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第9羽 不足

PVが700越え!ありがとうございます!!

 

 紅蓮の輝きを纏った、全体重を乗せた全力のドロップキック。

 それに喉を貫かれてなお、辛うじてですが蛇は生きていました。なんとも馬鹿げた生命力ですね。

 手負いの獣ほどなんとやらといいますし、まだ油断はできません。鬼の力を取り戻したとはいえ、私自身はまだ弱く、下手すれば相手の攻撃で即死もあり得る状況です。何より追い詰められた獣ほど危険なものはありませんからね。

 キッチリトドメをさしておきましょう。


 ――【奈落回し(ならくまわし)


 急降下して空中で体を折りたたみ、コマのように高速で縦回転。

 重力に引かれるままクルクルと落ちていき、遠心力と戦撃のサポートによる加速ががたっぷり乗った紅蓮の踵落しが蛇の頭を弾き飛ばす。


 哀れ、不法侵入者は巣からたたき出され、地面へとヒモなしバンジー。


 地響きとともに動かなくなったそれを確認した私は疲れた体を労うため巣に降り立ちました。

 なんとかなりましたね。まったく、お母様はどこに――


「ッメル!危ない!!」


 叫び声に意識を引き戻せば目の前には壁があって。


 次の瞬間には床に倒れていました。どうやら一瞬意識を失っていたようですね……。

 体中から訴えられる痛みを無視し、頭を振って立ち上がる。

 正面には一番最初に叩き落とした筈の蛇が。どうも自慢げに揺らしている尻尾で思い切り叩かれたようですね。油断してました、まともな戦闘はないに等しいとはいえなんて情けない……!!


 私を心配してか、こちらに来ようとしているミルが視界の端に写りました。

 それに視線だけを向けて押さえ付ける。

 大丈夫ですからこちらには来ないでください。あなたたちが狙われた方が対処が難しいんですから、そのまま隠れていてください!


 蛇もこちらを警戒しているのか、すぐには手を出してきません。この体格差で即死してないからでしょう。油断してくれたほうが楽なんですが……。

 その間に息を整えつつ、相手の出方を窺っていると、新手が現れました。

 先の蛇より二回りは大きい奴です。まだ増えるんですか……!?


 攻撃してこなかったのはこいつを待っていたからでしょうね。

 これ以上は本当に勘弁して欲しいんですけど……! お帰りはあちらですよ。なに?まだ帰らない?そうですか畜生!!


 仲間が増えたことで余裕ができたのか小さい方が様子見の攻撃してきました。

 無造作な尾の一撃を余裕を持って避ける。今までは足りないスペックを予測だけで対処していたのですから、鬼の力を使える今となっては造作もありません。とは言え当たれば大打撃ですし、内心冷や汗ものです。

 特に動きのない蛇の方も気にしなければいけないのが負担になっています。

 そちらに意識を割きながら、攻撃の予測もしなければならない。……やっぱり結構厳しいですねこれ。


 蛇の攻撃を捌いて、いなして、避け続ける。次第に時間の感覚が曖昧になる。

 いっこうに終わりが見えない。蛇の攻撃は牽制のようなものばかりで、反撃できるような隙が生まれる攻撃はしてこなかった。

 無理に近づこうとすれば、大きな蛇の方が動きを見せ、下手な行動を許してくれません。

 おそらくこちらが疲れて動けなくなるのを狙っているのでしょう。

 単純明快な作戦ですがだからこそ、解決策が見えない。蛇らしい狡猾な手ですね……。

 打開策を考え続けていると、視界の端で大きな方の蛇が首を巡らせました。

 今度は一体なにを……。


 視線の先には空を飛ぶ巨大な存在が。あれは……!


 ――お母様!! …………えっ!!?


 ピンチに駆けつけてくれたお母様だったが、話はそう簡単にはいかなかった。

 純白だった翼は今や朱に濡れ、羽ばたく音もどこか力ない。駆けつけたお母様は既にボロボロだったのだ。


『お前達、下がっていろ!!……くっ!こんな時に蛇共め、鬱陶しい!!』


 傷ついたお母様は大蛇二匹を相手取り、その上背後の私たちを守りながら動いている。私達を巻き込んでしまうため、大きな攻撃もできず非常にやりにくそうだ。この前のワイバーンのときよりも威力がかなり低く見える。

 とは言えお母様は強い。このまま行けばお母様は勝てるだろう。だがそれは順調にいけばの話で、しかも少なくない疲労と怪我がお母様に残ることになる。今だって避けられるはずの攻撃をわざと受け止めている。

 お母様の力が弱まればきっと今と同じように他の魔物が狙ってくる。弟妹達はそれに怯えることになる。

 なにより、見ているだけなんてできるわけないじゃないですか。


「メル!!?」


 ――ごめんね、ミル。きっと戻りますから。


 抱き上げられていた腕の中から飛び出し、蛇の元へ向かう。


 ―――《ウィンド》!!


