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第三十二羽 閃光と暗がり

「おーい!」


 倒れた二人を油断なく見下ろしていると、さっきのウサミミ騎士がこちらに駆けよってきた。


「きみジャシン教の幹部を一人で倒せるって凄いね!! 名前は? どこ住み? てかかわいいね、白蛇聖教入らない?」


 なんだこいつ。


「なんだこいつ」


「ガーン……!!」


 ……はっ!? 思わず口に出してしまった!?


「すみませんすみません……。トコト様は距離感がわからないタイプのコミュ障でして……」


「ひ、酷いや……」


 側に居た騎士のヒトがウサミミ騎士をフォローしてぺこぺこと頭を下げている。フォロー……、フォロー? さらっと毒を吐いているあたり強かな人なのかも……。


「あ、いや、こちらこそすみません。ビックリしただけですので」


「ゴホンゴホン、ボクは白鱗騎士団のトコトだよ。よろしくね」


 咳払いをしてとりなしたトコトさん。汚れ一つない新雪のようなウサミミと、同じく純白の髪を揺らして手を差し出してきた。はにかむ笑顔がかわいい、愛嬌のある美少女です。

 どことは言いませんが……何食べたらそんなに大きくなるんですか……? 引きちぎりますよ。


「冒険者のメルです。よろしくお願いします。……それでこの二人はどうするのですか?」


「この二人は重要な情報源だよ。したっぱカルトはジャシン教の情報はあんまり持ってないからね。本部に連れて帰って尋問って形かな」


「なるほど」


 彼女の言うことは道理ですね。危険な宗教団体ですし情報は必須です。……まあ、かなり厳しい尋問になるでしょうが、テロ行為までやってますし、致し方ない……かなぁ。


 眉間にシワを寄せて考えていた所に、どこからともなく拳大のボールが転がってきた。それは見覚えのあるもので。

 これはエセ忍者の持っていたものと同じもの!? 毒!? それとも爆弾!? ともかくその危険物から目を離すことなく、注意を促すべく叫ぶ。


「皆さん! 気をつ―――」


 そこまで言った所で―――閃光と爆音が周囲にまき散らされた。


 目がアアアァァァァァァァアア!?!!?


「耳がアアアァァァァァァァアア!?」


 貴女もですか!?

 警戒して注視していた私は光に目をやられ、大きなウサミミのトコトさんは音に耳をやられ。同様に騎士団に人達も行動不能。一瞬にして前後不覚の状況に陥ってしまった。


 視界は真っ白に塗りつぶされ、頭がグワングワンと揺れる不快感が渦巻く中、何かが走ってくる振動を脚から感じ取った。これは……直ぐ側の物陰から誰かがエセ忍者と巻き髭の所へ走って行っている?


 まだジャシン教の仲間が潜んでいたのですか……!? 全く気づきけませんでした……!! この距離で気づかせないなんて、ものすごい実力者、もしくはスキル……!!


 悔やんでいても仕方がありません。まっすぐに歩くのも困難なほど平衡感覚が狂った中、脚に感じる振動を頼りに敵の位置を特定する。


「……そこ!!」


無明金剛(シラズガナ)』を構え、投擲。


「!!?!?」


 僅かに走る振動が変化して、しかしそれだけ。すぐに元通り走り出した。


「待ちなさい!!」


 乱入者は制止の声に応えることもなく、魔法の気配を残して消え去った。


 徐々に視界が戻ってくる。そこにはエセ忍者と巻き髭の顔型が残った地面があるだけ。転移で逃げましたか……。まさか三人目に全く気づかないなんて……。

 不覚を取りました……。


「すみません……、逃げられてしまいました」


「うへ!? いやいやいやいや!! メルは悪くないよ! ボクの耳でも気づけなかったから、きっとそういうスキルを持ってたんだよ! しょうがないって!!」


 焦ったようにブンブンと手を横に振るトコトさん。暗い顔でもしていたのでしょうか。心配させて申しわけありません。なにか言おうと口を開いた時に思わず咳き込んでしまった。


「……ゴホッ」


「え? ち、血が……。め、メディィィック!!」


 トコトさんが絶叫した。

 貴女も絶叫するタイプですか……うるさいです。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 



「し、死ぬかと思った……!!」


 一般兵カルトがしているような格好をした人影が一つ、薄暗い廊下を進んでいく。ローブを深く被っているため顔の見えないその人影は寒気を覚えたように腕をさすっていた。

 食いしばった歯の奥から言い表せない理不尽への恨み言が零れる。


「あの槍使い、なんで3人(・・)がかりで落とせないんだよ……!! おかしいだろ!」


 思い出すのは濡れ羽色の髪を伸ばした幼い風貌の少女だった。直接戦闘をする二人と、密かに後方支援する自分で計三人で相対することになった相手。

 三対一の圧倒的有利な体制で挑んだはずだった。幾つか使えない手があっても問題ないはずだった。それが一方的に追い詰められてしまった。


 確かに暗殺者ゆえにピスコルが正面戦闘が比較的苦手とはいえ、そもそも並みの強さではない。しかもタラバンまでいて、二刀での接近戦に加え、シャボンの魔法まで使った。必要に迫られなければ使わないタラバンの奥の手の一つであるとりもち粘液も使った。あのキモいやつな。


