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「マズいっすよ。本物の『異能力者』かも知れない奴の家にカチコミかけるなんて……」

 奴が住んでる団地までやって来て、仲間の1人の野口がそう言い出した。……そう、俺達がこの前、「正義の味方」「御当地ヒーロー」を自称するテロリストどもに殺されかけたあの団地だ。

 あれから、まだ一〇日経っていないのに、あいつらの陰謀によって、俺は殺人犯にされかかり、俺の一家は家庭崩壊寸前、親父はノイローゼで市長の仕事をマトモに出来なくなっているらしい。

 このツケは、必ずや自称「正義の味方」どもに支払わせてやる。

 銃で他人(ひと)を撃って良いのは、撃たれる覚悟が有る奴だけだ、と云う事を「正義の暴走」をやらかしやがってるクソ共に思い知らせるのだ。

「よし、わかった。先頭はお前だ、野口」

「えっ?」

「逃げようとしたら、どうなるか判ってるな」

「でも、まだ、この前の怪我が治ってなくて……」

 野口は片手を見せる。何の傷だったっけ?……ああ、「正義の味方」どもを銃殺しようとしたら、うっかり、排莢の際のスライドで自分の手を怪我した時のアレか?

「でも、これは持てるだろ?」

 そう言って、俺はバットを渡した。

「は……はい……」

 ヤツの部屋は団地の上の方の階だった。

 しかも、この団地にはエレベーターが無い。

 普段、運動してない奴らばかりなので、目的の部屋の前に辿り着いた頃には、全員が息も絶え絶えだった。

 野口はドアのチャイムを鳴らす。

 そして、ドアスコープから見えない位置に移動。

「どちら様ですか〜?」

 かなり齢の男の声。

府川(ふかわ)健三さんのお宅はこちらでしょうか〜? 宅配便です」

「はい、ちょっと待って下さい」

 玄関のドアが動く。

 野口はバットを振り上げ……。

「あれ?」

 出て来たのは……えっ?

 奴の父親は……まだ五〇代の筈なのに……七〇過ぎにしか見えない、痩せ細った男。

 髪はほとんど無く……わずかに残った髪も白髪。

 Wikipediaに載ってた現役サッカー選手だった頃の写真の面影は……ほんの微かにしか無い。

 そして、奴をブン殴る筈だった野口は……。

 馬鹿野郎が……。

 野口は、出て来た奴を横からバットで殴り付けるつもりだったらしいが、うっかり開いたドアが盾になって殴れない位置に居やがった。

 そして……。

 奴は俺の方を見て……。

「あれ……?」

「うわああああッ‼」

 俺は慌てて、爺ィと呼ぶには、多少若い齢の筈なのに、爺ィとしか呼べない外見のその男に体当りをした。

 その男の体は玄関のドアに激突し……。

「ぎゃあッ‼」

「ぐへえッ‼」

 何故か、悲鳴が2つ。

 1つは、玄関から出て来た標的の父親と思われる男。

 もう1つは……。

 標的の父親らしい男は、わざと玄関のドアに勢い良く激突しやがった。

 そのせいで、玄関のドアも勢い良く動き、ドアの背後(うしろ)に居た野口がドアに思いっ切り激突。

「このクソ爺ィ。俺の手下(ダチ)に何て真似しやがるッ‼」

 俺は冷静で理性的な大人の男だ。

 しかし、この状況では、仲間を傷付けた男に然るべき制裁を加えなければならない。

 これは俺が大嫌いな「正義の暴走」なんかじゃない。

 俺は、標的の父親らしき男の胸倉を掴み……。

「お……緒方さん……ここじゃマズいっすよ」

「な……何言ってるッ‼ こいつのせいで野口は……野口は……」

「あの……ここは『関東難民』だらけの団地っすよ。この団地全体が、俺達の敵も同じっすよ。やるなら、部屋の中で」

「あ……ああ、そうだったな、ちょっと来やがれ」

「あ……あんた達……誰だ……?」

 どんな「悪」よりタチが悪い「正義の暴走」をやらかしてるクソ野郎の質問など無視して当然だ。

 俺達は、標的の父親を部屋の中に連行した。

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