第75羽 なんでそうなるんです?
坑道内を飛び回って鉱石をかき集めて30分ほど。
必要な鉱石はあらかた集め終わった。すこし奥の方にあった地下水がすこし湧き出ている場所に生えていたきのこや苔もゲット。地竜の鱗と、戦闘中に欠けた牙の一部も確保。
探しにくい素材の収集が進みました。
道の分岐が多い坑道は迷路のようでしたが、迷うことなく脱出。記憶力がよいと、こういうときに便利ですね。
一度鉱山から離れ、人化。
鉱夫さんともう一度話して、3人組を待つことに。
かなりの怪我を負っていたものの、致命傷は見当たりませんでした。ポーションで回復もしていたし、緑髪くんが応急処置を施していたので、時間はかかるでしょうが無事に帰ってこれるはず。
鉱夫さんたちは地面の揺れを感じていたので、かなり不安そうでした。一応採掘を再開する前に、調査はしっかりしたほうが良さそうと世間話風にしておきました。
まあ今の私の容姿でどこまで真面目に聞いてくれたからは怪しいですが……。まあ、3人がギルドに報告すれば、異常性から調査が入るでしょうから心配はないでしょう。
……そう考えると、あのまま採掘したのは正解でしたね。下手すると調査完了まで進入禁止になって、別の遠くの鉱山を探す羽目になったでしょう。
と、そんなことを考えているうちに、3人が帰還したようです。
3人共足取りは重く、ふらついてはいますが意識はしっかりしている様子。
何事もなく脱出できたようで良かった。
「お疲れ様です。なにやらすごい物音がしていたみたいですが、大丈夫でしたか? あ、これ差し入れのポーションです。市販のものよりかなり効きますよ」
なにせミルが調合したものですからね。
「お気遣い感謝する、しかしそれを受け取るわけにはいかない。僕たちは――――」
「おっ! いいのか!? サンキュー!!」
青髪メガネくんが何やら丁寧に断ろうとしているところに赤髪くんが割り込んで、ポーションをグビリと飲み干してしまった。
メガネくんは目尻が痙攣しているし、緑髪くんは天を仰いでいる。
「かー! 染みるなぁ! 楽になったぜ!」
「……えっと、良かったです。ほら、残りの2人も遠慮せずに」
「……痛み入る」「……ありがとう」
青髪くんは観念したように、緑髪くんは小さく頭を下げて、それぞれポーションを受け取った。
その後赤髪くんがロープで縛り上げられて地面に適当に転がされたたまま、鉱夫の方たちに簡単な説明がされた。
「むーー!!」
地竜が異常な進化を2度も遂げたこと、坑道内部に相当なダメージがあること、安全確認が必要なこと。
予想通り、鉱山への立ち入りは当面禁止。鉱夫さんたちは不満そうだったが、渋々承諾した。
調査期間中はギルドと国からある程度保証がでるとのことなので、生活に困ることはないでしょう。
当事者間で話がまとまったので、3人はギルドに報告へ行くということでとりあえず解散となりました。
私も他の素材収集に戻りましょうかね。まだ2日目。面倒な素材の回収が一気に進んだとはいえ、油断出来ません。
と歩き出そうとしたところで、青髪メガネくんに「ちょっとまってくれないか?」と声をかけられた。
「すまない。君は採掘目的で来ていたのに、その目的を果たせなくなってしまった」
「いえ、気にしないでください。私の方はなんとかなりそうなので、ぜんぜん大丈夫ですよ」
もう採掘は終わりましたからね。心のなかでそう付け加える。
そこで彼は少し考え込むように顎に手を当てた。そこに声がかかる。
先程まで簀巻きにされていた赤髪くんがいつの間にかそこに立っていた。
「なあ、お前さえ良かったら俺たちのパーティーで一緒に冒険者しないか?」
「私があなたたちのパーティーにですか……?」
それはなんとも急なお誘いですね……。
「おい、お前な……」
「お前だって今回の件で実力不足を痛感しただろ? あのとき蒼い鳥がいなかったら俺達は全員死んでた」
「それは……そうだが……」
蒼い鳥の名前がでてどきりとしたが、私だとは気づいていないはず。
ともかく、 私はすでにパーティーを組んでいるんです。そう言おうとしたところに、緑髪くんが感傷深げにポツリとこぼして遮られてしまった。
「蒼い鳥……とんでもない強さだった……」
「……ああ、そうだな。僕たちは竜を倒すことを目標にやってきた。その試金石としてガブリザードの討伐に手を出した」
「そしたらホントに竜が出て、そっからもっと強いやつが出てくるなんてな! さっきはやばいって思ってたけど、今はワクワクしてる。世界ってあんなにでっかいんだって!」
「あの……」
「俺はもっと鍛えて、でっかくなってやるんだ。あの――――蒼い鳥みたいに」
力強く拳を握って宣言する彼を、青髪くんと緑髪くんは仕方がないといった面持ちで苦笑していた。
いや、なんでそこで私が出てくるんですか????
「えっと、相手は鳥の魔物ですよね。もっと……ほら、人を目標にするとか……」
「俺田舎から出てきたばっかで、他に強いやつ知らねぇし」
「いや、鳥の刷り込みじゃないんですから」
「いいじゃん、相手鳥だし」
良いわけ無いでしょっ!! 2人とも、ツッコミの時間ですよ! ガツンとやっちゃってください。さっきまでみたいに!!
期待を込めて2人を振り返って……私は絶望した。なぜなら彼らはまんざらでもない顔をしていたからだ。
「彼女の言うことも一理あるが……あれは鮮烈だったからな。強さという点では……目に焼き付いてしばらくは離れないだろう」
「うん、ぼくも矢を打っても当たらないって思わされたのなんて初めてだった。あれに射掛けられるくらいになりたい……」
実は全員ボケ担当だったんです??? 目標が魔物って身体構造的にも不可能でしょう!?
そうやってツッコミを入れて見るものの、少し顔が熱い。
別にそんなにたいしたことしてないのに……!!
その後も3人による蒼い鳥褒め殺しタイムは続いた。
「小さい体でとんでもないパワーだった! それだけじゃない。力の受け流し方、インパクトのタイミング、どれをとってもとんでもないレベルだ!」「風をまとった蹴りとか、僕は体術は使えないが参考にできるところは多い」「とんでもないスピードで精密な動作、すごかったよ。あんなことできるようになりたいなぁ」
褒め殺しが終わらない。眼の前にいるのが当人とも知らないで、ずっと褒めてくる。もう私のライフはゼロです。
気づけば私は恥ずかしさのあまり逃げ出していた。
「きっとあれくらい強くなって見せる。でも1人じゃ無理だから、お前も手伝ってくれないか! っていない!?」
「なんか逃げ出したぞ」
「ちょ、待てよ!? 返事は!?」
「ごめんなさいぃ!! 私すでにパーティー組んでる人がいるんですぅ~!」
「そうなのか……。って足速っ!? もうあんなとこまで!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「錬金術師の真髄は構造を見抜く目と、それを支える知識。だから……」
ブツブツと呟きながら魔力を練る弟子を尻目に、ラトラは優雅にソファで本を広げてくつろいでいた。そこに扉がノックされる音が届く。
ため息を1つついて本を置き、億劫そうに扉へ向かった。
「ん? メル、あんたかい。今日はまだ5日目だけど、どうかしたのかい? それとも……もう諦めるかい?」
意地悪そうにニンマリと笑うラトラに向け、俯いたメルが小さく言葉を落とした。
「……した」
「……なんだって?」
「素材、全部集め終わりました……!」
「……は?」




