第九羽 ねこみみー
「あ!!」
中を確認されないうちに冒険者カードを抜き取る。
「そ、それは後にして先に依頼の話をしましょう!! ほら、急ぎの荷物らしいですので!!」
だから後にしてください……!!
「ああ、それもそうですね」
良かった……。後回しになっただけですけど、今は少し心を安定させたいです。こんなに大変な思いをするくらいなら、向こうで作った冒険者カードは保存しておいて新しく作れば良かったです……。
「それでは冒険者様、この指名依頼を受けられますか?」
「もちろんです」
「わかりました。それでは簡単な説明をさせていただきますね。今回の依頼は緊急運搬ですので、なにより速度が求められます。それと量もかなりあるので、冒険者様のペース配分次第で評価が高くも低くもなります。なにか質問はございますか?」
「このドラッケンと言う目的地、私は行ったことがないんで地図を見せてください」
「少々お待ち下さい……。ここが今いるアルダックです。この南東のここにドラッケンがあります」
「南東ですね、わかりました」
「他にご質問は?」
「……いえ、大丈夫ですよ」
「この街での記念すべき初依頼、頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます。それでは行ってきますね」
「メルさん、大変だとは思いますがよろしくお願いします」
「お任せ下さい。すぐに持ってきますね」
「おや、丁度話がまとまったみたいだね。丁度良かった」
「モルクさん」「会長」「モルク様」
そろそろ出ようとしたところでモルクさんがやってくる。なにやら封をした手紙のようなものを差し出されました。
「メルさん、この手紙を持って行って」
「これは?」
「メルさんが代わりの運搬者だという証明だよ」
「なるほど。相手に確証を持たせるものは必要ですね」
「話が早くて助かるよ」
例えば話を盗み聞きしていた人が先に来て、嘘をついて盗んでいったりしたら大変ですものね。手紙を受け取ってしっかりアイテムストレージにしまい込む。別空間なのでここならなくすことはありません。
あ、そうだ。
「モルクさん。別大陸の件、ダラムさんに言いましたね……」
「あれ? 言ったらマズかったかな。君くらいの子なら結構ポピュラーな話だから情報共有しておいた方が話が早いと思ったんだけど……」
ジトッとした目を向ければ、不思議そうに聞き返された。早いというか、速すぎてどこかにカッとんで行きましたよ……。キャッチボールしようとしたらバットで打ち返されたくらいびっくりしましたよ。
ズゥンと肩を落とせば「なんだかごめんね……」と謝られた。もう取り返しはつかないのですよ。
気落ちしていてもどうしようもありません。先ずはお仕事、と気を取り直して顔を上げる。
「それでは……行ってきますね」
「ありがとう。今街では回復薬がすっからかんでね。早急に頼むよ。もちろん無理はしないでね」
「ふふ、貴方がそれをいうのですか?」
「あはは……、これは参ったな……」
蛇が居る可能性を承知で馬車を走らせた無茶な人はどなたですかね? 思わず笑ってしまえば困ったように苦笑するモルクさん。
そんな彼に安心するように微笑みを向ける。
「任せて下さい。私は……ちょっと早いですよ?」
そう言い残して冒険者ギルドの扉へと向かっていく。入ったときとは別で冒険者は向かってこない。良かった。
さて、速度は出したいですが街中で羽を出しては、いらぬ注目を集めてしまうでしょう。蒼い羽根がモチーフのものがそこかしこで売られているくらいですし。いや、これだけは本当にバレたくありません……。
……ではあれで行きましょうか。速度ならこれ一択ですね。
扉を通り抜けて……南東はあちらですね。人の迷惑にならないように注意しつつ駆け出す。
そのさなか私の容姿に変化が現れる。私の黒髪、その前髪に橙色のメッシュが一筋伸びていく。同時に頭頂部が2カ所盛り上がっていきそこからひょこりと姿を見せたのは―――猫科のミミ。周囲の音を拾ってくるくる動いている。腰の辺りから細長い尾が伸びて、それが動く邪魔にならないようにまとっているバトルドレスも僅かに変化する。空を目指すように伸びた尾は体のバランスを取るようにゆらゆらと波を打っていて。
「『追憶解放』。獣人:チーター……!!」
この半年の間に解放された獣人の力。
調子はバツグン。私は地面を蹴り飛ばし、最短距離を行くために屋根の上に飛び乗った。
ちなみに新規登録したら既にカードあるじゃんとなるので詰んでます。個人の魔力データで登録されるので、一発で照合されてしまう……。それと回復薬が少ない理由はいずれ。




