第60羽 『 頂 』
メリィさんと洞窟で別れて二日後。
休息を挟みつつドラゴンを退け、山を登り続けてきた。マンドラゴラはまだ見つからない。
どれだけ倒しても出てくるドラゴンに関してはゲンナリさせられましたが途中で気づきました。二度目の奴が混じっていると。
傷跡から見たことのある個体がかなりいたので、回復したのが襲いかかってきたのでしょう。
戦えなくなったドラゴンにはトドメを刺していないので、いつか復活するとは思って居ましたが流石に早い。
トドメを刺していればもっと楽だったのでしょうが、そうはしませんでした。
弱肉強食の自然界です。戦闘中であれば容赦なんてしませんが、勝負がついた後なら話は別。むやみに殺すつもりはありません。私は殺すために戦っているのではありませんから。
私が力を手に入れようとしたのは殺すためではなく守るためです。
そこを踏み間違えてしまえば、やがて私はかわってしまうでしょう。ゆっくりとですが、確実に。どうあがいても終わりはないのですから……。
今世の私は魔物です。
人に助けて貰ったからお礼として助けているし、人と一緒に居た時に襲われたから助けている部分が少なくない割合を占めています。フレイさんも最初はそうでした。
今回は仲良くなったガードさんと、冒険者の石化を直すのが主目的ですが、これが仲良くなった魔物でも私は同じ事をします。
もちろん大切な相手を助けるのは別ですが。
私のスタンスとして優先順位は『大切な相手』が一番にあり、次に『同種』。そして『生き物全般』です。
魔物は広義の意味で同種です。意味もないのに積極的に殺す事はしません。悪意があるわけでなく、生きるためにそうしているのですから。
生きることを否定する権利なんて神にだってありません。私ならなおさら。
しかし悪意をもって他の生物を害そうとするのなら、人も魔物も等しく私はそれの敵に回ります。
他を害そうとするのです。自分だけそうならないなんてあるわけがないし、害されても文句はないでしょう。
私は理不尽を何度も受けてきたが故に理不尽を嫌い、それが他者に降りかかることも嫌います。
これは正義でも何でもなく私のエゴです。だからといって変えるつもりは毛頭ありませんが。
そんなことをつらつらを考えていると、目の前に雪が被さったしめ縄が右にも左にも広がっていました。山を囲うように伸びていて、踏み越えていくのは流石にためらわれます。どうしたものかと困っていると右の方に何かがあるのに気づきました。
近づいてみると、どうやら標識のようです。被さった雪を払えば先端が右を向いた矢印が。こちらに行けと言うことでしょうか。
良案もないですし、とりあえずこれに従ってみましょうか。
矢印の指す右方へと足を進めれば、同じ向きの矢印が彫り込まれた標識がまた一つ、先でもう一つ。それからもいくつかの標識を通り抜け約30分ほど。
しめ縄がなくなった先にあったのは、雪から所々除く石畳。そしてひたすら山頂へと向かう階段だった。階段の両脇にはこんな場所に生えるはずのない巨大な大樹がそびえ立っている。しめ縄の始点、もしくは終点はそれにつながれていた。
まるで神が奉られているような雰囲気。いえ、きっとここを作った人にとってはこの先に存在する対象は神に等しい存在だったのでしょう。
少し前からドラゴンに襲われることがなくなりました。なぜだろうと思っていましたが理由は明白。
龍帝。
それがこの先に待ち受けている。
ここまで来て足踏みをしている理由はありません。
山の斜面に作られていた階段に向けて大樹を一歩踏み越えた。
その瞬間。体の中心が電撃に貫かれる。
衝撃に息が止まり、思わず弾かれたように山頂を見上げる。
……違う、今のは錯覚です。かくはずのない冷や汗が鳥の私の頬を伝う。
電撃なんて受けていない。ただの、ただの気配で攻撃をされたかのように感じてしまうほどの圧倒的力。このしめ縄と大樹が龍帝の圧力を外にもれないように押さえ込む結界のような力をもっているのでしょう。
そうでなければ山の魔物が全て逃げてしまうから。
深呼吸。息を整え、階段に足を乗せる。相手が何であろうと私が歩みを止める理由にはなりません。
階段を上っていく。
一歩進むごとに圧力が一層強くなり実態をもって押しつぶされそうな感覚すら覚える。
それに耐え、進み続けていると遂に階段の終わりが見えた。
念のため人化を発動して、槍をとりだし氣装纏鎧をいつでも発動できるように準備。
階段を上りきった先には大きな広場とその先に巨大な山。上がまだあるのですね。
それにしても――――だれもいない?
その時――――巨大な山が動いた。
違う。
あれは龍だ。ビルのように巨大な岩に巻き付いた、ビルよりも大きな生き物。
『良く来たな。挑戦者よ』
圧倒的高さから見下ろす龍帝が、そこにいた。




