第二十一羽 一般通過バード行きます
「なん――――うぎゃ!?」「どうし――――おご!?」「おい――――あばら!?」
これで何度目か、進行方向で暴れていたジャシン教達を通り抜けざまにのしていく。どうも、一般通過バードですよ~。
私は無才の身ですが、流石に基礎スペックで勝っている人たちに苦戦することはありません。見かける度に秒殺してきました。……本当に殺してはいないですけどね。
それにしてもモルクさんのお店に寄って良かった。そうでなかったら、あのまま倒壊する建物に飲み込まれていたかも知れません。あの結界のようなものがなければ間に合っていなかったでしょう。思い出すだけで冷や汗が流れます。
ともかく無事で良かったと、ほっと胸をなで下ろす。
そんなことを考えている間に、爆発地点が近づいてきました。
四つの大通りが交差した地点に巨大な円形のスペースがある地点ですね。そこにある家屋のいくつかから煙が上がっています。
なんども言いますが、私はなるべく目立ちたくありません。へんな注目はもうこりごりです。人化した私が矢面に出ることなく、サポートするような形で事件が収束するのが理想ですね。
とは言え人を見捨てることはないですが。それは私にとって超えてはならない一線です。
ん? あれは――――!?
しかしその時目に入った光景にそんな考えは消し飛び、気づけば全速力で飛び出していた。
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「はあ……」
明るい内装のおしゃれなカフェ。そこに真反対に暗い雰囲気を醸し出す少女がいた。腰まで伸ばした金髪は僅かにくすんでいて、最近の手入れが怠られている事が伺える。
少女の名前はミルといった。
一ヶ月ほど前までは別の大陸にいたのだが、今では日がな一日1人で時間を潰し、なにも行動が出来ない毎日を過ごしていた。
暖かな湯気が立ち上るカフェオレが入ったカップの中身をスプーンでなんともなしに混ぜている。せっかく気分転換するためにに来たのに、グルグルとミルクが回っている様子を見ていると自分の悩みが一向に解決していないことを暗示しているようで気が滅入ってきた。
「はあ……」
思わずもう一度ため息を溢してしまう。なんど思い出したかもわからないその記憶を再び思い出していた。
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「おはようリヒト。今日も良い朝だね」
「……ミル、お前にはこのパーティーを抜けて貰う」
「……え、何言ってるのリヒト?」
それは青天の霹靂。朝一でパーティーメンバーと合流した時のことだった。突然リヒトにパーティの脱退を告げられたのだ。
「一週間前、パーティーの実力の底上げを兼ねて潜った迷宮でお前を庇ってバルサスが大怪我を負った。幸いシャールが魔法で直したけれど、下手したらパーティーがあのまま壊滅していた」
「そ、それは……、ごめんなさい……」
ダンジョン内での戦いで、敵の攻撃を避けきれなかったときの事を言っているのだとすぐ分かった。リヒト達が着実に追い詰めていた強靱な四足の魔物が痛みにもだえて放った攻撃が明後日の方向に飛んできて、それが偶然ミルの居た所に降りかかってきたのだ。
盾役の彼に庇って貰っていなければミルはきっと死んでいた。
バルサスはずんぐりむっくりで大量の髭を蓄えたドワーフ族の男性だ。彼は見た目からは想像も出来ない怪力を使って、巨大な大盾と戦斧を操って戦う戦士。主にパーティーの前衛を務めてくれている。彼のどっしりと構えた戦い方は安定感があって頼りになる。
そんな彼を癒やしてくれたのがシャールだ。リヒトが勇者認定される原因になった聖女。回復と結界の魔法が得意で、簡単な魔法が使える。性格はともかく腕は一級品。悔しいけどあたしを芋娘と呼ぶ彼女は有能でかわいい。
もう1人、壁に背を預けている目が細いエルフの男性がマーカス。膨大な魔力を持った魔法使いで、あたしの魔法なんて比べるのもおこがましいほどの実力者。細かい制御から広範囲攻撃までなんでもござれ。常に冷静でパーティーの作戦立案係だ。
当時は彼が撤退を提案してリヒトがそれを承諾した。
そんな彼らはリヒトのパーティー相応しい才能を持った人たちだった。
―――あたしを除いて。
あたしはタダの村娘で魔法がちょっと使えて薬の調合が出来る程度。魔法は弱い魔物にしか効果は見込めない。回復薬も作れるけど、即効性のあるシャールの治癒魔法の方が便利だ。接近戦はかじった程度で、前衛二人には遠く及ばない。
「この話は全員が納得している」
「そんな……、嘘だよね皆……」
「……」
誰もが無言を貫き、目を合わせようともしない。あたしはここではお荷物なのだと、そんな事実を突きつけられた様な気がした。
「じゃ、じゃあ! あたし、拠点で待機してるからさ! 帰ってきた皆が楽になるようにもっと色々できるし、困ったこともすぐに手伝うよ。だからあたしまだ役に―――」
「芋娘、見苦しいですわよ。貴女になにができまして?」
「……ッ!! そんなの……!!」
呆れたようにそう言ったシャールはこれまでにないほど冷たい瞳をしていて。あたしは気づけば部屋から飛び出していた。
――――――――――――――――
それからの事はあまり覚えてない。手切れ金のつもりなのかしばらく食うに困らないお金を渡されて、気づけば故郷の南の大陸に送り返されていた。
だからといって村には帰れない。リヒトと一緒に冒険者になると言ったのに、自分だけ帰っても皆になんと言えばいい? 実力が足りなくて追い出されたというのか? そんなの白い目で見られるに決まっている。
こうなったら強くなって見返して、パーティーに認めさせるしかない。そのために努力したけど成果は一向に得られなかった。魔法も近接戦闘もてんでだめ。一ヶ月とちょっと訓練して伸びるのだったらこんなに苦労していない。こんなんじゃ、戻れない。
(あたしはリヒトを支えるために冒険者になったのに……)
「どうしたら良いのかな……。あたしじゃ無理なのかな……」
――突如響いた爆音がそんな悩みを吹き飛ばした。
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