第94羽 ジャシン教のエセ忍者
「貴方、さっきまで彼女の隣にいたはずですよね?」
「変わり身の術でござるよ。あれは偽物にござる」
「変わり身の術、……あなた、忍者ですか?」
「アサシンにござる。にんにん」
どっち? いや、同じか? ……いえ、それはどうでも良いです。
「この巨大な穴、貴方達の仕業ですね。一体何を企んでいるのですか」
「探し物を取りに来ただけでござるよ。企むだなんて人聞きが悪いでござる。ほら」
そう言って彼がカバンから何かを取り出せば、濃密な魔素が周囲にまき散らされた。まさか……!?
「それはジャシンを封印した宝玉!?」
「おや?魔物のクセに良く知っていたでござるね」
「天帝がしばらく巣を離れていたようなので、世界樹に飲み込まれていたこれを取りに来たのですよぉ。でも嵐に守られていたのせいで世界樹には近づけなかったですけどぉ」
やっぱりジャシンを封印した宝玉で間違い無いようですね。
そんなものが大樹、いや、彼らが言うには世界樹の中に。つまりここが龍帝の言っていた、封印の地、その一つ……!!
なかなかに信じがたい状況ですが、だからといって私達の家が壊されるいわれはありません。
「そんなものの為に人の家を……!!」
「……家? 魔物風情が人間に家がどうとか言うだなんて、烏滸がましいでござるよ。人を模してなにか勘違いをしているのかもしれぬが、所詮おぬしは魔物。人間の真似事は止めるでござる。……反吐が出る」
「…………」
ぶつけられる強い言葉、感じるのはかなり強い悪感情。厳密には差別的な感情ではなく、恨み辛みのそれに近いもの。対象は……魔物、彼の過去になにかあったのでしょうか。
確かに今私は人間ではありません。姿を模してはいるものの、やはりどこまで行っても別物でしょう。
確かに魔物は危ないです。人を襲うし、価値観そのものが人とは大きく異なります。でもそれは種族全体での話。
人と協力できるアヘくんのような魔物もいます。お母様は私達子供に魔物なりの深い愛情を向けてくれます。
価値観は異なるけれど、きっと持っている愛は一緒だと思うから。
私は、私達は人ではなく魔物として、それでも人と生きていきたい。
パルクナットで出会ったフレイさん達や、アモーレちゃん、まあ一応メリィさんも入れておきましょう。彼ら人と出会って、少し考えるようになったそれ。
私が吸血鬼として生きていた時に出会った『勇者くん』も願っていたそれは、今は私も持っています。
エセ忍者にも事情があるのかもしれませんが、種族全体を見て判断されるのは嫌いです。嫌なものは嫌です。差別を受けた人生を、なにより鬼として生きていた時を思い出してしまうので。
まあ今ここで言ったところで彼は聞く耳を持たないでしょうが。
「そんなことはどうでも良いでござるよ。天帝と戦いを成立させるだけの戦闘力。そして槍に、翼、鳥でござるか……。おぬしがメリィの言っていた『鳥さん』でござるね」
「この子がメリィの言ってたぁ!? しかも天帝と!? 強いとは思っていたけどそんなになの!?」
エセ忍者の言葉に、驚きを見せるリブ。メリィさんの名前を……。それに私の事を知っている……。そして目当ては封印の宝玉とくれば予想は付きます。
「やはり貴方達ジャシン教の関係者ですか」
「ご名答でござるよ。拙者が幹部のピスコルで……」
「あたしがご存知、リブですぅ」
ジャシン教……、メリィさんに加え、リブのような特殊な能力者、忍者さながらの毒使いアサシン。なかなかに曲者揃いのようですね。私が思っているよりも大きい組織なのでしょうか。
それはともかく。
気を取りなして『無明金剛』を構える。
「ジャシンが封印された宝玉を黙って持って行かせるつもりはありませんし、家の土台に風穴を開けた落とし前は付けて貰います。覚悟してください」
「残念でござるがメリィ相手に真正面から勝った魔物をまともに戦う気はないでござるよ。……リブ」
「小さくなあれ♪」
「なにを……!?」
止める間もなくリブが世界樹に向けて槌を振るう。世界樹が苦しむように大きく振動した。
今日もご愛読ありがとうございます!
ブクマ・評価・いいね、いつも感謝しています!
それはそうとして今日も眠いです……Zzz