第??話 人ノ刻 Ⅱ その1
お久しぶりです。言ってたおまけです。これは主人公が自分の能力に始めて気づいた時の話です。ダイジェスト気味なので難しく考えずに見て下さい。飛ばしても影響は少ないので、2章に行くのも有りです。
「人ノ刻 Ⅰ」は武家として生まれた最初の人生の予定です。
「ぐ……」
暗い暗い影が伸びる深い深い森の中、脱力感から立っていることが出来ず地面に座り込んでしまう。立ち上がろうとしても脚に力が入らない。それもそのはず。私の左腕は半ばから千切れ、右手で押えようともそこからは止めどなく鮮血が零れ続けているのだから。血が足りていないのだ。
「はあ……、はあ……」
私の力ない呼吸音は目の前の巨大なモンスターが迫り来る音に押し潰されていく。
ああ、どうしてこうなったのか。
それは一重に私が非才の身だったからでしょうか。
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何度目かの転生、人間として生まれたその世界は不思議な世界だった。
曰く、ステータスというものがある。人の能力を数値化し、可視化する不思議なもの。成長するごとに『レベル』という数値が伸び、それに従って能力が伸びていく。
どのようにして数値化しているかなど様々な疑問は浮かびましたが、考えても仕方がなかったのでそういうものだと納得しました。
そしてそしてステータスに記載されたとあるものが、私の今世での扱いを決定づけました。
それが『スキル』。
生まれて必ず一つ、人によっては複数授かる特殊能力。
曰く、人の才能を言語化し、一つの枠に落とし込めた物。その人が持つ才能で、ステータスに一番重要だと評価されたものがスキルとして発現します。スキルになった力はなんらかの影響によって強化され、スキルが介在しない才能とは一線を画す程の影響力を持ちます。
私が今まで見てきた剣術の天才も、スキル『剣王(S)』を持った者と比べればアリのようなもの。
まあ私が出会った一部の人外級の人は例外ですが。吸血鬼のお姉様や勇者くんなどがいい例ですね。
スキルにはランクがあり、Eが一番弱く、D、C、B、Aと強くなっていき、さらにその上にSランクのスキルがある。
そしてそんな世界で私が授かった才能は『魂源輪廻(Ex)』。書いてあるようにスキルのランクはEx。このランクは今までに確認されたことのないものだった。
最初は今世の両親も期待していました。もしかしたら、Sランクよりもすごいスキルなのかもしれないと。
しかし何をしても目に見えるような効果は現れません。スキルに詳しい専門家に話を聞いても、スキルの習熟に有効とされる訓練をしても、時には暴力まがいのことをされても。
なにをやっても私のスキルは効果を示さなかったのです。
両親の罵倒の中、訓練というよりも憂さ晴らしのような暴力を受け続けしばらく。
やがて両親は私のスキルと私自身に興味を失い、訓練は無くなっていきました。
その頃には私の『魂源輪廻(Ex)』はEランクよりも下のスキルとして扱われるように。
才能あるものが貴ばれるこの世界。すなわち強い『スキル』を持つものが望まれるこの世界で、貴族の娘として生まれた私は落第点のスキルを授かった。結果として現在は居ないものとして扱われるようになる。
生きるのに必要なものだけを与えられ、放置される。捨てられるよりは……マシですかね。
家族には愛されることなく、1人自室で冷めた食事を食べる日々。悲しみはありました。でも仕方のない話です。この世界ではそれが常識なのですから。私などにはどうすることも出来ません。
そしてその日常が変わったのは私が12歳になった時。社交界にも出ず、このままいないものとして飼い殺されるのかと諦めていた時だった。
珍しく父に呼び出されたと思ったら、学院に行けと言われました。私は知りませんでしたが貴族なら必ず学びに行く場所。
子供が入学できなければかなりの醜聞になるそうです。
目立つ真似はするなとも言われました。
