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第61羽 龍帝、その名はトルトニス

済まぬ。昨日はお休みでした。


霊峰ラーゲンの頂上は岩に囲まれた自然の闘技場のようになっていた。周りを多数のドラゴンが取り囲み、完全に空気はアウェー。さらに奥にはその頂点が居座っている。

高見から見下ろすその堂々とした威容にゴクリと唾を飲んだ。


「龍帝……」


『いかにも。我こそが龍帝トルニトス』


思わずこぼれた言葉に鷹揚に答えを返す姿はまさに龍の頂点と称するに相応しいものだった。


『人の身でここに来るのは……む?』


巨大な岩に巻き付いていた龍帝。巨大であることはさておき、その姿は蛇に似ていてすらりと細長いものの、黒く芸術的なまでに美しい鱗に全身が覆われている。蛇と明確に違うのは巨大な岩をしっかりと掴んだ四肢と、天を覆うほど左右に伸びている巨大な皮膜の翼だろう。

そんな彼が身じろぎし、実に人間くさい動作で手を顎に当てる。


『お主、人ではないな?』


「え、ええ。私は人化した魔物です」


槍を地面に突き刺し、一度人化を解除してすぐさま戻った。


『ほほう、鳥の魔物か。懐かしいな天帝の奴を思い出す』


「お母様を知っているのですか!?」


お母様を知っているという龍帝に思わず声をあげてしまってから、しまったと後悔した。なにせ龍帝はこちらを興味深そうに見ていたのですから。さっきまでは霊峰ラーゲンの挑戦者としか見ていなかったのに、今はお母様の娘として見ている。変に興味を持たれてしまうのも厄介だ。


『なに?お主は奴の娘か。ああ、よく知っているとも。空の覇権を巡って何度も争ったものよ』


なにやってるんですかお母様!?


『そして我が龍帝で奴が天帝。この呼称から結果は良くわかるであろう?』


「あ、あはは……」


ジロリと見つめてくる龍帝に思わず腰が引ける。に、逃げようかな……。

無理ですね、追いつかれる未来しか見えません。普通のドラゴンからもこの高度ではまともに逃げ切れるスピードを出せなかったのですから。

ここで死んだら恨みますからね、お母様。

悟りを開いた仙人のような心境になっていると龍帝が鼻で笑って視線を切った。


『そう萎縮するな。もう終わった話だ。お主をどうにかしたところで奴に勝ったことにはならんからな』


よ、良かった。強さに厳格という噂に嘘はなかったようですね。


……それにしてもこの龍帝がお母様に負けた?お母様は確かに強く感じましたが、ここまでの圧迫感は感じませんでした。私に強さを推し量る才能はほとんどないので確かな事は言えませんが……。


私達子供にいらぬ圧迫感を与えないように力を抑えていた?それとも弱っていたのでしょうか。

……答えはわかりませんが、帰ったら聞いてみましょう。


『さて、他種の魔物が来ることなど今までなかったからな。少々困惑したが話を戻そう。お主はなにか願いがあってここを訪れたのか?』


「ええ、そうです」


『よくぞ霊峰ラーゲンを身一つで登り切った。お主は挑戦権を勝ち取ったのだ。試練を与えよう――――と言いたいところなのだがまずお主に謝らなければならない』


力強く頷けば厳格に龍帝が言葉を紡いだ。と思いきや龍帝はバツの悪そうな表情をした。どうしたのでしょうか。


『お主、山を登る中で多数のドラゴンに襲われなかったか?』


「ええ、それがどうしましたか?」


彼の仲間だったのでしょうか。しかし彼の方が謝ると言うことは私に問題があるわけではないのでしょう。一体どうしたのでしょうか。


『あれは本来あり得ないことだったのだ。挑戦者に手を出すことは我が配下に禁じている故な』


「え?」


『しかし今は無断で我らの住処を荒らした不届き者を探している最中でな。配下のドラゴンに見つけ次第連れてくるように通達してあるのだ』


だからいつまでもドラゴン達が襲いかかってきた訳ですね……。その不届き者のせいでこんなに大変な思いを。

あ、でも。


「私が最初に襲われた時は鳥の姿でしたのであまり関係ないかもしれません」


『む?そうなのか?人の姿の時にも襲われなかったか?』


「あ、それは襲われました」


『なら結局だろうに。まあ良い。お主の心根が素直だと言うことはわかった。我が言いたいのは登ってくるときに苦労した分、試練を簡単にしてやろうという事だったのだが……』


「わーすごく大変でしたー。これはもう試練を簡単にして貰うしかないなー」


『……お主なかなか肝が据わっておるな』


龍帝にジト目で見つめられ目を逸らす。楽なら楽に越したことはありませんので。


『来い』


龍帝がそう一言声をかけると、多数のドラゴンの中から一番大きなものが下りてきた。

地響きを立てて降り立ったドラゴンはこちらを好戦的に睨み付けている。


『願いがあるのなら我が息子の1体を倒してみよ。今ここにいる竜の中で一番強い。もちろん我を除いてだが』


実にわかりやすい試練。それなら望むところです。


『ならば始めよ』


龍帝は起こしていた体を戻し、巨岩の上で静観の姿勢になった。

さてどうしましょうか。相手は今までより巨大なドラゴン。心してかからなくては。


『ふん、鳥如きが相手か。実に矮小だ。歩くだけで潰してしまいそうだ』


「は、はあ」


なんだか面倒くさいのが出てきましたね。竜と鳥。サイズの差故に甘く見ているのか、見下した様な態度のドラゴン。龍帝を見ると頭を抱えていた。心中お察しします。


『父上はお優しいから哀れな鳥如きに手加減をなさったようだが、空の覇権は我ら竜のものだ。貴様をここで叩き潰し、次は貴様の母親を引きずり下ろす。なに、貴様の母親も貴様に似てみすぼらしいのだろう。ならばたやすいだろうな』


「は?」


思わずドスの利いた声がもれる。聞いてはいけない言葉を聞いてしまった私は、竜の酔いしれた様な言葉など既に聞いていなかった。


こいつ、私のお母様をみすぼらしいと言ったのか?一切の穢れのない純白の美しい翼を持ち、気高いお母様を?あまつさえ、お母様を害すると?


こいつ――――殺す……!!


蒼気が一気に膨れあがり、殺意を持った深紅の鬼気が荒れ狂う。右手に槍をつがえ、ねじ切れんばかりに体をひねることで練り上げた力を解放する。


「【魔喰牙ばくうが】ッ!!!!」


目にも留まらぬ一撃が反応を許すことなくドラゴンに襲いかかり、いとも簡単に宙を舞わせた。


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