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「ただいま〜。父さん、起きてる?」

 夜も()け、日付が変った頃になって、玄関から声がする。

 こいつの親父が飲んでた薬の名前をネットで調べてみたら……抗癌剤だった。

 何て酷い息子だ……。

 関東難民はどんなに頭が良くて、どんなに勉強しても、マトモな職に就ける訳が無いし……そもそも、関東難民がマトモな職に就けるような間違った世の中になってしまう事など許される筈が無い。

 それなのに、こいつは、重病の父親を放っておいて、毎晩毎晩、大学で夜中まで研究とやらをやっているらしい。

 親不孝なだけでも許し難いのに……そうだ、こいつが奨学金をもらったせいで、善良な「地元民」の誰かが奨学金をもらえなくなったのだ。

 こいつは許し難い事をいくつやっているのだ?

 全く、「正義」を名乗る奴に限ってロクな奴は居ない。

「おい、『正義の味方』を詐称するテロリスト、父親の命が惜しければ大人しくしろ」

 俺は奴の部屋で見付けた、あるモノを手にして、玄関に近付きながら、そう言ってやった。

「え……?」

 奴は事態を理解していないようだ。

 何で、こんな阿呆が一流大学の理系の大学院に行けたのだ?

 フザけるな……。

 俺は親父の跡を継いで政治家になり……必ずや、教育改革を成し遂げてみせる。

 まずは、関東難民から大学の受験資格を剥奪してやる。

「な……何で……君がここに居る……?」

 この声には聞き覚えが有る。

 どこで聞いたのかまでは思い出せないが……確かに聞き覚えが有る。

 だが、俺は、こいつの顔を知らない。

 なのに、こいつは俺の顔を知っている。

「うきゃきゃきゃきゃ〜ぁッ‼」

 山下がヤケクソ気味な叫び。

 そして、山下は……バットを振り上げて突進。

 俺は山下を通して……そして……。

「うわあああああッ‼」

 いくら「正義の味方」を名乗っていても、不意打ちには恐しく脆い……。

 山下のバットは奴の右肩に命中……おそらく、もう右手は動かせまい。

「答えろっ‼ 何故、『正義の味方』を名乗るテロリストの一味であるお前の部屋の押入に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ⁉」

 答は1つだ。

 「正義の味方」を詐称するテロリスト達は、自分達に敵対する……そして奴らとは違う「真のヒーロー」であるクリムゾン・サンシャインが邪魔になり……俺達のクリムゾン・サンシャインを貶める為に、こいつに偽のクリムゾン・サンシャインを演じさせようとしていたんだ。

 だが……何としても、全てを奴の口から吐かせなければならない。

 奴が「正義の味方」が裏でやっていた悪行を自白した動画を動画サイトにUPすれば……PV数は鰻登り、投げ銭はジャラジャラ、そして俺は有名人になり……あのクソ義弟(おとうと)の代りに親父の跡を継いで市長に……いや、この間違った世の中を元に戻した真の英雄として……やがて再建されるだろう新しい日本政府の首相になる事だって夢じゃない。

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