 相手の行動を制限して追い詰めたはずだった。でもそれは幻想だった。


 フィールドまでこちらが掌握したのに、それすら踏み越えてあの幼い槍使いは二人を下したのだ。かわいい顔してエゲツない戦闘力だ。あれは流石に手に余る。


「しかもウチの能力も全然効かないし……!! ああもう! タラバンの剣も2本取られちまったし、二人とも大怪我で治療中だし! ウチは戦闘員じゃなくて裏方だってのに!!」


 今回の作戦を伝えて後は待つだけとなったアジトの中でゆっくりとくつろいでいたら、タラバンからの突然の救援要請。行ってみれば合掌した土塊から顔だけ覗かせるその姿に腹を抱えて笑ったものだ。良いものを見せて貰ったと、助け出した後で帰ろうとしたら念の為に残ってくれと言われた。


 よく考えなくてもこの場には確かにタラバンを無力化したものがいるわけで……。

 予定にない事態(イレギュラー)に、渋々行ってみたらピスコルはボコボコにされてるし、いざとなったら自分の能力が全然効かないし。能力には僅かに引っかかったような気配もあったものの、すぐに振り切られてしまった。


 結局タラバンが加勢するタイミングでちょっと助力ができた程度。結構頑張ったのに大した効果は得られなかった。


 その後は白蛇聖教が参戦して撤退となったのに、二人は敗北。自分が助け出す羽目になった。


 念の為に閃光発音弾(フラッシュバン)を持ってきておいて良かった。能力を全開にしていたのに、なぜか自分がいる場所に気づかれてあの黒くて硬い棒を投げつけられたのだ。

 相手がフラフラで、自分が驚きのあまり飛び上がらなかったら今頃は脚が使い物にならなくなっていただろう。

 その場面を思い出し、這い寄る寒気に再び腕をさする。


「うう……、思い出したら鳥肌たってきた……。あ、教祖様……」


「……ああ」


 敬愛する我らがボスが椅子に頬杖をついて座っているのが目に入り、思考に飛ばしていた意識が引き戻される。

 気づかぬうちに目的の部屋にたどり着いているようだった。乱れた思考を押さえつけるように息を吐く。


「……ふう。今回の作戦はダメだった。タラバンとピスコルの二人は治療を受けてる。しばらくは動けねぇ。原因は一人の槍使いだ。多分メリィが言ってたヤツだな。ウチの力も効かなかった」


「報告にあった天帝の娘か……。お前の力も効かないとはな……。だがヤツの子なら……それも道理か……?」


 半年前自分が思い至り、捨てた可能性。万に一つもない確率。いくら天帝のまさか本当に……あの場所を通ったのか? それはどんな偶然か。


「……それで東の進展は?」


「……全然ダメ。あの大陸は未だ統一されていない修羅の場所だ。頭のおかしい強さのヤツらが多い。……メリィを向かわせるか?」


「いや、あいつには北を見ていて貰わなくてはならない」


「そうだよなぁ……」


 手詰まりといった風に大きく息を吐き出す。


「そもそも幹部が半分以上(・・・・)動かせない状況なのがキツいんだって……」


 頭を抱えて吐き出されたその愚痴にジャシン教の首領は答えず、椅子の手すりを指でこつこつと叩いている。


「ここ半年は封印の緩みが全くといって良いほど進展がない……。この遅々として進まない状況は半年前に活動を始めたヤツら(・・・)のせいだ。あと少し……あと少しだというのに……!!」


 唸るように漏らした言葉には上手く事が運べない現状に対する苛立ちがあった。


「……殺すか?」


「魅力的な提案だが……それは尚早だ。お前もわかっているだろう。それは最後の手段だ。出来はするが……デメリットが多い。今はひたすら妨害に徹するしかない」


「じゃあそれと合わせて……しばらくは適当な場所に捨て駒を送り込むだけになるな」


「それでも……やらないよりマシ……か」


 疲れたように大きく息を吐き出した。


隠れた三人目が何らかの力で主人公の妨害をしていました。あんまり効いていなかったみたいですが。

それとジャシン教は企みが上手く行っていないようですねぇ。

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[一言] 第3の敵の能力は思考誘導か?
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