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第65羽 モルクさんのお店に行こう

 冒険者ギルドでヒッポグリフ討伐依頼の達成と、アシュラマンティスを討伐したことの報告をミルに任せ、私はといえばギルドから少し離れたところで、こっそりと様子を伺っていた。

 幻を貼り付けて認識を逸らす、《白陣:狂言(きょうげん)》を使っているので他の人からは姿は見えなくなっています。


 ……それにしてもなかなか出てきませんね。時間がかかっているんでしょうか……?


「……なにやってんの?」


「ぴぃっ!?」


「わあっ!?」


 突然横から声をかけられ、飛び上がって驚いてしまった。あまりの驚きっぷりに、声をかけた相手も釣られて飛び上がってしまっている。


「お、脅かさないでくださいよ……! トコトさん!」


「それはボクのセリフだよ……!」


 耳をペタリと抑え、恨みがましそうにジトリとした目を向けてくるのはウサミミの美少女、トコトさんだ。


「急に声をかけて来たのはそちらでしょうに……。それで、一体なんの御用ですか?」


 わざとらしく頬を膨らませて腰に手を当てる私に、トコトさんはふっと口元をゆがめた。なんだかいたずらっぽい笑みも浮かべて――――嫌な予感が……。


「おやぁ……? そんなことを言っても良いのかなぁ? ボクはこれでもれっきとした騎士だよ?」


「……なにが言いたいんですか?」


 獲物を見つけた猫のように、きらりと瞳を光らせているトコトさん。とぼけるように聞き返しても意味はなかった。


「大したことはないよ? でも怪しい行動をしている人影を調べるのも、騎士の仕事ってだけ。たとえば――――」


 ニンマリと笑ったトコトさんが、私の顔をじっと見つめる。


「不審な動きをしていたそこのキミ。路地の角から顔だけ出して、コソコソとギルドの様子を覗いてたような人を、ね?」


「うぐ……」


 痛いところをつかれて思わず言葉に詰まってしまった。


「別に変なことをしていたわけではありませんよ。ミルを待っていただけです」


「怪しいなぁ? ふっふっふ、このまましょっぴいて衛兵さんに引き渡しても良いんだよ~?」


 その時のトコトさんの笑顔は、まさに小悪魔そのものだった。


「……なにが望みなんですか?」


 観念してそう聞いた私に、トコトさんはにちゃりとあくどい笑みを浮かべた。くっ! 一体私にどんな要求をするつもりなんですか……!

 

「話が早いじゃないか。そりゃあもちろん――――」


 一拍置いて、トコトさんは私の顔を覗き込むと、からりと笑った。


「なーんてね。嘘に決まってるでしょ?」


「…………え?」


「ひどいなぁ、信じちゃったの? ボクこれでも騎士だよ?」


 ぽかんと呆けていると、トコトさんは口を尖らせてぶーぶー言いはじめてしまった。冗談だったらしい。

 悪意は感じなかったけど、思わず信じてしまいました。悪意は無くても、やる人はいるんですよね……。


「ごめんなさい。疑ってしまいました……」


「ちょ!? 冗談だから気にしないで!」


 私の謝罪を慌てて止めてきた。その焦りっぷりを見ていると、この人根は悪い人じゃないんでしょうけど、と思う。

 そういえばと、疑問が浮かんできた。


「どうやって私に気づいたんですか?」


「……どういうこと?」


「私は先ほど、見つかりにくくなる……魔術(まほう)を使っていたんです。見え方がぼんやりになって、さらに意識を逸らすタイプの」


 トコトさんは「ああ」と納得したように頷いた。


「そゆこと。ボク、認識阻害とか、そういう精神に作用する能力が生まれつき効かないんだよね」


「ああ……、心が強そうですからね」


 断られてもめげずに声をかけてますし——なんて思ったのが顔に出ていたのかもしれない。


「……どういう意味かな~?」


「いひゃい! いひゃいです、とことふぁん!」


 見咎められて頬を引っ張られてしまった。

 思わず涙目になる私をトコトさんはにっこり笑って見ている。なにが楽しいんですか……!

 と、そこでトコトさんは何かを思い出したように真面目な顔になった。


「そうそう。気をつけてね。最近物騒な話が多いから」


「物騒な話ですか?」


「そうだよ? 白蛇聖教の信者が襲われたとか、街中で急に魔物が現れたとか、いなくなった人が見つかったけどその間の記憶はないとか」


「……思ったより多かったです」


「そういうこと。ボクが声をかけたのも、その調査の一環なんだよね」


「そうなんですか?」


「今は監視体制も強まってるから、もし他の人に見つかってたらしょっぴかれてたかもね~」


「それは……助かりました。会えたのがトコトさんで良かったです」


「……ふぅん」


 耳をかいて、気を取り直したように「まあいいや」と呟いたトコトさんは、こちらに向き直った。


「王都のほうがひどいみたいだし、ボクはそろそろ調査でそっちに向かうから、ほんとに気をつけてね? ここに残る白鱗騎士団じゃボクより強い人はいないし、冒険者を含めてもボクより強い人は……」


 ちらり、と私を見やって。


「たぶん、いないからさ」


「ご忠告ありがとうございます。気をつけますね」


「うんうん。いい心がけだよ。……そういえば例の買取金、ちゃんと確認した?」


 買取金……?


