第67羽 私も戦犯では??
お久しぶりです。ブクマと評価ありがとうございます。
眠いよ……。
龍帝の攻撃によってひび割れた宝玉。それから這い出してきた黒い影からは生き物に対する強い害意が感じられる。メリィさんが言っていたジャシンに関する一部と考えるのが妥当でしょう。のたうつように迫ってくる黒い影、仮称ジャシンの影をバックステップで避け魔術の砲身を向ける。
――《赤陣:火穿葬槍》
放たれた炎の剛槍はジャシンの影を焼き焦がし、のっぺりとした黒をひび割れた黒に変えた。しかし――――
――切りがない。
ジャシンの影は未だに溢れ続け空間を占領していく。同時に空間の魔素がみるみる増えて行っている。このままだと本格的に中毒症状が起きてしまう。
『どうかしたのか!?』
――罅が入った宝玉から何かがあふれてきました。攻撃していますが切りがありません。このままだと洞窟から溢れるのも時間の問題です。
龍帝から届いた念話に状況を説明する。耳は聞こえませんが、龍帝は念話を使っています。未だ私は音が聞こえませんがそれのおかげで会話はできます。
『しまったな……、大失態だ。おい天帝の娘よ、宝玉が入り口から見えるようにしてくれ。視界が遮られていると邪魔だ』
――わかりました。【貪刻】。
入り口からの視界を遮っていた一際大きな鍾乳石を蹴り砕く。きれいな景色が壊れるのは勿体ないですが、背に腹は代えられません。崩れ落ちた鍾乳石の先には入り口から顔を覗かせる龍帝が。封印のせいで入れないのでしょう。
『良くやった。しばし待て』
すぐさま龍帝は不思議な力を収束させ始めた。何をするつもりかわかりませんが、少なくとも無駄なことではないはずです。
ジャシンの影は近くの生き物を無差別に襲おうとします。早く洞窟から出たいのですが私が洞窟から出ようとすると付いてくる可能性があるのでしばらくおとりになりましょう。魔素の中毒症状が酷くなる前に終わると良いのですが。
そうして囮になって洞窟の中を飛び回っている最中、龍帝の攻撃を受け流した疲労で動きが悪くなっているメリィさんがジャシンの影に今にも飲み込まれそうになっているのが見えた。
逡巡は一瞬。蛇のように這い回るのっぺりとした影に飲み込めまれる寸前でメリィさんを拾い上げる。
……ジャシン教の情報を得るためです。死んでいるより生きている方が良いでしょうし。
しつこく追いかけてくる影に魔術をぶつけて安全を確保する。顔が見えるようにお米様抱っこをしているので彼女からの視線をビシビシ感じます。顔を後ろにするのは不安だったのでこうしたのですが失敗だったかもしれません。
メリィさんを抱えたまま洞窟の中を跳ね回る私をしばらく見ていた彼女でしたが口を開いた。
なにか話しかけてきているようですが今は耳が聞こえません。読唇術のまねごとで少しならわかりますが、会話は無理です。また眠気を誘われる可能性がある以上鼓膜はまだ治しません。
それを悟ったのかメリィさんは話しかけるのを止めた。これが済んでから聞けば良いでしょう。
そんなことを考えていると、僅かに迷った後メリィさんが首に付けていたベルを外した。そしてそれをポケットにしまうと私の目をジッと見てくる。
……意図はわかります。
すでに私の体には彼女との交戦での傷は存在しません。おそらくそれに当たりを付けて、鼓膜も治せると考えての行動でしょう。
ベルをしまったのも、もう交戦する気はないという意思表示なのでしょうが、流石にそれで油断するほどではありません。
メリィさんを抱えて、のたうつジャシンの影を撃退しつつ距離をとり続ける。その間にもメリィさんは私の目をジッと見つめてくる。
見つめてくる。さらに見つめてくる。それからみつめてくる。見つめて……見つめて……見つめて……。
ああっ!もう!!視線がうるさいですね!!
鼓膜を治して怒鳴りつける。もちろんすぐさま破けるように準備して。
「なんですか!?」
「なんで助けてくれたの?」
「そんなのなんだって良いでしょう!?」
「だめ、教えて」
今の状況わかってます??貴女捕まってる上に、変な影に襲われてるんですよ。変に強情な人ですね!
「ジャシン教の情報を得るためです。こんな危険な事を企む組織です。情報は多い方が良いでしょう!?」
別に私がジャシン教をどうかするつもりはありませんが、世界がどうこうなったら事です。人に情報を渡すだけでも対策にはなるでしょう。
「ふ~ん」
「なんです?」
「別に。……来てるよ」
「わかってますよ!」
魔術を使ってジャシンの影を消し炭にし、距離を取って地面に下りたところで。
頬になにやら暖かくて柔らかい感触と軽やかな音が聞こえた。一拍の後何をされたか理解する。
「!!?!???!!!?!?」
「おっと」
脳がバグった。思わず地面に放り出してしまう。思わず頬を押えて聞いた。
「な、ななな、なにするんですか!?」
「お礼。嫌?」
「い、や……では……」
シュンとした彼女に強く言うことができず、視線を逸らして言葉を濁してしまう。
「ってそういう問題ではありません!!なんでこんなことしたんですか!?」
「お礼はこうすると良いって教えてもらった」
誰ですかそんなバカな事教えたのは!?ぶっ飛ばしますよ!?
その時パキリと何かが砕ける音が。見ればメリィさんが何かを握り込んでいる。魔力に包まれ消えていくのがわかる。
「ばいばい鳥さん。またね」
感じたのは空間魔法の力だった。多分冒険者の「帰還の種」と似た効果のもの。行き先はジャシン教の関係先でしょう。
つまるところ彼女に逃げられたわけです。
……。
…………。
………………。
不覚ッ!!!!!!!!
『なんとか一時的な封印を施した。これでしばらくはその影がもれてくることはないぞ。……どうした?』
そこで龍帝から念話が入った。どうやら魔法に集中してなにも見えていなかった様子。
何でもないですッ!!
実は短編投稿しました。ジャンルは追放ざまぁ。陰湿な物ではなくライトな物。良かったら見てね。
狐の獣人の女主人公がとある事情のせいで村八分にされていたけど、とある出来事で一変して世界の常識を覆す旅に出るお話。
「いずれ世界最強のもふもふ大妖狐」
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