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第69羽 鉱山での出会い


 上空から狙いを定めて『急降下』。

 意識外の頭上から【崩鬼星ほうきぼし】を叩き込めば大抵の魔物が物言わぬ骸となる。


 ストーカウと呼ばれる牛の魔物であることを確認。

 すぐさまアイテムボックスに放り込んで、素材を確保。この魔物はお肉が美味しいタイプなので、おまけで嬉しいですね。


 空に戻りながら、収集素材が書かれたレシートのようなメモを思い出して辟易する。


 ――――これでようやく3割ですか……。


 ひたすら上空を飛び回り、収集対象の素材を探し回ってすでに2日目。

 

 昨日の昼過ぎから素材回収を開始して、夜中にミルの様子見ついでに着替えを持っていきました。

 ラトラさんの指導は、随分苛烈かつスピーディーなようで、いろいろと苦戦しているようでした。

 

 制御に失敗して、着ている服が木に変わってしまっていたのは、見ていて新鮮な光景でしたね。


 ラトラさんは慣れたものなのか一瞬でもとの布地に戻していましたけれど。

 

 ……他の世界の錬金術師たちもこんな苦労を体験していたのでしょうか?


 ともあれ、他人の心配をしている場合ではありません。今の回収スピードでは間に合わないかもしれない。

 今のペースを維持できれば、4日目くらいには素材は集まり切りますが……、そんなに甘くはいかないでしょう。


 珍しい素材の方はほとんど見つけきれていない。

 採取素材のほうが簡単だと思っていたけれど、魔物の素材を確保するほうが簡単でした。

 むしろ動かない素材を見つけるほうが難しい。魔物は動く姿が上空からでもよく見えるので、見つけやすい。

 

 見つけづらいのは特にきのこのような素材。薄暗い影にあるものは見つけるのが至難の業。ひたすら飛び続けてそれっぽい場所を虱潰しに確認して、見つける確率を上げるしかない。

 

 と視界の先に鉱山を発見。

 素材リストの中にもいくつか鉱石系の素材があったはず。勝手に採掘するのは良くないでしょうし、一度人化して話を聞いて見ましょうか。


 鉱山から少し離れた場所に降り立ち、誰も見ていないことを確認して人化。そのあと歩いて鉱山に歩いて向かう。

 ヘルメットなどの装備をつけた鉱夫の方たちが数人で固まっていたので話しかけた。


「すみません、ちょっといいですか?」


「ん?」


 振り返った鉱夫さんは、日に焼けた褐色の肌に無精髭を生やした大柄な男性だった。


「私、冒険者のメルといいます。鉱石を採掘するために鉱山を使わせていただくことはできますか?」


「ああ……、それなら別に構わんぞ。手数料さえ支払って貰えればな……と言いたいところなんだが……、今は時期がな……」


「なにかあったのですか?」


 強面の鉱夫さんは太い腕を組んでどこか浮かない顔。集まっていた他の鉱夫さん達も暗い顔をしています。

 話を聞いてみると、数日前に鉱山の中に魔物が侵入しているのを発見、それから採掘が滞っているとのこと。

 最初に発見した人は背中に大きな怪我こそしたものの無事。命からがら逃げ切ることが出来た。しかし魔物は鉱山内部に居座ってしまい、鉱夫の方たちでは追い出すことも倒すこともできないため、困っているそうです。


「なるほど、魔物が……。もしその魔物を退治できたら、鉱山を使わせていただけませんか? 私、なんとかできるかもしれません」


 提案してみたものの、怪訝な顔をされてしまった。


「それはもちろんだ。上手くいったならこの際手数料だっていらんよ。だが……もう冒険者ギルドに依頼提出して、依頼を受けたパーティーがいると報告をもらった。その冒険者はもうすぐくるそうだ。それに冒険者といえども、お嬢ちゃんはまだ子どもだろう。依頼も受けてないお嬢ちゃんに出番はない」


