第55羽 反省して
「ミルさん、修行は休憩まで含めて修行ですよ? なんで夜ふかししちゃったんですか?」
「ご、ごめんなさい……」
指を突き合わせて、小さく身をすくませたミルが、申し訳無さそうに上目遣いを向けてくる。その姿に思わず許してしまいそうになるが、心を鬼にしてなんとか踏みとどまった。そうしているうちにミルはポツリとこぼした。
「最初は……その、せっかくメルが魔術を教えてくれたんだから、少し勉強しておこうって思ったんだけど……」
「だけど?」
「読み進めるうちに続きが気になっちゃって、……実際に魔術を試したの。最初はうまくできなかったんだど、やり方を見直しながらなんどもやってるうちにコツを掴んできて、あとちょっと、あとちょっとってやってたら、……気づいたら朝になってて……」
「そんなに集中していたんですか……!?」
「うん……。あたし一度集中すると周りが見えなくなるみたいで、薬草と薬について勉強してたときも気づいたら朝になってたことがなんどもあるの。おばあちゃんにも……リヒトにもよく怒られてた……」
「それは……怒るでしょうね……」
「……勝手なことして、ごめんなさい」
しゅんと肩を落として、どんよりと沈んでしまったミル。私はしょうがないと息を吐いて、俯いたままのミルの顔を両手で持ち上げた。
「怒っているのは無茶をしたことについてです。魔術を勉強したことについてではありませんよ。朝まで集中できるなんて、それ自体はすごいことです」
「そうかな……。えへへ……」
「調子に乗らない」
にへっと笑ったミルの額にビシッと手刀を乗せると「あうっ」と情けない悲鳴を上げた。反省はしてください。
「ともかくこの状態で修行をしても身にならないでしょう。むしろ体に悪いです。今日の修行はお休みしましょう」
「……はい。ごめんなさい」
「私はいつも通り孤児院に寄ってきますので、ミルはこのまま寝るんですよ?」
「……わかった」
こくんと頷いたミルの視線が一瞬泳いだのを、私は見逃さなかった。
「……せっかくなので家まで送っていきますよ。途中で倒れたりしないか気が気ではないので」
そういって、ミルを家まで送り届けた。特にふらつく様子もなかったので、もしかして慣れているんでしょうか?
「ところで本は何処にしまったんですか?」
「ここにあるよ」
「ではこれは預かっておきますね」
「え」
「ちゃんとゆっくり寝るんですよ? それまでこれはお預けです」
そう言ってドアを締める間際に見えたミルの顔は、悲壮感に濡れていた。結構揺れてましたからね。本が無ければ、悩む必要も我慢する必要もありません。
集中力が凄まじい人は、その分我慢するのも大変ですから。
ギルティーです。
そのまま孤児院に行って、グルーヴくんと修行をした。
日に日に動きが良くなってます。このまま行けば、街の近くで冒険者活動をするくらいなら問題ない実力になるのも近いでしょう。
へとへとになって倒れたままのグルーヴくんに、いつも通りランニングと素振りをするように言いつけて今日は別れた。
この後はいつも通りならミルとの修行だったんですが……、ミルは徹夜明けですからね。
とはいえ一度様子を見に、ミルの家へ立ち寄ることにした。
もっとも、寝ていた場合起こしてはしのびないので、外から様子を伺うことに。
追憶解放でチーターになり、聞き耳を立てたところ、規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやらあの後、きちんと眠っているみたいですね。
良かったです。
……さて、こうなると手持ち無沙汰になってしまいました。
といってもやることは1つしかありません。――――もちろん修行です。
軽く腹ごなしをして、いつもの岩場に脚を向ける。
とそこで。
「あら」
「おや」
街中でヴィネアさんとばったりと鉢合わせた。
「奇遇ね、メル」
「こんにちは、ヴィネアさん」
「ええ、ごきげんよう。……ミルの姿が見えないみたいだけど、どうかしたの?」
「実は――」
――――少女説明中。
「徹夜で寝てる……」
「そうなんです。どうやら熱中すると周りのことが見えなくなるみたいで……」
「なによ、わたしはてっきり……」
「ヴィネアさん、どうかしましたか?」
「なんでもないわ。……ねえ、あんたこの後修業するんでしょう? 気になるからちょっと見せなさいよ」
53羽で話した展開募集、送っていただけた方ありがとうございました!
大事に検討させていただきます!
一応今日中までですので、なにかある方はお気軽にどうぞ!