私は僅かな期待を持っていました。外に出れば、何か変わるかもしれないと。
しかし日常は変わったものの、世界は変わることはなかった。やはりスキルこそが評価の根底に存在していたのです。
私は――――学院でも爪弾きものだった。
学院には貴族だけでなく、平民もやってくる。貴族は昔から高ランクのスキル持ちを取り込み続け、その血筋によってかほとんどが高ランクのスキル持ち。少なくともCランク以下のスキルを持っている者の方が少ないほど。
高ランクのスキルを持つものは、やはり優遇されます。例えそれが平民であれ。
特に貴族などは権力と高ランクのスキルを鼻にかけ、横暴な態度を取る物が多くいます。
もちろん真っ当な精神を持つ貴族も居ますが、子供にそれを求めるのは些か難しいのかもしれません。
平民は権力も無く、低ランクのスキルを持っている傾向がかなり高いので、高ランクのスキルを持つ貴族に逆らうことが出来ない。そんな場所に平民より低いランクのスキルを持ち、貴族籍なのに貴族扱いされていない私がいればどうなるのか。それは火を見るより明らかです。
日頃の鬱憤晴らしの標的にされる。
貴族からも平民からも侮蔑の視線を向けられる板挟み。味方は誰1人いませんでした。
一ヶ月もすれば向けられるのは侮蔑の視線だけではなくなります。お手洗いでは頭上から水をかけられ、気づけば物がなくなっており、私の机には心ない悪戯書きが。時には直接的な暴力もふるわれました。
そして私は向けられる悪意をはね除けることはしませんでした。
父に目立つような余計な真似はするなと言いつけられていたのも理由の一つではありますが、私はこれでも転生者です。子供相手に憤ることも無いでしょう。……そう言い訳をして。
反抗をするような気概はもう、残っていなかったのです。
私の楽しみは人のいないところで、槍をただひたすらに振るうことだけでした。
戦闘訓練では、槍の扱いはそこそこだと評価されましたが、それも『スキル』を使われれば覆る程度のもの。
唯一戦撃だけはその威力から注目されましたがそれも一時的なもの。
当時の私の戦撃はバリエーションは少なく、戦い方そのものが下手だったので、固定されたモーションを避けられ隙を晒すことも多かった。その為結局は最低ランクだと扱われていました。
そんな日々が変わったのは、あの子と出会ったからでした。
ある日貴族の養子に貰われた平民の子が私のクラスに急遽転入してきました。所持していた強力なスキルを見出されたのだと。
私には全く関わりなど生まれることはないとそう思っていた。クラスの全員が彼女に夢中になり、面倒な鬱憤ばらしがかなり少なくなったのでそれは嬉しかったです。
それから数日後の昼休み。クラスの中にいても面倒な事になるだけなので、誰もやってこない場所で気の向くままに槍を振るう。そこにあるはずのない来訪があった。
「わぁ、こんな場所があったんだ……。あれ?」
「どうも……」
面倒な事になった。彼女の持っているスキルはSランク。『キセキ(S)』の持ち主だ。
スキル『キセキ(S)』、その名の通り奇跡を起こすスキル。未だ使いこなせてはいないのだけれど、彼女の住む村が不治の病魔に苦しんでいたのを救ったのだという。
そんなすごい力を持った人。ユニさん。ユニ・クラリオン。
名家であるクラリオンに養子として迎えられた御令嬢。私が関わるべきではないお方。
「貴女は確か同じクラスの……、ホルンさん?」
「私の家名……」
知っていたのですね。
自己紹介をしたことはなかったはずですが。おそらく他の方達から知らされたのでしょうね。変な反感を買う前に離れましょう。
「お邪魔をしました。早々に立ち去りますのでご容赦ください」
「あ、待って!」
「なにかご不快な点でもございましたか?」
背を向ければ呼び止められた。一体なにを言われるのでしょうか。戦々恐々としていた所にいかけられた言葉は、予想だにしないものだった。
「あの……、槍の演武してたんですよね? 見せてくれませんか?」
「……へ?」




