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第2.5羽 ファーストエンカウント


 茂みが揺れる。

 警戒する中姿を現したのは――灰色の狼の魔物。

 一匹ではありません。別の茂みからも次々と姿を現わし、総勢にして10匹もの群れに。鋭い眼光を喉奥から漏れる唸り声。残念ながらお友達になりに来たようではないようですね。


 正面に狼の群れ、背後には大樹。

 逃げ場はなく退路も立たれた状況ですが――


「ぴよ……」


 妹の不安げな鳴き声に、私は笑顔で振り返る。

 大丈夫。お姉ちゃんが守りますから。


 ――牙を剥き、ヨダレをまき散らしながら襲いかかってきた1匹を、半歩下て回避。隙だらけの頭を蹴り上げ、そのまま回し蹴りで吹き飛ばす。


 背中に妹。背後に大樹。守るには前だけ見れば良い!


 私に戦いの才能なんてありません。それに徒手空拳も苦手です。

 それでも、数え切れないほどの転生を経て、”戦う技術”はそれなりのものに積み上げて来たつもりです。


 戦闘経験は伊達ではありませんよ。


 私の妹に、誰1人として触れさせはしない……!


 にらみ合いのさなか、群れが次の攻撃を仕掛けてきた。三匹同時。左右と正面から。

 左に踏み込み、左端の狼を盾にして時間稼ぎ。二匹がまごついている間に、一番左の狼の噛みついてくる。膝で顎を打ち抜き、ひるんだそこにヤクザキックで追撃。

 もんどりうって転がっていったそれは放置してまごついていた二匹に一気に肉薄。

 片方の足を刈り取り、もう片方が牙を掻い潜って足を振り抜けば顔面にクリーンヒット。ふらついた所に追撃して、起き上がろうとしていた2匹を巻き込んで団子になった。


 ……手応えあり。これならなんとかなる!!


 だが喜びもつかの間。

 まだ手を出していなかった5匹が一斉に飛びかかってきた。

 

 ――ピンチ? いえ、チャンスです。


 私は息を吸い込み力を足元に集める。五匹が交錯する地点でグッと身を屈め、呼吸とともに生命力と魔力を練り上げた。纏わりつく白光が辺りを照らし、影が踊る。


 ――ここです。【昇陽(のぼりび)】!!


 天へと跳ね上がる、光をまとったサマーソルトキック。

 交錯する5匹すべてをまとめて打ち抜き、空中で吹き飛ばす。狼たちは茂みの奥へ消えていった。


 ……息が乱れる。


 いま放った技は、私が前世で習得した”戦撃”という戦闘技能。落ちる最中に木に向けて打ったのもこれ。

 

 自らの生命力と魔力を呼吸と共に練り上げ闘気として生成し、世界システムの力を借りて放つ技。


 『型』に落とし込むことで自由度をなくす代わり、威力と速度を最大限に引き出す強力な技。

 攻撃前の溜めをトリガーとして世界のシステムに助力を請ることができる。


 この技術は種族特有の固有スキルではなく、前世の経験としての判定なのか問題なく使えるんですよね。


 戦撃はおそらくこの世界で私だけが使える、私だけの切り札です。


 ともかく今の戦撃で五匹は確実に戦闘不能でしょう。戦撃の威力は折り紙付きです。


 ――でも、私の体力ではもう使えません。


 生まれて間もないこの体には重すぎる負荷。ここからは切り札なし。

 でも大丈夫です。

 だって私は、ベテラン転生者で、お姉ちゃんなんですから。


 呼吸を整えならが残りの5匹を睨む。最初の3匹が逃げることなく合流している。

 牙をむき、低く唸りながらも引く様子を見せない。


 数秒の睨み合い。

 今回も先の動いたのは彼らだった。2匹が同時に、1匹が後ろから追従。

 私はあえて半歩前に出た。敵のリズムを崩すことで攻撃にズレを生じさせる。


 動きが乱れ、不格好な攻撃になった瞬間、丁寧なカウンターで返答。次いで横から飛び込んできたもう1匹を受け流し、怯んだ1匹と衝突させる。


 すぐさま飛び込んできた狼は頭を踏みつけてとめ、そのまま背後の大樹に跳躍、着地。

 踏み台にされてふらついていた狼の頭に、全力の飛び膝蹴りを敢行する。鈍い音が響き、私の膝と固い地面に頭をサンドイッチされて動かなくなった。


 ――これであと四匹。


 そこに死角からもう1匹。 ちゃんとわかってますよ?

