第十五羽 チビじゃないです
冷ややかな声の方向には、敵意を隠そうともしない少年が腕を組んで立っていた。帯剣はしているものの、鎧は着ていない。騎士になるにはまだ幼いですね。クレアさんが言っていた訓練を受けている子の1人でしょうか。後ろの方には他にも似たような格好をした子達が見えます。
彼は私の見た目から親のお金を使っていると考えたのでしょう。……まあ妥当……全然妥当ではありませんが??
「バカ者!!」
「いでっ!?」
そんな彼の頭からゴチンと鈍い音がした。分隊長さんがゲンコツを振り下ろしたのだ。痛そう……。
そのまま少年の頭をグイッと抑えつけた分隊長さんがガバリと頭を下げる。少年は抜け出そうともがくけれど、力の差から呻くことしかできていない。
「すまないお嬢さん。うちの馬鹿が失礼をした」
「ふふふ、いえ、気にしていないですよ。元気があって良いですね」
「……かたじけない」
それにしても、と。未だ隊長さんの手の中でもがく少年を下からしゃがんで覗きこむ。
「な、なんだよお前」
「う~ん」
彼の顔に既視感が……。ああ、そっか。
「君はクルークくんのお兄ちゃんですね」
「は? なんであいつの名前を……」
「やっぱり」
目元なんかがそっくりです。
さっきのは一種の威嚇でしょう。弟を自分の力で守りたいお兄ちゃんの精一杯の背伸びです。そのために力を求めて、白鱗騎士団の方達に教えを請うているのでしょう。
大切なものを守るために力を得ようと努力している。
「君は偉いですね」
「!!? なんで急に撫でる!?」
「あ」
思わず両手でわしゃわしゃと頭を撫でてしまいました。少年は驚いた猫みたいに飛び退いて手の届かない場所へ。怒っているのか顔を赤くして手を頭に乗せています。
「ごめんなさい、つい。ふふ、自分で守りたい場所に部外者が入ってきて気にくわなかったんですよね」
「そ、そんなんじゃねえし!?」
うんうんと訳知り顔で頷く。そういう子居ましたからね。ふしゃーと猫みたいに威嚇している少年から分隊長さんへ視線を移す。
「そうだ分隊長さん、お金は心配には及びませんよ。出したのは全て自分で得たものですので」
「ふむ、君が自力でか?」
「はい。私冒険者なので」
「なんだと!? お前みたいなチビに稼げるわけないだろ!」
「ちびじゃないですが???」
「!!?」
少年に笑顔を向ければ、分隊長さんの後ろに隠れてしまった。はて? どうしたのでしょうか?
「お前な……」
分隊長さんは呆れたように少年を見て、他の騎士の人たちやクレアさんは楽しげに笑っています。
「おいコラ! お前が冒険者だっていうのならオレと勝負しろ!!」
分隊長さんの後ろに体を隠した少年から勝負を仕掛けられてしまった。う~ん、困りましたね……。
「いえ、戦う理由がないのでやめておきます」
「なんだと臆病者め! 戦うのが怖いのか!!」
「そうですね……、戦うのは……すごく怖いですよ」
痛いし、苦しいし、キツいし、辛い。戦いがあると誰かが死ぬかもしれない。それはすごく怖いことです。いえ、これは殺し合いのことであって、戦いの話とはちょっと違いますかね。
修行目的の手合わせでしたら、それはそれで楽しいのですけど。
「なんだホントの臆病者か……。それならお前の負けだぞ!!」
「はい、私の負けですね」
「……は? お前、馬鹿に―――」
「……見苦しいぞ、グルーヴ」
こちらにズンズンと歩いてこようとしていたグルーヴくんの首根っこを分隊長さんがむんずと掴みあげた。
「俺がお前に剣を教えたのは誰かを脅すためか? よく考えろ、愚か者め……!!」
「ぅぐ……!!」
「……確かに君は……大きいな」
「はあ……? ありがとうございます?」
さすがに隊長さんの方が大きいですよ? もしかして煽られてますか?