「……あ」


 ジャシン教のタラバンが持っていた剣2本のことですね。あの時はヴィネアさんに絡まれて確認することはできなかったし、今の今まで頭から抜けていましたね……。


「次聞いて受け取ってなかったら、教会に連れて行って渡すからね~」


「絶対に受け取っておきます!」


 慌てて答える私に、トコトさんはくすくすとわらった。


「ボクとしては、全然忘れててくれてもいいけどね。じゃ、またね~」


 ふりふりと手を振って去っていくトコトさんに誓う。絶対にお金は受け取って置くと。

 白蛇聖教は、優良宗教っぽいですが教会に行くのはノーサンキューです。

 そのためにも冒険者ギルドに入る必要があるのですが……まあ明日から頑張りましょう。


 遠ざかっていくトコトさんに手を振り返した。その後「おまたせ~」とギルドから出てきたミルと無事に合流することができた。

 どうにもアシュラマンティスの討伐は私のギルドカードから確認したいから、次は顔を見せるように言われていたそう。ヴィネアさんもいて、「なにやってんだか……」って顔をしていたそうです。

 

 ……そろそろ顔をだすことにしましょう。……ミルにはご迷惑をおかけします。


 じゃあ、まずはモルクさんのお店に行きましょう。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 やってきたモルクさんのお店。ポーションなどの回復薬を始め、様々な薬品を取り扱うほか、便利用品なども扱っている手の広いお店だ。


 そのお店の表にはとても目立つ旗が風に吹かれている。


 ”蒼い鳥が救った店!” ”幸運を招く!” ”大特価25%引き!”


 と購買意欲を煽るような言葉がズラリ。これを見るたびにげんなりしてしまう。


 なにせ蒼い鳥とは私のことですからね! 変に広めないで欲しいのに、知名度はうなぎのぼり。勘弁してください……。


 値段は上げてないどころか、襲撃直後ということで割引価格での販売。飛ぶように売れているのに、値上げしてないのはモルクさんの人柄が伺えます。

 この旗のお陰でポーションがよく売れるそうで、黒字でうはうは。大蛇フィスクジュラに襲われたときの損失はすでに回収できたとか。

 恨みきれない事情を聞かせてくるの辞めませんか??

 

 この値下げ、今は名前を売ってこれでお客さんを呼び込み、リピーターを増やす作戦でもあるそう。

 さすが商人。きたなくはない。きたなくはないんですけど……! ズルいです!


 ミルに連れられて向かうのは店の裏の従業員用の入口。ミルが作ったポーションを卸すので、表のお客さん用の入口は通らない。


「お邪魔しま~す」「お邪魔します」


「お、いらっしゃい。そろそろ来ることだと思っていたよ」


 出迎えてくれたのはモルクさん。どうやら在庫の確認をしていた様子です。何やら数字のたくさん書かれた紙を手にしていた。


「ミルさんのポーションを持ってきてくれたんだろう? 飛ぶように売れるからいくらあっても足りないんだ。助かるよ」


「気にしないでください。あたしも贔屓にしてもらってるから」


「いやいや、ミルさんのポーションは質が良いと評判でね。店に並べるとすぐに売れるんだ。こちらとしても稼がせてもらってるからね」


「ミルさんの薬の腕は確かですからね。こぞって欲しがるのもわかります」


「えへへ……」


「ダラム、ミルさんがポーションを持ってきてくれたんだ。帳簿を持ってきてくれるかい?」


「は~い! ただいまお持ちします!」


 メガネをかけたできる秘書のダラムさんがすぐに帳簿を持ってきた。


「ひー、ふー、みーの……。買取価格は占めてこれくらいかな。金額もろもろに問題なければここにサインをしてね」


 そういったモルクさんから渡された紙。それを確認したミルが疑問符を浮かべた。


「……あれ? 売ってるポーションの数が一個多い?」


「おや、数はあってるはずだけど……」


 並べられたポーションを確認するミル。なにかに気づいたように「あ!」と声をあげた。


 手にしたのは、他に比べて明らかに異なる、ぼんやりと鈍く淡い光りを放つポーションにだった。


「ごめんなさい、これは失敗作なの。売り物にできないから、販売数から除いてください」


 そんなときだった。

 横から突然ひょいとポーションが取り上げられた。

 乾いた指、年季の入ったフード、そして目に深く刻まれた皺。

 

 そこにいたのは鋭い目つきをした、おばあちゃんだった。

 

 手にした瓶をじっと見つめ、ミルに問う。


「……こいつを作ったのはあんたかい?」

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ミルちゃんポーション無双始まるか……?
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