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第52羽 ほうれんそうは大事


「皆さん降りて来てたんですね~。もう、すぐ言ってくださいよ~」

 

「なに遠慮してるのよあんた達。すぐに言わないと気づかないでしょう?」


 「「「えっ……はい」」」


「ヴィネアさん。先程は言い損ねましたが、手合わせの報酬はSランクに推薦していただくことだけで十分ありがたいですよ。私が追加でなにかを望むことはありません。あと、海で勝負は本当に嫌です」


「……しょうがないわね。なんかあったらわたしを頼りなさい。力になれることくらいあるはずよ」


「ええ、頼りにさせてもらいます」


 (((さっきのなかったことにした……)))

 

「まあできることには限りがあるけどね。例えば、他大陸に連れて行ったりはさすがに無理だけど……」


 ヴィネアさんは少しバツが悪そうに自分の腕を掴んだ。私は笑ってやんわりと首を振る。


「ヴィネアさんにも都合はあるでしょうし、それは高望みがすぎると言うものです。ただ、貴女のような方を頼りにできるだけで、とても心強いんですよ」


 そもそも彼女達は仕事でこの大陸に渡って来ている。それもお母様が暴れたときの引き止め役として。むしろ申し訳ないくらいだ。

 大陸から移動するためにヴィネアさんを頼る場合、パーティーメンバーになって彼女と一緒にいる必要がある。大陸移動の権利を持っているのはSランクのヴィネアさんだけ。メンバーはそれに同行するという形を取る以上、ヴィネアさんとメンバーが別々の大陸に滞在することは多分できない。

 

 そんなことを考えながらの言葉だったのですが、ヴィネアさんから送られてきたのはジトリとした視線。


「……あんた、それわざとやってる?」


「え? すみません、変なことを言ってしまいましたか?」


「ヴィネアさん……。メルはいつもこの調子なんです」


「……そ。あんたも苦労するわね」


「あはは……」


 2人の反応に「う~ん……、こういうのは正直に伝えるべきだと思っていたんですが……」と独りごちていると、扇を広げて顔を隠したヴィネアさんが呆れたように、「もう良いわよ。あんたはそのまんまでいなさい」と言われてしまいました。

 ミルはうんうんと頷いていて、従者2人は少し驚いてなにか言っていました。


 「「あのお嬢様が……照れてる……!?」」

 

 私には聞こえませんでしたが、ヴィネアさんは聞こえたみたいで「おだまりなさい」とビー玉のようにした水を2人の額にパシュッと命中させていた。うっすら耳が赤くなっていましたが、なにかあったのでしょうか……?

 

 息をはいて腕を組んだヴィネアさんは、何かを振り払うように畳んだ扇を突きつけてきた。


「あんたはさっさとランクをあげなさい。このわたしに勝ったんだから、報酬を無駄にするなんて許さないわよ」


「そうですね。頑張ってたくさん依頼を……」


 そこでミルと目があった。気まずそうに目を逸らした彼女がぎゅっと袖を握っている。

 私も言葉に詰まって、視線を地面に落としてしまった。……気まずくなった理由は明白だった。私がSランクを目指していることを、まだちゃんと伝えていなかったから。


「あんた達……まさかまだ話してなかったの?」


「う。まあ……、はい」


 呆れ気味のヴィネアさんから視線を逸らす。

 昨日ヴィネアさん達と別れたあと、話を切り出そうとしたのですが、ミルに止められてしまいました。


『明日メルは手合わせだし、今日は休もう? あたしもちょっと考える時間が欲しいし……』


 そんなミルの言葉に甘えて先延ばしにしてしまったのです。


「さっきまでの様子を見る限り今は大丈夫そうだけど、拗れる前に解決しておきなさいよ」


「はい、おっしゃるとおりです……」


「じゃあこの後ちゃんと話すのよね?」


「えっと……それはその……折を見て……」


 煮えきらない私の態度に、ヴィネアさんは再びため息をついて呆れたように腕を組んだ。


「うだうだ悩んでたって何も解決しないわ。むしろ問題は悪化していく一方よ。都合の良い奇跡なんてそうそう起こりはしないんだから、さっさとなんとかしなさい」


「はい……」


 ぐうの音も出ないド正論です。


「じゃあこの後ちゃんと話すのよ? ――――良いわね?」


「はい……」


「うん……」


 ヴィネアさんは、「なんで部外者のわたしがこんな余計なお節介やいているのかしら……」と頭痛を抑えるように眉間に手を当てていた。


「……まあ良いわ。メル、今日はわたしの我儘に付き合ってくれてありがとう。この手合わせは実りの多いものだったわ。……願わくば貴女にもなにか残せていると嬉しいわ。それではごきげんよう」


 そう言ってヴィネアさん達は去っていった。

 微妙な空気になった私達を残したまま。


「……ミルさん、私達も帰りましょうか」


「……うん」


「その……ミルさんのお家で私の目標の件についてお話させてもらっても良いですか? ……私がいるのは宿なので……」


「うん。あたしもそれが良いと思う」

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 そうして2人でやってきたのはミルの家。案内された部屋は、以前毒の治療をしてもらった、あの懐かしい部屋だった。

 今はさっきの手合わせの怪我がないかミルに診てもらっている。


「……怪我はないみたいだね。良かった」


「はい、ありがとうございます」


 それから気まずい沈黙が残った。

 対面に座ったミルは視線があちこちに揺れている。私も同話を切り出そうか口を開いて、閉じるのを繰り返していた。


「ミルさん、……その」


 話を切り出したのは私から。でもそれはミルに遮られてしまった。


「ねえ、メル」


 その声は震えていた。


 「――――あたし達、パーティー…………解散しよっか?」

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