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第十三話 ごはんにしよう

飯テロ注意

 

「はーい、メル姉ちゃんの負け~」


「うぐぐ……!! も、もう一回ですよクルークくん!」


 ……

 …………

 ………………


「あ~、メルお姉ちゃんがまた何もないところで転けてる……」


「だいじょうぶ?」


「お、おかまいなく……!!」


 ……

 …………

 ………………


「メルちゃん弱ぁ~い」


「なん……ですって……!?」


 もはや手加減など……!! でもそれはさすがに大人げない……!! このまま絶対に勝つ!


 ……

 …………

 ………………


「はあ……、はあ……」


 それからしばらくして。あちこち引っ張りまわされた私は息切れしてベンチで座っていました。子供達はまだ元気に敷地内を走り回っています。恐るべし、子供の体力……! 勝負の結果? は? なんでそんなどうでもいいこと聞くんですか??


 子供達がはしゃぐ声を耳にしながら私が息を整えていると、横から水が差し出されました。


「メルちゃん、お疲れ様」


「クレアさん……、ありがとうございます」


「ごめんなさいね、運動苦手だと知らなくて」


「いえ、加減してたので……」


 別に苦手ではないですが?

 彼女はそれを聞いて微笑ましそうに笑っている。本当に加減してたのですよ!? 嘘じゃないですよ!?


「それにしても……本当にたのしそう……」


 一息ついて体力が戻ってきたところで感慨に耽る。元気に遊びまわる子供たちは笑顔が絶えなくて。なんだか胸が暖かくなった。

 フレイさんはコアイマに親を殺された。そして孤児になったフレイさんは孤児院に住むことになったといいます。彼女はコアイマへの憎悪を糧にしていたけれど、ふとした瞬間にこんな風に笑顔になれる時があったのでしょうか。

 ……きっとあったでしょうね。なにせ、彼女の隣にはログさんとターフさんがいたのですから。彼女は一人きりで進む道を選ばなかった。仲間を求めた。それはかけがえのない大切なことです。


「ええ、あそこにいるみんなに親はいなけど家族はたくさんいるの。孤児院に住んでいる子供たち、そして私たち白蛇聖教の関係者。それだけじゃない、この都市のみんなが家族みたいなもの。あの子たちにも幸せになる権利はあるもの」


「ええ、そう思います」


「『不幸を排し、幸運をもたらそう。誰もが幸せになる権利があるのだから』」


「……それは?」


「私たち白蛇聖教が掲げる教義よ。私たちはこれを目指して活動しているの」


「ふふ、いいですね。その教義私は好きですよ」


「でしょう?」


「はい」


 弱者が食い物にされ、強者が富む。それが世界の真理の一つではありますが、誰もが幸運となれるのなら、それに越したことはありません。

 弱いから不幸を我慢しなくてはならない。そんなのひどいじゃないですか。


「あの子たちはチャンスが与えられるの」


「チャンス……ですか」


「あの子たちは大人になったらいずれここから巣立たないといけない。その時、どうにか働き口を探さないといけないわ」


「そうですね」


 ここは孤児院。みなしごを預かる場所。ずっと子供のままではいられない。いずれ大人になり、ここから旅立つときが必ずやってくる。そのとき、孤児である彼らはとても不利だ。


 親がいる子はそのまま親の職を継ぐだろう。いずれ独立はするかもしれないが、それまでは親元で職を学ぶ。当然学校に行った子もいるだろう。そこで学んだことを生かし、どこかに就職する。つないだ伝手を活かすこともあるかもしれない。


 そんななか孤児は伝手がなく、学がなく、手に職もないのだ。不利なのは明白。


「そのとき困ることがないように支援もしているわ。孤児院では私たちシスターが勉強を教えているし、見回りの白鱗騎士団の人は訓練を受ける人も募集してる。頑張っている子や才能がある子はスカウトだってされるのよ。そうでなくても、入団試験ではこれまでの頑張りを活かすことができる。文官でも騎士でも。あの子たちには平等にチャンスが配られる」


