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第一羽 再始動

時間ができたので再開します。

 


 整備され、こぎれいな建物が立ち並ぶ街並み。普段であれば活気が満ちているであろうその場にはあるはずの人の姿が見られなかった。


 代わりにあるのは―――ひりつくような空気だけ。それを発しているのは建物の上から見下ろす忍装束の男と、それを隙無く見上げる若干幼げな少女。男はともかく、少女の方は見た目にそぐわない威圧感だ。


「……いやー、随分久方ぶりでござるな。どこにも出てこないからあのまま死んでいたかと思ったでござるよ~」


「少し家族との時間を大事にしていただけです。勝手に殺さないでほしいですね」


 飄々とした男と泰然とした少女。双方の間には火花を幻視できるであろう。それほどの圧が二人にはあった。チラリと男が地面に目を向ける。


「全く……。拙者の部下に随分手荒い歓迎をしてくれたようでござるね」


「悪さをしていたので。お仕置きです」


「チッ……!!」


 幼い少女の返答に男が笑顔の裏で舌を打つ。男の視線の先には怪しげな装束に身を包んだ者達が意識を失って倒れ伏していた。


 もちろん彼らは昼下がりのポカポカお天気で暢気にお昼寝をしているわけではない。


 彼らはジャシン教と呼ばれるカルト集団。その狂信者達。さっきまで街中で暴れていた危険人物達だ。


 そこに突如として現れたこの少女が、瞬く間に30人に届こうかという狂信者の群れを鎧袖一触とばかりに片付けてしまったのだ。抵抗を許さず、相手に不要な怪我をさせることもなく、そして迅速に。

 それは息を乱すこともなく立っている少女と倒れた狂信者達、その彼我の実力に超えられない壁が存在していることを示唆していた。


「あ、あの……」


 そこにその場にそぐわないような怯えた声が割って入る。幼げな少女の後ろ。そこにもう1人、少女が座り込んでいたのだ。

 少女はこの場で狂信者達に襲われていた。多少戦いの心得はあったものの多勢に無勢。同じように抵抗していた者達も自分のことで手一杯。

 典型的な魔法使いタイプで接近戦が不得意なこともあって徐々に押し込まれ、遂に万事休すかと諦めかけた時にこの幼い少女が颯爽と現れたのだ。そして目の前の光景を作り上げた。他の抗っていた者達は、彼女に別の場所に応援に行くように言われそのままこの場をさった。少女が今も座ったままなのは腰が抜けてしまった為だ。動くに動けない。

 幼げな少女が振り返り、座り込んだ少女に優しげな笑みを向ける。


「大丈夫ですよ。貴女には指一本触れさせませんので」


「―――目を逸らしたな」


「……ッ!? 危ない!! 後ろに!!」


 座り込んだままの少女は見た。笑顔を向けた少女の後ろに、別人のように底冷えした雰囲気をまとった男が突如として現れたのを。彼が手にした直刀が振り下ろされようとしているのを。このままでは自分を助けてくれた少女が殺されてしまう。そんな残酷な未来が、座り込んだままの少女の脳裏によぎり思わず声を上げさせた。

 そんな状況でも幼げな少女は笑顔のままだった。状況が理解できていないのか? 否。彼女からすると全く危険ではないのだ。


 少女は背を向けたまま手に持った棒の石突きを跳ね上げ、直刀をピタリと受け止めた。それは少女の思惑通り。飄々としているようで虎視眈々と隙を狙っているこの男なら隙を逃すまいだろうという予想のままに彼は。


「―――釣られましたね?」


「ッ!!?」


 予想通り。言葉にすれば簡単だ。

 棒の裏にあるコインサイズの小さな円。その極小の面積で熟練の技で振り下ろされる直刀の一撃を、見もせずに受け止める。


 だがそれは絶技。できるはずもないのだ。―――普通なら。


 少女は普通ではなかった。槍を扱った年数でならどんな存在にも負けることはない。そんな気が遠くなるような時間を修練に費やした無才のバケモノだったのだ。

 そんな少女に予想通りの動きで有効打を与えられるはずもなく。


「【波濤(はとう)】」


「ごふっ!!??」


 続く反撃。

 蒼い光をまとった石突きを腹部に打ち込まれ、背中に抜ける衝撃と共に男は地面を転がっていった。


「ほら、大丈夫でしょう? そのままそこでジッとしていてくださいね。ミルさん(・・・・)


 その笑顔を見上げた少女は疑問に思う。彼女と自分は初対面のはず。それなのになぜ自分の名前を知っているのだろうか? しかしなぜか不快ではなかった。男に向き直った少女の背中は小さいのにすごく大きくて。