 飛ぶときに扱っている風の力を応用して、魔法のように使ってみたものです。

 大した威力はないですがペチペチ鬱陶しいでしょう?


『馬鹿者! 何をしている!?』


 お母様からの叱責を聞き流し、蛇に向かって空中から風を打ち続ける。

 倒す必要はない。どちらかだけでも引きつけられれば……。


 攻撃を続けていると蛇が遂に動いた。

 最初に地面に叩き落とした小さい方の蛇だ。


 強い方が来てくれたほうが良かったのですが……、まあ生存確率が上がりますから良しとしましょう。


 すぐさま飛びかかってくる蛇を【側刀そばがたな】で横へ逸らし、振り返ったヘビに向けて鬼の眼光で睨み付けて挑発してやれば、ピクリと反応した後怒りの咆哮を上げ、私に釘付けになった。

 その甲斐あってか、巣の下に飛び込んだ私を素直に追いかけてきてくれた。


『この馬鹿娘が!! 自分の身を大事にしろと言っただろう!? やめるんだ!戻ってこい! ……チィッ!! 死んだら殺しに行くからな!! 覚悟しておけよ!』


 後ろから響いてくる巨大な枝がへし折れる音と蛇のうなり声、遠くなる戦闘音。

 ……そして私が何をするかを察したお母様の怒りの声。


 ふふ、二度死ぬわけにはいかないので頑張って生き残りましょう。ごめんなさい、必ず戻りますから。だから今だけは親不孝な私を許してください。


 地面に向かって大樹を一直線に降下していく。地面に近づいたところで体を無理やり起こしてなるべく地面すれすれを全速力で飛び続ける。

 背後で轟音。恐らく蛇が地面についたのでしょう。

 森の中を全速力で飛び、木々の間をすり抜けていく。ちらりと後ろを確認した。

 ……急降下で少し距離が開いたけれど、徐々に距離が詰められている。

 不味いですね、このままでは追いつかれてしまう。高度を上げれば逃げ切ることはできますが、こいつが巣に戻ってしまっては意味がない。かといって巣から離れたところで高度を上げようとしてもすでに追いつかれているでしょう。無策で高度を上げようとすればただの的です。

 戦うにしても戦撃もあと2回打てるかあやしいです。遠くまで逃げ切れることに賭けて飛び続けるか、体力が尽きる前に一縷の望みに賭けて勝負を仕掛けるか。

 どちらにせよ運次第ですか。私ギャンブルは嫌いなんですよね、勝てないので。


 ――っ!考える時間も与えてくれないのですか!!


 頭上に影。その正体はへし折れた大木が飛んできた物だった。追いすがる蛇がなぎ倒した物を、ついでとばかりにしなる体で弾き飛ばしているのだ。前方の障害物と上空の飛来物。非常にやりづらい。

 泣き言など言っていられない程次々と振ってくる。

 咄嗟に飛び出してしまったとは言え、少し考えなしだったかも知れません……!

 とは言えベストでなくともベターであったことは事実でしょう。

 多分ないですがお母様がこの蛇たちに負ければ全滅は必定でした。片方を引き離せれば勝率をかなり上げる事ができるはず。どちらにせよ向こうはお母様を信じることしかできません。


 ……理想は私が全てをなぎ倒すことでした。眼の前の不条理を認めたくないから私は力を求めてきたのに……!!

 ……自分の力のなさがたまらなく憎い。


 ……ともかく今をどうにかしなくては。

 避ければ避けるだけ距離が縮まっていく。かなり追いつかれてしまいました。

 ジリジリとした焦燥感に心臓の鼓動がヤケにうるさく聞こえてくる。


 ――なにか……打開策は……!


 全力の飛行で酸素の薄くなった脳みそは空回りをするばかり。グルグルと思考の迷宮から抜け出せなくなっていると急に視界が開けた。憎らしいほどに雲1つない青空だ。


 ――木がなくなった!? 周りに障害物がない……!! まずいでしょうか!? ……いや、このまま……!!


 視界が開けると言うことは障害物が無いと言うこと。小回りの利く私に有利だったものがなくなることを示します。

 咄嗟に方向転換をしかけましたが思い直し、そのまま直進することに。


 そしてヘビの進行が止まる。

 振り返り蛇を睨み付けます。

 ですが蛇がこちらを攻撃してくることはありません。

 いえ、できないと言った方が正しいでしょう。


 なにせこちらは船の舳先のようにつきだした崖の先。下には轟々と流れる水のうねりが。

 いくら巨大な蛇と言えど、こちらにやってくることはできませんし落ちてしまえばひとたまりもありません。

 すぐ側に飛ばせるような木もないので蛇に遠距離攻撃の手段もない筈。


 運良く逃げ切れる、を引けるとは。……ちょっとギャンブルやってみましょうか?


 ともあれこれで少しは時間が稼げるでしょうか。

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