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第66羽 ポーション?

 しんと空気が凍りついた空間。

 その中でただ一人、老女がポーションを見つめている。まるで、何かを確かめるように目を細めて。

 そして唐突にミルへと視線をズラした。


「さあ、答えな……これは、あんたが作ったのかい?」


「えっと、そうだよ。それはあたしが作りました。でもそれは失敗作で――――」


「モルク。この娘にまだ用事はあるのかい」


 ミルの言葉をばっさりと切り捨てて、今度はモルクさんに目を向けたおばあさん。

 ……なかなかせっかちな質のようですね。


「ラトラさん、これまた急な……」


「用があるのかい、ないのかい。さっさと答えな」


「それなら後は支払いだけですけど……」


「なら早くおし。この娘っ子はちょっと借りていくよ」


「へ!?」


 突然の宣言にミルが素っ頓狂な声を上げる。


「いやぁ、本人も驚いているようですが……」

 

 困ったように頭をかくモルクさん。


「ふん、若いときなんて人生驚きの連続だろう。細かいことを気にするもんじゃないよ」


「そりゃあその強引さには誰でも驚きますよ」


 ギロリと目を向けた老女から、慌てて視線を逸らすモルクさん。


「あの、モルクさん、この人は一体……?」


「ああ、メルさん。この人はウチにポーションを卸してくれている人の中で、最も効果の高いポーション作れる人だよ」


 曰く、大多数のポーションは大量生産しているところに発注しているが、一部は個人から買い取って店先に並べている。

 そのうちでもっとも効果の高いものラトラさんのポーション。

 ラトラさんがお店を立ち上げたときから高品質なポーションを卸してくれたおかげで、冒険者には評判の良いお店として扱われていたそう。


「ふん。あたしが売るより楽だったからそこの坊やに任せているだけさね」


「坊やって……。私はもうそんな歳ではありませんよ」


「いくつになろうが坊やは坊やだよ。あたしから見りゃ、まだまだひよっこさね」


「ラトラさんにはかないませんね……」


 そんなやり取りを見ている間に、ミルとダラムさんは売買の手続きを終えてこちらに戻ってきた。


「やっと終わったのかい。そこの娘っ子、着いてきな」


「ミルさん、どうするんですか?」


「それは……って、もう先に行っちゃってる!?」


 それもミルの発光ポーションを持ったまま。これは着いていくしかなさそうですね……。


「バタバタしてすみません。私とミルはこのまま行きますね」


「こちらこそごめんね、2人とも。ラトラさんはあんなだけど無駄なことはしないし、悪い人じゃないから……」


 そんな弱気な発言を背に受けて走る。


「すみません、ラトラさん。私はミルの友達のメルといいます。ミルに付き添っても良いですか?」


「……好きにしな。ただし邪魔になったら叩き返すよ」


「心に留めておきます」


 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 


 そうしてやってきたのは、お店から大通りを進み、そこから外れた裏路地。

 幾重にも入り組んだ路地の先に、年季を感じさせる一軒家が息を潜めるように佇んでいた。


「入りな。……余計なもんに触るんじゃないよ」


「お、おじゃましま~す」「お邪魔します」


 入口の扉をくぐり、進んだ先の部屋。

 鼻をくすぐる薬草と薬品の匂いが立ち込める薄暗い部屋には、無数の調合器具が並んでいた。

 

 火にかけられた謎の液体や、そこからつながっている管。ポタリポタリとフラスコに落ちていく液体。

 まるで童話に出てくる魔女の研究室。そう形容するのが最もしっくりくる光景だった。


 部屋の入口から2人でその様相を眺めていると、ラトラさんは部屋の奥にある椅子に腰掛けていた。


「なにやってんだい。さっさと入りな」


 促され、向かいの椅子に腰を下ろす。

 机の上には、ミルが作った失敗作――と言っていたポーションが、無造作に置かれていた。瓶の中で淡い光がゆらゆらと揺れている。

 

「さて、あんたに来てもらったのは他でもない。こいつについてだよ」


 先程の強引さを思い出し、思わず「来てもらった……?」と呟いたら、おばあさんからギロリと睨まれた。スッと目をそらす。

 わたし、なにも、いってない。


「それで……あんたはこの回復ポーションの素材をぶち込んだ薬で何を作ろうとしていた?」


「そ、それは……」


 ミルが失敗したというポーション。それが何なのか、私も気になっていました。


「……作ろうとしたのはポーションの回復効果を広域に拡散させる薬。魔術を応用して作れないかなって」


「それは……、今日使った魔術瓶の派生を作っていたということですか?」


「そうだよ」


「……待ちな。そのマジュツだのマジュツ瓶だってのはなんだい」


「それは――――」


 ――――魔術について少女説明中。

 

「……つまり簡易的、かつ規格的に発動できる魔法ってことだね」


「その通りです」


「それを使ってポーションに魔力を込めたらこいつができたと……」


「はい。でも……今回のは失敗でした。使ったら、虫が……薬草に変わってしまって」


「…………」


「虫が……薬草に……!? それはまさか……人にも……?」


 ポーションが引き起こしたとは思えない現象に思わず息をのむ。

 私の問いかけにミルは小さく首を振った。


「たぶん効かない。試したのは小さな虫だから、実際のところはわからないよ。でも、魔力があるうちは虫の姿は変わらなかったの。たぶん魔力が抗体のような役割を果たしているから、人と同じくらい魔力を持っている生き物には効かない可能性が高いよ」


 ミルの言葉に胸をなでおろす。

 しかしその薬の異常性は明らかだった。


「……物に魔法を込めるなんざ大昔から誰もがやってきた。魔道具なんかがいい例だ。だがあんたが作ったこれはその領域を超えている」


 ラトラさんが手を振るうと、棚から木組みのブロックが降ってきた。見た目はまるでルービックキューブで、力を込めると各面が稼働するしくみのようだ。


「これに魔力を込めな。薬にやったのと同じ要領でね……」


「これに魔力を? ……わかりました」


 そこで私の方を向いたラトラさん。「……魔術ってのはあんたが教えたらしいね。あんたもやってみな」と同じものを渡された。


 二人して魔力を注ぎ込む。


 ラトラさんがまず確認したのは私のブロック。

 彼女がブロックに力を込めると、とくに何事もなくブロックはカチャカチャと動いた。


 「……違うね。次」

 

 ためらうようにブロックを渡したミル。

 ラトラさんがそのブロックを動かそうとしたが……、ブロックは全く動かなかった。

 

「あれ……、ブロックが……」


 ブロックが動かない。それはそうだろう。


「継ぎ目が……ない」


 ブロックの間にわずかに存在したはずの隙間は、今や溶け合い、一体となっていた。

 

 継ぎ目があった箇所にくぼみはある。

 しかし完全に固着して、稼働のための”遊び”がまるで最初からなかったかのように、一体化してしまっているのだ。


「これは一体……」


「……当たりだね」

 

 ラトラさんは再び椅子に深く腰をかけ、重々しく呟いた。


「久しぶりに見るよ。――――あたしと同じ魔力を持つやつは」


すみません。もう少しミルがメインで話が進みますが、すぐにメルちゃんに活躍してもらいますのでもう少々お待ちを……。

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― 新着の感想 ―
んはは、なんか属性増えてら〜 特有の魔力か〜
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