 すでに動かなくなった狼を蹴り飛ばして空中でぶつけ、地面に追い返した。


 ――はぁ、はぁ……。


 呼吸が追いつかない。視界が歪む。


 こっちは生まれて間もないのにハードすぎますよ……!! 加減してください!


 願いも虚しく、敵は手を緩めない。

 

 最初の2匹が襲いかかってきた。後ろには隙を伺っているもう1匹が。面倒ですね……。


「ぴよ!?」


 その時妹の焦ったような鳴き声が。見ればさっき吹き飛ばしたはずの狼が妹の方へ。妹は羽を大きく広げ、羽を逆立てているものの、狼の方は昼ご飯のことでも考えているような様子。全く気にしていない。


 しまっ!! くっ!?

 

 目の前の迫っていた狼をひとまず蹴り飛ばし、即座に反転。

 その瞬間、背中に痛みが走る。


 ――()ッ!!


 隙を伺っていた個体の爪が突き刺さっていた。構いません。痛みなどこの際無視です。第一優先はあの子の安全!

 今にも飛びかからんとしていた狼と妹の間に体を滑り込ませる。


 ――避けきれない!


 翼を広げ、盾にする。飛行はできず、攻撃もできない。今は切り捨てます。

 牙が肉を裂く。噛みつかれた。痛い。でも間に合った……!!


 ――私の家族に、手を出すな!!!!


 怒りを込めて顎に膝を打ち込んだ。牙が食い込み痛みは増す。だが怯んだ狼は口を離した。


 ――好機!!


 脚を頭上に掲げ、頭に踵を叩き下ろす。さらに地面に叩きつけられた頭を踏みつぶした。

 確かな手応え。動かなくなった。


 ――はぁ……!はぁ……!あと三匹!


 そこに次の個体が大口を開けて飛びかかってきた。直ぐ側に妹。引けない。


 ――そんなに欲しいなら……!!

 

 瞬時の判断で前に出る。


 ――喰らいなさい!!


 口の中に脚を蹴り込む。突然の異物感に目を白黒させながらも5匹目は顎を閉じた。


 ――はああッ!!


 牙が突き刺さる痛みを堪え、火事場の馬鹿力で狼ごと脚を振り上げる。

 地面に叩きつけると、首から鈍い音がしてピクリとも動かなくなった。


 ――あと……2!!


 残りを睨み付ければ気圧されたように後ずさる。


 そこに――空気の裂ける音が飛来する。


 狼2匹に直撃。ズガァン、と地面が揺れた。

 地面に突き立つ巨大な羽が頭を縫い止めている。あれでは絶命しているでしょう。


『無事か!?』


 助かった。お母様だ。姿を見た安心感からどっと疲れが襲ってくる。


『お前、血が……!?』


 私達の姿を認めたお母様は狼の死体を風で退かすと地面に降り立った。すぐさまお母様から暖かい光が飛んでくると痛みがなくなった。これは魔法でしょうか。温かな癒やしが痛みを溶かしていく。ありがとうございます。


『すまない、遅くなったな』


 ――いえ。ただ、少し……疲れました……。


 まぶたが鉛のように重い。妹がふわりと抱きついてくる。落ち着かせようと撫でる羽も同じく鉛のようだ。


『――ゆっくり休め。後は任せると良い』


 意識がなくなる直前聞こえたのは『よく守った。さすがだ』という、お母様の優しい声だった。

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