第三十八羽 わあ、仲間だ!
ミルに心配されながらのゴブリンと睨み合いは唐突に終わった。
「グ、グギャアッ!! グッギャアッ!!」
目の前のゴブリンが切羽詰まったような鳴き声を上げると、少し離れた茂みがガサガサと揺れて追加のゴブリンが四匹現れた。なんで増えるんですか?
「メル……逃げられる?」
「走れないので多分無理です……」
「だよね……。戦って突破するしかないよ。ちょうど依頼は五匹だかし、あたしも頑張るから諦めないで」
「……ううぅぅ」
今はミルだけが頼りです……。不甲斐なくてすみません。
「行くよ。《アクアランサー》!」
「グギャッ!?」
開幕ミルが魔法を発動。素早く飛来した水の槍に最初のゴブリンがたまらず真正面から被弾。水しぶきをまき散らしながら、茂みの方へと消えていった。次は私。
「早く終わらせて帰るんです……!!」
私の安寧の為に……!
現状槍を振るうのは無理。となれば攻撃手段は魔術しかありません。無明金剛を杖にして体を支えながら、狼狽えているゴブリンに左手向ける。
「《白陣:砲嘛》」
白い魔術陣から拳大の魔力が弾けるように飛び出した。衝撃がゴブリンを襲って仰け反らせる。
《砲嘛》は制御が比較的簡単な魔術の中でも、とびきり簡単な魔術です。魔力を属性に変換することなく打ち出しているだけなので術の行程が少ないからですね。その分威力は抑えめですが、咄嗟の時や意識を割けなくてもどうしても魔術を使わなくてはいけない時に役割はあります。
例えば今みたいにまともに集中できない状況なんかですね。
それとこの魔術は特徴があって、魔術陣を維持している間魔力弾が連続で発射されます。威力は最初に発射した魔力弾と同じで、陣に送り込んだ魔力が打ち出す魔力弾の必要量に満たされると自動で発射。次々にグミ撃ちします。
一発目の威力次第で、連続掃射や断続砲撃に変化するシンプルながら多機能な魔術です。牽制、追撃、トドメ、となんでもござれ。魔力弾の生成は陣が勝手にやってくれるので、一度発動してしまえば魔法と比べても向ける意識を込める魔力に限定でき、感覚的に使える便利な魔術。師匠の傑作の一つです。
……まあそんなことは今どうでも良くて。重要なのは、一度発動すれば立ってるだけでゴブリンが蜂の巣になるって事です。
「グギャッ!?」
「……うわ。凄い魔法……」
正確には魔法じゃなくて魔術ですが、今はそれどころではありませんので説明は後で。
打ち出された魔弾が次々にゴブリンを打ち据えていく。最初に仰け反ってしまえば後は簡単。痛みと衝撃でまともに動く事も出来ずに一匹目は絶命した。二匹目へと射線を向けたところで残りの二匹が動いた。一見強そうな攻撃をしている私ではなく、側に居たミルに向かって行ったのだ。
「ミル!」
「……大丈夫!」
飛び出した二匹に今の私では対処できなかった。しかしミルは狼狽えることなく魔法の準備を開始していた。私が巻き込まれないように距離を取る。
接近戦が苦手な魔法使いタイプとはいえ、彼女もCランクの冒険者です。彼女が大丈夫だというのなら問題ないでしょう。
……寧ろ動き出したゴブリンに釣られて射線をずらした私の方が危なかったかもしれません。ノロノロと腕を戻す間に二匹目のゴブリンに結構近づかれていたので。なんとか間に合って倒せましたけれど。
「《ウェーブインパクト》!! 《アクアランサー》!」
そんな間にミルは私から離れつつ、接近してきたゴブリンに魔法を発動させていた。《ウェーブインパクト》という魔法で自身を中心に水の衝撃波が強かに打ち付け、囲もうとしていた二匹に尻餅をつかせた。そこにトドメの《アクアランサー》で片方を軽々と撃破。そこで急いで起き上がったもう一匹がミルに向かっていった。
「ギャギャ!」
「……この!!」
……《ウェーブインパクト》はタメが居るのでしょうか。ミルは距離を離そうとして、ゴブリンは離されまいと近づこうとする。
案外ねばっているようで、なかなか終わりそうもありません。ミルとゴブリンの立ち位置はクルクルと入れ替わっているので、狙いが付けづらく誤射をしてしまいそう。ここは下手に手を出さず信じて待ちましょうか。
……おや?
「きゅい?」
プルプル脚を震えさせながら立っていると、いつの間にか足元にプルプル揺れる水色の動く球体が。これは……スライムですかね? ゴブリンは人間を襲ったりと結構危険ですが、スライムは特にそんなことはありません。倒す必要はありませんね。
「スライムさん、本日はお日柄も良く散歩日和ですね。ここは危ないのであっち行った方が良いですよ? ……なんでこっち見てるんですか?」




