
「なに……?」
この街は今世で私が最初に足を踏み入れた人の住む場所。それにフレイさん達に出会った場所でもあります。その街で記念として形の残る冒険者カードを作る。それは私にとって、とても素晴らしいことのように思えたのですが、皆さんはそう思わなかったようで呆気にとられたような表情をしていました。
それを見て私の気分は沈む。
「やっぱり魔物では難しいですよね……。無茶を言いました。申し訳ありません」
元々冒険者カードとは人のためにある物です。そして今の私は魔物。機能として可能かどうかもわかりませんし、それこそ体裁や情報の管理にも私では思いもよらない問題が出る可能性もあります。
諦めておとなしく別のものにしましょう。
「マスター!!」
「わかっておる。そう急かすな」
フレイさんが咎めるように声を荒げればギルドマスターはため息を吐いた。
「メル殿、不安にさせて済まなかった。従魔登録ができる以上機能的に問題はないはずだ。君の冒険者カードは作ることができる」
「え?良いんですか?」
「だが本当にそれで良いのか?遠慮する必要はないんじゃよ?もっとなにかないのかの?」
「いえ、正真正銘冒険者カードが今欲しいものなんですけど……」
別に遠慮しているわけではないので、なぜそう言われるのか理解できません。他の人を見ても皆困ったような顔。なぜ?
「なるほど……。難しいの、おぬしは」
そんなことないと思いますけど。
「良いじゃないかギルドマスター、この娘嘘言ってるわけじゃないし。そうそう。メル、この後ご飯に行こう。あたいもあんたの頑張りを労いたいんだ。宿の食堂や買い食いもいいけど、良い店を知ってるから」
「ホントですか!?」
フレイさんの言葉に思わず目を輝かせてしまう。登山中は簡単なものしか食べられなかったので楽しみです!!
「なるほど……。簡単じゃな、お主は」
そんなことないですけど??
「わかった。お主の願いを叶えよう。ならお主の冒険者カードができたら必要ないじゃろうからその時にフレイとの従魔登録は消し――「ダメだよ」……え?」
フレイさん?
「そのままで」
「しか――「そのまま」……わかったわい。別に問題があるわけでもないしな」
あまりの圧にため息をついてギルドマスターは折れた。
フレイさん???
フレイさん達とギルドマスターの部屋を出て、ドアを閉めれば後ろから声をかけられた。
「お帰り」
「あ、ワールさん」
それは、壁に背を預けたSランク冒険者のワールさんでした。ギルドマスターの部屋から出てくるのを待っていたようです。ワールさんは呆れたように苦笑していた。
「かなり早い帰りだね」
「この娘が出てまだ一週間経ってないはずだよ」
「すさまじいね……。俺はここから霊峰ラーゲンに行くだけで3日はかかるんだけど……」
「あはは、まあ飛べるので……」
ちょっと前に同じ事言いましたね。
「君に任せて良かったよ。俺じゃこんなに迅速にできなかった。流石だ」
「……ありがとうございます」
ストレートな称賛。突然のそれに思わず赤くなった顔を逸らす。
「それで何を言いに来たんだい?」
私の前に出たフレイさんがズバリと切り込めば、ワールさんは驚いたようにハンズアップした。
「待った待った。良いことを知らせようと思っただけだよ」
両手の平を見せたまま、焦ったようにフレイさんに言う。見えるのは背中だけで表情はわかりません。どうしたのでしょう?
「ガードが最初に薬を使うことになったんだ。彼が門で時間を稼いでくれたおかげで犠牲者が出なかったからね。街の住人が満場一致で納得したよ」
彼の尽力がなければ私も間に合うことはありませんでした。今頃街はもっと暗い雰囲気になってたでしょう。ガードさんが一番に薬を使えるのはとても良い考えだと思います。
「それに君の話も街の全員が知ってるよ。ヒドラをものともせずコアイマすらを蹴散らした小さな天使ってね」
「なんですかそれは!?」
小さな天使!?すごく恥ずかしいんですけど!?
「彼女が自慢げに吹聴してたからね」
「え?」
「ちょっと!?」
ワールさんの言葉にフレイさんが慌てるがもう遅い。前に回り込んで顔を見上げればそっぽを向く。
フレイさん???こっち見て???
その様子にしてやったりとワールさんは笑っていた。
顔を逸らして逃げ続けるフレイさんの顔をひたすら追いかけて周りをグルグル巡っていると、「わるい!?」と逆ギレしたフレイさんに後ろから抱き上げられた。なぜ?
「下の部屋で薬師殿が石化を直す薬を作ってくれているんだけど、見に行くかい?」
抱き上げられた私の目を見てワールさんが話を戻す。
このまま話を続けるんですか?そうですか……。
「ええ、取りあえずガードさんが元に戻るまで見ていたいです」
「決まりだ」
ワールさんに連れられて覗いた部屋で信じられないものが目に入った。真剣な表情で薬を作る姿は見知ったものだったから。
あれは……ミル!?なんでここに!?
お母様の巣にいるはずのミルがそこにはいた。
3000kmは日本縦断とほぼ同じです。主人公は6時間移動します。速い……。