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第10羽 視線、交えて

ブクマが増えてました!感謝です!!

難産だったので分割しています。変なところで切れててすみません。

 

 崖の先で睨み合いが続く。

 蛇は苛ただしげに呼気を漏らし、何度も尾を地面に叩きつけながら、舌をチロチロと蠢かせている。不快感を隠そうともしない。


 さて、どうしましょうか。デッドヒートはやめることができましたが、このままホバリングしている状況もあまりよろしくありません。まだまだ飛行になれていない私では、マシになったとは言え飛んでいるだけで体力を消耗します。


 頭を悩ませていたその時。表情なんてないはずの蛇の顔が狡猾に歪んだ気がした。


 出し入れしていた舌をしまったかと思うと、おもむろに振り向いた。

 

 ……諦めたのでしょうか? 一縷の望みに賭けてそう願う。しかし願いはすぐに落胆に変わった。


 ……ああ、こいつは……なんて性格の悪い……!

 

 蛇の向かう先は巣の方で。

 蛇はこれみよがしにこちらを一瞥した後、わざとらしく進み出した。私が無視できないのを、知ったうえで。


 このまま合流を許してしまえば、これまでの苦労は水の泡。やるしかありません。


 ……いいでしょう。その挑発、乗ってあげます。もっとも私は食えないと評判ですので、後悔しても知りませんからね?


 蛇が背を向けた崖の舳先。そこに降り立ち羽を休める。

 体の無駄な力を抜き脱力。息を整え、深く、そして静かに、まるで眠っているかのように呼吸を繰り返す。

 

 僅かな時間、泡沫のような思考が浮かび上がった。

 

 最初は時間さえ稼げればいいと思っていました。適当な場所で撒いて、逃げ帰るつもりだったのです。けれど、木々の隙間を縫って飛んでも蛇のほうが速いなんて思いもしませんでした。

 これならいっそお母様と私の2対2に持ち込んだほうが良かったでしょうか――――と、一瞬だけ後悔がよぎる。

 ……いいえ、やっぱりお母様の負担が増えていただけでしょうね。

 

 今の私では、正面から戦うことなどできません。隙をついて一撃を差し込むのが精一杯で、それ以外の時間は、2匹の蛇をお母様一人で相手することになる。

 しかも戦撃で倒せなかったら私はまともに戦えなくなる。そこを庇いでもされたら死んでも死にきれません。

 お母様が勝てないとは言いませんが、2匹を同時に相手するのはなるべく避けた方が良いはず。私を守る無駄な手間を増やすのも避けるべきです。


 そう考えるとやはりこれがベターですね。

 ここで私が死んでも時間稼ぎには十分です。親不孝をすることになってしまいますが……、最低限の仕事をしたと言えるのではないでしょうか?


 ……あの夜の日、お母様は私に『自分の身を大切にしろ』と言ってくれました。


 でも私は何度だって転生します。投げ捨てる気はありませんが、やはり一度しかない他のそれよりも私の命は遙かに軽い。

 私が無茶無謀をするだけで誰かを守れるのなら、何度だってやって見せましょう。もう二度と、大切なものを失う光景など見たくない。

 それに私は自分が傷つくことより、誰かが傷つくことのほうが何倍も辛い。それを避けるために無茶をするのですから、『自分の身を大切に』していると言えるのではないでしょうか。

 

 そのためにも私はこの終わらないメビウスの回廊で、自らを鍛え続けることを辞めないのです。

 

 ――約10秒経った。行きます。


 覚悟も休憩も済んだ。


 這いずる蛇の頭に視界外から風の塊をぶつける。ポフリと軽い音で弾けたそれは、小石をぶつけた何倍も軽いものだったでしょう。どうにも蹴った感触と魔法での手応えに違和感がありました。どうやら魔法耐性もお持ちのようです。

 

 しかしそれでも苛立ちを煽るには十分。そこにかかってこいと言わんばかりに翼でクイクイと招いて、鬼の眼光で睨み付けてやれば。

 

 挑発は、見事に成功した。

 ぶわり、と蛇から放たれる殺気が膨れ上がる。先と同じように、怒り心頭、咆哮を上げて突貫してきた。


 猛スピードで暴走するトラックすらかすむ威圧感。ですが巣に向かわれる何倍もマシです。

 ――これに轢かれたら異世界転生でしょうか、いや私はそもそも確定でしたね。

 

 益体もないことを考えつつ、足と翼を使った特殊な歩法――――滑歩(かっぽ)を披露する。

 足の蹴りと翼から生まれる推進力、揚力を利用して、滑るように移動する歩法。通常の足捌きではできないような機動を実現できる、翼ある者にしか使えない歩法です。

 

 一蹴りでS字を描くような移動も出来、摩擦がないかのようにヌルヌル動きます。

 見た目は非常にキモいです。

 昔教えて貰ったときも、そのあまりの違和感につい「キモっ!!?」と声に出してしまいました。

 淑女にあるまじき行為ですね。反省してます。


 このキモい歩法、弱点がありまして、足場が平坦でないと足が引っかかってしまいます。巣の中では役立たずでしたが、今は違う。


 閑話休題それはさておき


 作戦はシンプルです。蛇が避けることのできない状況を作り上げ、確実な一撃を見舞う。

 