「すぐに終わらせます」


 どこまでも安心できるものだった。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 


「わぁ……、大きな街ですねぇ」


 カラカラと。


 軽い音を鳴らして牛が引く馬車が大きな門をくぐっていく。


 軽い因縁のあった蛇を打倒した私は、同じ場所で今日知り合った商人のモルクさんの馬車に相乗りする形でこの街に連れてきてもらいました。


 ……牛が引いているものを果たして馬車と呼んでも良いのかわからないですが、少なくとも知識にある牛車の形はしていないので。


 私は散々悩んだ末に、考えるのは諦めました。


「ようこそメルさん。ここが”アルダック”だ」


 自慢げに振り返った恰幅の良い男性。


「ここは南の大陸サウザンクルスで一番大きな商業都市だ。この大陸でここより大きなのは王都くらいのものだからね」


「一番! それはすごいですね」


「まあね。この街がこの大陸の要と言っても過言じゃないからね!」


 その後もモルクさんは馬車を転がしながら大通りを進んでいく。目に映る物珍しいものを質問すれば、嫌がるそぶりも見せずに打てば響くように答えてくれました。


 武具屋、出店、レストラン、服屋、教会。商業都市なだけあって、様々な施設が充実しています。


 パルクナットでもフレイさんに色々と教えてもらいましたが、その時は鳥の姿だったので話せず質問できませんでした。なのでちょっと新鮮です。

 それに大陸が違う影響か見た目や構成も違います。場所による違いが見れて面白いですね。


 向こうは全体的に乾燥して寒い気候だったので、寒さに対しての対策が多かったですが、こっちは湿気があり暑いので、風通しがいい店が多いです。


 あ、それとモルクさんには敬語はやめてもらいました。最初の話し方の方がしっくり来たので。


 そういえばと。モルクさんに質問をする。

 ここに来るまでの光景で気になったことがあった。どこに行っても似たものが目に入ってきて気になっていたから。


「あの……ほとんどの出店で青い羽がモチーフのものが売られていました。なにかの名物なのですか?」


 羽飾りがついたペンダントにネックレス、イヤリングから髪留めとそれ以外にもより取り見取り。その全てが青い羽で、売り物でなくても飾ってある店もあったくらいだ。

 青い羽になにかあるのでしょうか。


「ああ、あの羽は幸運の象徴だよ」


「幸運の象徴?」


「そうそう。半年前に天帝って言うヤバイ魔物が暴れてね。あわや街が滅ぼされるってところで突然天帝が帰って行ったんだ。冒険者が調査に行ったところ、天帝の白い羽とは別に青い羽が見つかった。目が良い冒険者は天帝と戦う蒼いなにかが見えたって言うんだ。そんなこんなで蒼い羽の持ち主が追い払ってくれたともっぱらの噂さ。そこでその蒼い羽の持ち主に因んで、青い羽が縁起物として売られているのさ。天帝の大嵐で街のあちこちが壊れて復興も忙しかったからね。すがるものと資金になるものが必要だったのさ」


「……ごめんなさい」


「なんでメルさんが謝るんだい?」


「あはは……。なんとなくです」


 訝しげな表情のモルクさんから顔を逸らす。本当に私の母が申し訳ありません。


「まあ、この縁起物のおかげで復興は大して時間がかからなかったし、街の経済状況はむしろ成長したぐらいだ。アルダックは転んでもただでは起きないってね」


「……逞しいですね」


「まあね!」


 モルクさんの笑顔が眩しい。

 ……それにしても話に出てくる蒼い羽の持ち主って、もしかしなくても私の事ですよね。見つかると面倒なことになりそうなのでこの街では翼は出さないようにしましょう……。


「それでもやっぱり爪痕は残っているのですね」


「うん? どう言う事かな?」


「いえ、あそこの家。修復の最中ですよ」


 どう見ても経年劣化によるものではありません。あれは強い力によって無理矢理なされたもの。大通りには見えませんが、通路の奥に他にもちらほらと修復のための足場が組み上げられているのが見えました。


「ああ、あれか。あれはちょっと違っていてね。半年前の修復は全部終わってるんだ。あれはジャシン教がやっていったものさ」


「ジャシン教が!?」


 やっぱり各地で暴れ回っているのですね……。


「厄介な奴らだよ。突然現れては暴れ回って被害をまき散らすんだ。白蛇聖教のシスターや騎士団が駆けつけてきたら蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまうからまだなんとか助かってるんだけど……。冒険者や白蛇聖教が捕まえても次から次に現れるんだ」


「彼らが暴れる目的はなんなのでしょうか?」


「さあ? 暴れるだけ暴れて帰って行くからね。火事場泥棒で食べ物なんかが消えているくらいでそれ以外の被害は聞いてないかな」


 目的がない……? 無作為に破壊をまき散らすだけ……? むう、わからないですね……。目的が見えません。


「まあ、ジャシンなんて世界を一度滅亡に追い込んだ存在を信仰しているくらいだから、理由なんて考えても無駄かもね」


「それはそうなのですが……」


 元も子もない……。



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