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第十六羽 襲撃

 

 気にくわない……!! 気にくわない……!! 気にくわない……!!


 起き出してきた孤児院の子達が各々騎士団の面々に飛びついていく中、グルーヴは非常に不機嫌だった。原因は目の前の女だ。


 白鱗騎士団に稽古を付けて貰って帰ってきた矢先、突然わいてきたのがこいつだ。綺麗な身なりをしたこいつが孤児院に食べ物の施しをしてくれたとシスタークレアが言っていた。それはありがたい。

 ありがたい話だが、自分よりも小さい子供がポンと寄付をできるはずもない。どうせ金持ちの親から貰った金を使って憐れみを感じたこいつが良い事をした気分に浸るタメに寄付をしたのだろうと思った。

 一度そう考えるとダメだとは思いつつも苛立ちを隠しきれず、きつい言葉をぶつけてしまった。言った後で泣かせてしまうかもしれないと若干の罪悪感を覚えていると、泣くどころか優しい顔をしたこいつはなぜか偉いなどと褒めながら頭を撫でてきたのだ。

 訳が分からない。理解の及ばない生き物から距離を取って思わず頭を抑えていた。なんだこいつ! 驚いて心臓がバクバクいっている。そう、驚いたせいなんだ。顔が熱いのは。


 思うわけないだろ。褒められてちょっとうれしいだなんて……!! 絶対に……!!


 そんな女は冒険者だと言った。嘘だと思った。だってそいつは自分より小さかったし、弱そうだったから。実際チビって言ったら反応してたし。その時はなんか笑顔が怖かったけどビビってなんかないし。


 その場しのぎのそいつの嘘、それをばらすタメに勝負をしようと言った。でもそいつは戦わないと言った。それどころか戦いが怖いだなんて。冒険者だと自分で言ったくせに、馬鹿にしているのかと思った。


 そしたら今度はトーヴ分隊長に怒られてしまった。「俺がお前に剣を教えたのは誰かを脅すためか? よく考えろ、愚か者め……!!」って。こいつのせいでオレが怒られてしまった。


 でも、そうだ。オレは皆を守るために稽古をしているんだ。戦いを怖がるような臆病者に構っている時間はない。


 そう思ったらトーヴ分隊長になぜかこいつが褒められていた。あるはずのない差を見せつけられた気分で気にくわなかった。そしてもっと気にくわないのが……。


「メル姉ちゃん!! どこいってたの!」


「おっとクルークくん、急に飛びついたら危ないですよ」


 いつもだったら一番に自分の所にやってくる弟がその女を見つけた途端、脇目も振らずに飛んでいった事だった。


「あ! 兄ちゃんお帰り!!」


「……ただいま」


「あのねあのね!! メル姉ちゃんすごいんだよ!! 二つのはさむ奴でシュババってしたら、お肉がじゅわーなんだよ!! しかもそれを3つもするの!!」


「……そうか」


「……どうしたの兄ちゃん? けがしてるの?」


「……ちょっと疲れただけだよ。ちょっと外に出てる」


「あ、兄ちゃん!」


 廊下に出て扉を閉めるときに女を睨み付けてやれば困ったように笑うばかり。……臆病者が。部屋の外で壁に背を預けていると、部屋の中から誰か出てきた。


 黒い猫耳と緑の瞳が特徴の獣人の女の子、一緒に稽古に行っていた内の1人であるミシャーラだ。


 ……なんだか色合いがあいつに似てるから今は話したくない。そう思って目を瞑っていたらミシャーラは開口一番。


「あんた今回の、かなりダサいよ」


 そんなの……。


「……うるさい」


「ふーん、言い返さないんだ」


「…………」


 今度は何も答えなかった。ガチャリと再びドアが開く音。ミシャーラは言うだけ言って中に戻っていった。なんなんだ一体。気にくわない……!!


 しばらくして、ドアを開けてトーヴ分隊長達が外に出てくる。部屋の中には物足りなさそうにした子達の顔がちらりと見えた。シスター達が仕事をしている部屋に起きたみんなで押しかけたものだからすし詰め状態だ。

 出てくるのに苦労したのか息をついたトーヴ分隊長。そこでこちらに気づいた。


「グルーヴ、自己鍛錬は怠るなよ」


「……はい」


 頭に乗せられた大きな手で包まれるように頭を撫でられる。オレは分隊長の大きくててゴツい手の平が好きだ。暖かくて、父親が居ればこんな感じなのかななんて考えた事もある。

 でも今までと違って、そこにあの女の影が過ぎる。さっき撫でられたせいだ。……気にくわない。

 再びの見回りに出て行くため、正面玄関を通って門へと向かっていく白鱗騎士団のみんな。しばらく見送って本棟に戻り、1人で天井を見上げた。


 ……さっきから頭の中にあの女の影がちらつく。


 剣でも振って忘れよう。そう考えて歩き出した所で、門の方が騒がしくなった。なんだろうか。


 僅かに考えた後、好奇心に負け音の方を確認することにした。孤児院本棟の正面玄関を開けたところに、踏ん張った脚で土煙を引きながら分隊長が吹っ飛んできた。剣を手にしており、険しい表情をしている。


「トーヴ分隊長!?」


「グルーヴか! 今すぐみんなを引き連れて裏から逃げろ!!」


「なにが―――」


「おやおや、それは困るのであるよ」


 口元から伸びたひげ、クルリと巻かれた奇妙なそれを片手でしごきながら、剣を手にした男が歩いてくる。

 それに引き連れられるようにして門の方からゾロゾロと黒いローブを身にまとった大勢の人間が。


「ジャシン教が攻めてきた……!!」



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