第四十羽 わあ、仲間じゃない!
『えっと、私はメルです。あなたは?』
先ほどと同じように気づけば足元にいたスライムさんに向け、腹痛をプルプルこらえながら誰何する。顔に切り傷を負ったスライムはその言葉に答え、名乗りを上げた。
『む、某は流離いのスライム。人呼んで―――サスライム』
「そのままっ!!」
流れで付けましたと説明されても納得できるような、そのままな名前に念話中なのにおもわず叫んでしまった。きっと私は悪くありません。
『ふ、名は体を表すという。いい名前であろう?』
『……そうですね』
ニヒルな笑みを浮かべたイケメンスライムに何も言えなくなる。だがそこで話の流れが変わる。なんとそのスライムがキロリと睨み付けて来たのだ。
『それにしてもお主……、某を騙そうとしているだろう』
『だ、騙す……? 何を言っているのか……心当たりがありません』
『その振動! 某は騙されんぞ』
サスライムさんの怒りを表すように粘液ボディは縦にグニュングニュンと伸び縮み。
その体のお腹辺りをグニュンと伸ばして指し示したのは、なんと私の脚。力が入らず震えてしまっている私の脚を親の敵でも見るかのように睨み付けていた。
『えっ これのことですか?』
確かめるように未だ震え続ける私の脚に視線を下ろした。
『そうだ! その動きは我らスライムが仲間に無害であると伝える為のもの!』
『えっ。これが仲間だと言っていることになるんですか!?』
『白々しい! 他の種族のものがそんな動きになるなど、そうそうない! 狙ってでもない限りはな!』
それはそう。私は思わず白目を剥いた。……もしかして最初のスライムはこの動きに誘われた……? そ、そんなのわかるわけがありませんよ!! 不可抗力です!
『ご、誤解です! これは偶然なんです!! 本当です、ウソじゃありません!』
『まだ言うか! 最早許してはおけぬ……。しからば、成敗!!』
言うや否や。サスライムさんは体を後ろに引き延ばしたかと思えば、次の瞬間には目にも留まらぬ速度で突撃してきた。
「ま、待って―――――ぴっ??!?!?」
腹部に衝撃。終わった。そう思ったけれど、受けた衝撃は思ったよりも小さな物で。
どうやら無意識に全身に力を込めて、闘気が漏れだしていたようで『蒼気硬化』の影響で鎧のようになって守ってくれたのです。……た、耐えた……! 私は耐えました……!
『ぬ? 防いだか……!! だが次はどうかっ!』
続く攻撃に移ろうとしているサスライムさん。流石にもう一度受けてしまえばどうなるか分かりません。フーちゃんがいないので自力で……!!
「か、風よ……!!」
『わーー』
制御も適当で魔力に任せの魔法をサスライムさんへ向ける。強い風に巻き上げられてサスライムさんはどこかへと消えていった。……スライムなので高い所から落ちても大丈夫でしょう。
安堵に胸をなで下ろ――――そうとして襲いかかった腹痛に体が固まる。
「ううぅぅ~」
棒を支えにして、お腹の痛みをこらえているとミルの力強い声が聞こえてきた。
「《ティア・クラウン》!!」
目を向ければ水をまとった杖が大上段から振り下ろされる所だった。しかしすばしっこいゴブリンは余裕を持って後ろに下がることで杖を避けてしまう。目の前で地面に激突した杖を余所に前に踏み込もうとしたところで――――まるで王冠のように地面から吹き上がった水流に体を持ち上げられてしまう。
打ち付けられた杖はさながら水面に落下した一滴の水滴。布石の一つに過ぎなかった。
「そこっ! 《アクアランサー》!!」
水の槍が狙い違わず命中する。遂に魔法がミルにまとわりついていたゴブリンへの有効打となったのだ。
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