 ……本当に驚きです。孤児院を出た後のことにも気を配っているなんて。でも実に合理的です。

 子供たちを助けることができると同時に、青田買いもできるわけです。タダの慈善活動では無いと言うことですか。したたかですね、白蛇聖教。


 偽善的と言えばそれまでですが、私は良いと思いますね。だれも不幸にならないのですから。


「なんてね……。メルちゃんがなんだか大人っぽいから話しすぎちゃった。難しかったよね、ごめんね」


「いえ、いい話が聞けました。ありがとうございます」


 これまで一強として続いてきたのにはにはそれなりの理由があるわけですね。積極的には近寄りたくはないですけど、見る目が変わったのは確かです。

 私は自分の手の中からこぼしてしまうことさえあるのに、白蛇聖教はこんなにも多くの人に救いの手を差し伸べている。


「……よし!!クレアさん……」


「―――――え?」


 ……

 …………

 ………………


「皆さ~ん」


「メル姉ちゃんだ!!」「どこ行ってたの~?」「すねてたんじゃない?」「敗北者ぁ~?」


「誰ですか今敗北者といったのは!? 拗ねてないし、負けてませんが!?」


「ほんと~?」「もっかいやろ!!」「つづき~」「理解(わからせ)てやるぜ」


 ……。


「コホン、お腹すいてませんか~?」


「すいた!!」「ごはん!!」「食べた~い」「話そらしたね」


 うるさいですね……。それより。


「どん!! これでお昼ご飯にしましょう!!」


 アイテムストレージから取り出したるは超巨大バーベキューセット!! 十人以上横に並んでも大丈夫なキングサイズ。それを三つ、私を囲うように地面に置きます。例のVRゲームで手に入れたやつです。もちろん魔法の力で火傷なんてしませんよ!!


「なんかでた!!」「すごーい!!」「どこから出したの~?」「勝負しようぜ」


 なんかうるさいのがいますね……。私が勝つので勝負はしません。


「今から焼肉パーティです。みんなでたくさん食べましょう!!」


「やったー!」「楽しそー!!」「メル姉ちゃんふとっぱら!!」「小さいけどね~」


 さっきからちょくちょく煽ってくるのはどいつだ!? 声のほうを睨みつければ全員が一斉に目を逸らされました。なんていう息の合った連携……!! これでは誰が犯人かわからない……!!


 ともかく食材は(フィスクジュラ)がメイン。さっきルマーさんを尋ねてギルドの解体室で捌いてきました。毒の有無もしっかり確認して安全性はばっちり。ついでに途中で、他のお肉や野菜も購入。昨日の運搬クエストの報酬でお金はたくさんありますからね。それに蛇肉はたくさんあって困っていたので丁度いいです。一人で食べるより、みんなで楽しく食べましょう。


 私のスキル『マジカルクッキング』ご照覧あれ!!


 決して焦がすことなく全ての食材を完璧な状態で焼き上げて見せましょう!! 料理は得意ですよ!

 三つの巨大なバーベキューセットへ、アイテムストレージから取り出した材料を次々投入していく。

 やがて肉の焼ける香ばしい匂いが広がり、油の弾ける音が響き渡る。両手にトングを装備して絶妙な加減でひっくり返せば、完璧な焼き色の肉達が食欲を刺激し、早く食べてと急かして来た。メインのフィスクジュラはあっさりとした鶏肉のようかと思えば、溢れる肉汁が口の中を天国へと導いてくれるでしょう……!! 魔物肉は既存の肉とはひと味違いますからね。


 そのままでもよし! 私が用意した醤油でもよし! タレがかかった蒲焼きでもよし! その他なんでもござれ。全部美味しいですよ!! これを1人で食べるなんてとんでもない。


「わー!おいしそう!!」「メルちゃん料理()上手だね!!」「運動へたっぴなのに!!」「手先は器用なんだぁー」


 一言余計ですが!!? ほらそこ! 野菜も食べる!!

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