 もはや私は逃げることを捨てました。余裕を残して勝てる相手ではありません。

 

 私の思惑を躱されれば敗け。でも時間は稼げるので……、実質勝っていると言っても良いかもしれませんね。


 突進、噛みつき、尾の叩きつけ。まともに当たれば致命の連続攻撃を滑歩(かっぽ)を駆使してヌルヌル回避する。その際に鬼の眼力で睨み付けて挑発することも忘れない。

 

 怒りによって冷静な思考を奪い、私に有利なフィールドの誘い出していくために。

 

 すなわち舳先のようにつきだした崖の縁の方へと。攻撃した先に地面がないのならまともな威力は出せないはずです。勢い余ってしまっては真っ逆さまですからね。


 滑歩かっぽを駆使して、うまく崖際まで誘い出すことができました。ひたすら場所を移動し続け、時に崖から飛び出して縦横無尽に回避します。作戦が上手く行くと良いのですが……。


 この蛇、怒りに身を任せているように見えてその実、僅かに冷静な部分を残しているようです。

 私の戦撃を警戒し、決定的な隙を見せることはない。もう一匹の蛇に戦撃で致命傷を与える所を見ていたのでしょう。簡単には勝たせてくれそうにありません。


 ――ぐぅッ!!?


 噛みつき攻撃と突進を何度も避けていると、遂に攻撃が掠ってしまった。咄嗟にダメージを最小限にするべく攻撃方向と反対へわざと吹き飛んだので、崖からクルクルとはじき出されてしまう。

 とはいえこれは、距離を取ることと空中に逃げ込むという2つの要素から、追撃を避けることもでき――――


 ――まずいッ!!


 視界が回る中、咄嗟に下へと落ちるように羽ばたく。刹那、今までいた場所に風を押しのけ巨大な顎門(アギト)が食らいついた。

 蛇は中空に身を躍り出すのを怖れることなく追ってきたのだ。そして下に逃げたことが更なる追撃を許すことになる。この時上に逃げていたら、蛇は体を支える手段の乏しさから追撃を諦めていたかも知れない。だがそうはならなかった。


 ――来るッ!!


 真下に見据えた私に向かって、一陣の矢のように襲来する。

 空中で無理矢理体をひねってなんとか回避。それでも再び掠ってしまい、逃がさないとばかりに崖の方へと弾かれてしまった。

 流石にこれ以上崖から離れるのは難しいのでしょう。空中へと逃げられないように射程範囲へと押し込められてしまいます。逃がしてくれる気は……、ないようですね……!!


 崖に叩きつけられる前になんとか足から着地。すぐさま壁を蹴り、舳先のようになっている崖の下に向けて飛び込む。直後、轟音。さっきまでいた壁に蛇の頭が激突していました。

 被弾はしませんでしたがギリギリです。ここで欲張って上に逃げようとしたら押しつぶされていたでしょう。重力がある以上、下に逃げる方が速いですから。


 更に追撃が来るはずです。空中で翼を一振り。加速し、蹴りの勢いのせいで離れかけていた崖に張り付き直す。足から着地。減速することなく、先ほどと同じようにすぐさま蹴り飛ばすと、これまた先ほどと同じように蛇が突っ込んできました。


 蛇の速度からして、普通に飛んでいては追いつかれます。蹴りと翼による両方の加速がないと逃げ切れません。


 バコン!!ボコン!!と追いすがってくる蛇に対し、こちらも蹴りと羽ばたきを駆使して避け続ける。

 崖を蹴り、緩く弧を描くようにして着壁。すぐさま蹴り飛ばす。それを繰り返していると、舳先の底にたどり着いた。


 ――このまま落ち続ければ、逃げられる?


 しかしその思考はすぐに否定された。

 壁を蹴って加速している私と、追いすがるヘビの速度は同じ。このまま落ちるしても、途中で追いつかれる……!!


 なら――――登るしかない!! ここが……踏ん張りどころですねッ。


 翼に力を入れて体を持ち上げる。切り立った崖、その舳先の反対側に体を押し上げた。


 直後、大質量が背後を通り過ぎていくのを感じた。止まることができなかった大蛇だ。

 だが、そのまま落ちていくことはなく、進行が止まった。首を巡らせ、しっかりとこちらを見据えている。そしてすぐさま進路を修正した。再び大蛇が迫ってくる。


 距離はできた。追いつかれる前に、登り切らなくては……!!

  

 体を縦に回転させ踵落しを放つ。翼は飛ぶことではなく、崖から離れないことを重視。それを連続。

 すごく疲れますが、これでただ飛ぶよりも早く登れます。

 岩を抉りながら、スパイク付きタイヤのように駆け上がっていく。


 ――着きましッ!? ……そんな!?


 ついに崖の上へと到達した。しかし、視界に広がっていたのは地面ではなく、崖の上を覆い尽くした蛇の胴体だった。





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