表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

122/207

第十羽 新たな力の一端

 

 両手を地面に着け、四つ足の獣のような姿勢で屋根を蹴りつける。次々に屋根へ飛び移りひとときも脚を止めることはない。前方を見据え脳裏に描いたルート通りに障害物を回避していけば、釣られて景色が次々に後ろへと流れていく。時に壁を走り、時に街灯の上を飛び移り、時に壁から突き出た棒を手で掴みバネのように利用して。獣と人間、両方の特性を駆使して街中を疾駆する。


 『追憶解放(エントランス)』。


 限定解放とは違い、スキルだけでなく体そのものを過去のものへと変える『魂源輪廻(ウロボロス)』の力。この半年で戻って来た力。


 この能力を使った場合、今世の体をベースに前世の時の姿に引っ張られる変化が現れ、スキルに現れないような身体的体質による能力を引き出します。例えば吸血鬼だったら羽が生えるとか、吸血しようとしなくても犬歯が鋭いとか。今世は翼はもういらないですけど。


 実はこの『追憶解放(エントランス)』、キャパシティの弊害であまり強くありません。


 私の過去の能力はソウルボードに設定することで引き出すことが出来ます。今世の種族である『コア』に上乗せする形で、『メイン』は一つ設定できてカタログスペックの100パーセントを、『サブ』は5つを設定できてスペックが40パーセント、スキルが70パーセントの割合で能力が引き出せます。


 追憶解放(エントランス)は、容姿に影響が出るほど『メイン』の影響を前面に押し出す能力なのですが、無理をすると怪我もしていないのに全身から血を吹き出して死にそうになります。というかなりました。はい。


 これは『魂源輪廻(ウロボロス)』で能力を引き出すプロセスが関係しています。前世の能力を魂レベルで再現し、今世に発現させてしているのです。普段は能力に関係する部分だけを再現して貼り付けているのですが、『追憶解放(エントランス)』を使うと再現領域が拡大して負荷が飛躍的に高まります。

 今世の容姿を押しのけて見た目に影響が出るくらいなのでまあ、あまり良くないですね。


 なので『追憶解放(エントランス)』使用時、基本的にサブの能力は封印して使わないようにしています。そうすれば長時間の使用に耐えますし、魂的な負荷もないに等しくなります。『追憶解放(エントランス)』中はサブの能力を発動してない訳なので、結果的に弱くなってしまうというわけですね。


 ですが今の様に限定的な状況では力を発揮してくれます。


 手の平が肉球のように柔らかくぷにぷにに。これなら屋根を蹴りつけても衝撃を上手く吸収してくれるので壊れにくくなります。さらに体が柔らかくなり、四足での走行が可能になります。耳と尻尾が現れ五感が鋭敏に、バランス感覚が向上。限定解放だけでは現れない効果です。


 他にも限定解放だけでは現れない効果はありますがそれはおいおい。


 そんな事を考えている間に街を囲う城壁が見えてきました。うーん、出入り口は結構ごった返していますね。このまま飛び越えてしまいましょうか。速度はそのままに空中に身を躍らせる。しかし城壁までは到底届かない距離。重力が体を捕まえ引きずり下ろそうとし始める。このままでは派手な音を立てて地面に叩きつけられてしまう事でしょう。

 そうなってはたまらないので、空中を蹴りつけてさらに跳躍した。体は城壁を飛び越え、さらに階段を降りていくように一歩二歩と空中を蹴りつける。


 無事に地面に四足で降り立つと同時、大きく息を吸う。生み出された闘気が体に一瞬パシリと走り、さらに脚に力を込めれば体がグン!!と前に弾き出された。屋根と違って加減をしなくて良いので全速力です。吹き付けるあまりの風圧に、耳と尻尾と髪が後ろに引っ張られるような感覚に襲われる。


 ・限定解放(獣人:チーター)

 解放能力 [+獣想・剛脚・瞬動・天駆]


 空を駆けていたのは『天駆』の能力です。魔力を使って空中での機動が可能になります。結構便利ですよ。

 『瞬動』は一歩目からトップスピードになれるスキルです。地面に降りた時の加速がこれを使っています。

 『剛脚』は脚力がとんでもなく強化されるスキルです。瞬動と闘気の併用でものすごい加速が可能になります。『追憶解放(エントランス)』状態では、腕が前足と判断されるのか四足の走行は目を見張るほどの速度です。

『獣想』は……使った時にでも説明しましょうか。


「はあ……、はあ……」


 この能力の弱点はスタミナが持たないことですかね。街から文字通り飛び出して数秒。『空の息吹』を使っても全速力では息が切れてきました。ですがこの数秒で稼げた距離で誰にも見られることのない場所へ到達できました。


 空中にジャンプして追憶解放(エントランス)を解除。引っ込んだ耳と尻尾のかわりに、翼を羽ばたかせる。ふう、翼が出せないのはなんだか窮屈な気分でしたね。さて。


「ふーちゃん、居ますか?」


「――――――♪」


 風に向かって声をかければ、さながら澄んだ鈴の音のような声が返ってくる。すぐさま風が集まり始め、形を作りだした。現れたのは手の平サイズの小さな女の子。風の精霊、ふーちゃんです。


 ふーちゃんの存在に気づいたのは最近なのですが、生まれてまもなくからずっと側にいてくれたそうです。私が風の魔法を普段以上に使えるのは彼女の手助けがあったからみたいです。最近解放された前世の能力のおかげでお話しが出来るようになりました。


 ・限定解放 (エルフ)

 解放能力 [+精霊友誼・精霊魔法・森林浴・言霊]


『精霊友誼』のおかげで精霊であるふーちゃんの姿を見て、お話しをすることができます。言葉を理解することは出来ませんが、気持ちを通じ合わせることができます。


『精霊魔法』は精霊に魔力を渡すことで魔法が使えるようになるスキルです。同時に私が魔法を使うことで二倍の威力ですね。


『森林浴』は森にいるときに調子がよくなるスキルです。


『言霊』は私の体から漏れ出した余剰魔力を受け取った微精霊、意志を持たないほど小さな力の精霊が、お礼とばかり私の言葉を実現してくれます。とはいえ実行するのは微精霊の子達ですので効果はまちまち。言った事が叶う、と言うよりも、実行しやすくなると考えた方が良いです。感情が高ぶっている時に叫んだりすると大変な事になったりするので注意しましょう。制御するコツは精霊魔法の要領で魔力に乗る感情を御すことですね。


「それではふーちゃん、お手伝いお願いしますね」


「―――――♪ ――♪」


 意志を込めて魔力を渡せば、はじけるような笑顔でふーちゃんがくるくると踊り出す。次の瞬間には正面から私の体を押し返していた風が、気遣うように避けていく。それどころか風のトンネルを作り出し、私の背を押してくれた。


「ありがとうございます、ふーちゃん。さあ一緒に……!!」


「――♪ ―♪ ――!!」


 風になりましょう!!


 空を貫く風のトンネルが伸びていき、その中を音を置き去りにして飛んでいく。ふーちゃんもトンネルに渦に合わせてくるくると舞っていて、とっても楽しそうです。


 この速度ならドラッケンまですぐですね。見えてきたら地面に降りてアイテムストレージの中身を少し減らして行きましょうか。


 運搬対象は薬効効果がある液体の入った樽が約10トン。頑張りましょう。


ブクマ・評価ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 言われてみれば今世最大の強みはお母様が帝種という、生物最強の一角だもんなぁそりゃ体というか種族的な強さは今の所出ている前世の中でもトップクラスだろうしなぁ
[一言] 10トンはいるのか、え?許容量えぐないですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