「……なるほど」


 確かに他の冒険者が来るのであれば、横槍になってしまいますね。

 まあ念の為冒険者ランクでも伝えておきましょうか。なにかあったときに伝えてくれるかもしれないですからね。

 私の幼い見た目の影響から任せて貰えそうにありませんが、証拠があれば問題ないでしょう。こういう時は冒険者カードを見せれば解決ですね。


「あの……」


「ようやく着いたな!」


 と冒険者カードを取り出そうとしたその時、元気いっぱいな声が響き渡った。

 声の方に目を向けると、鉱山の入口へやってきたのは、年若い冒険者のパーティー。

 剣を背負った赤髪の少年に、青髪のメガネの少年、気弱そうな緑髪の少年の3人だ。

 集まった鉱夫の方に気づいたメガネの少年が前にでる。


「魔物の討伐依頼を受けてやってきた冒険者です。依頼を出した鉱山はここで間違いありませんか?」


「ああ……間違いないが……」


「では、討伐に向かいますので入口の場所を教えてもらっても?」


 青髪の少年と鉱夫さんが情報交換をしているのを邪魔にならないように離れて見ていると横から声をかけられた。


「あれ? 女の子がいるじゃん! どうしてこんなところにいるんだ?」


「あんまり大きい声だすと、怖がらせちゃうよ」


 赤髪の少年が目を輝かせてこちらに近づいてきたのを、緑髪の少年が慌てたように注意する。


「そんなわけ無いだろ! これくらいで怖がるのなんてお前くらいだって! な!?」


「えっと、まあ別に怖くはないですよ……?」


「ほらな?」


 赤髪の少年が得意げに胸を張る。

 

「きっと気を使ってくれてるんだよ……」


「お前おとなしい顔して毒舌だよな……」


 緑髪の少年の小声の呟きに、若干引きつった顔になる赤髪くん。


「お前たち何をしているんだ、行くぞ。 ん? ……君は?」


「私は冒険者のメルです。鉱山を使わせてもらおうと思ったのですが、今は入れないって言われてしまって……」


「なるほど、同業か」


「魔物が鉱山内に居座っていると聞きました。良ければお手伝いしましょうか?」


「……いや、結構だ。今回の相手は手ごわい。君は着いてこないほうが良い」


 青髪の少年が値踏みするような視線を向けてきていたが、 きっぱりと断られてしまった。やっぱり見た目が幼いせいですかね……。

 そこに赤髪の少年が不満そうに口を挟んだ。


「なんでだよ! 別に守ってやればいいだろ?」


「お前も相手はわかっているだろう。生半可な実力では怪我をさせるだけだ。彼女に不要な怪我を負わせる必要はない」


「そりゃそうだけど……」


「それに依頼受注後の臨時でのパーティー加入は報酬で揉めることもある。彼女がそんなことをするとは思わないが、いらないリスクを背負う必要はないだろう」


「……わかったよ」


「えっと……」


「魔物なら問題ない。これから僕が解決してくるから、君は待っていると良い」


「おい! 俺達、だろ!? 1人だけいい格好しようとするなよ!」


「……言葉の綾だ。他意はない」


「きみはいつも言葉の綾が多いよね。もう少し正確に伝える努力をすべきじゃない?」


「……お前はいつも一言多いぞ。もう少し言葉のトゲを抑えることをオススメする」


「ぼくは弓使いだからね。言葉が常に鋭く的を射るんだよ」


「無差別射撃は感心しないな。世界中の弓使いに謝ったほうが良いぞ」


「おい!? 何言ってるのかわかんねえからもう少しわかりやすく話せよ!」


「「うるさいから少し黙っててくれない」か?」


「……もう少し分かりづらく言ってくれ! ……ともかく、えっと……メルちゃん! 魔物なんて全部俺がぶった切って来るから安心しとけよな!」


 それは……あまり安心できませんね。私も魔物なので……。


「君が近づく前に僕の魔法で片がつく。今日も囮をしてくれれば十分だ」


「ぼくもちゃんと目玉を抉って援護するよ」


「そこの描写はいらねぇ」


 3人はわいわい言いながら討伐に向かっていった。

 私と鉱夫さんはそのフレッシュさに当てられてしばらく固まってしまっていた。


「……モテモテだな、嬢ちゃん」


「……あはは。ところで、出てきた魔物ってどんなのですか?」


「ああ、それはだな……岩や鉱石を好んで食うトカゲの魔物だ。ガブリザードって呼ばれてる。顎での噛みつきと、爪が鋭い厄介な奴さ」


 なるほど。一応竜種に連なる爬虫類タイプの魔物ですか。鱗が硬く、生命力も高い厄介な相手です。

 ……不安なので後ろからこっそり着いていったほうが良いですかね?

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ドヤタイム来たなこれ。 フー
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