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18.あちらの世界とこちらの世界

ジオ村を出ていくまでの間、レイナは日中ロイの元へ通い、この国の知識や文字を教わることになった。レイナはマオと離れるのを躊躇ったが、マオが「大きな街へ行くなら必要なことだし、あたしには教えられないよ」と背中を押したのだ。

アイゼルとロイは、ジオ村を出たあとはとりあえずミセン州の州都・センリャンへ行き、そこでしばらく滞在して情報を仕入れたのち、首長の屋敷へ参上する予定だという。


「そこから先のことはまだ決まっていないが、今はどうも西のフェム国やその向こうにあるディーリア帝国との関係が危うい。ミセン州もテッキ族との争いが絶えないし、どこかのんびりできる州でしばらく薬草探しがてらぶらぶらできるといいんだけど…」


シン王国は、横長に広がる広大な大国だ。13に連なる州から成り立ち、州を治める首長は建国時の王の兄弟の一族である。


「シン王国の始まりは約1000年ほど前と考えられている。偉大なる初代ハン王とその兄弟がこの国を興し、それぞれの兄弟が首長となって国を守っている」


まずは国の成り立ちや気候、他国との関係を覚える。勉強しがてら、ある程度の文字や数字も覚えてほしいそうだ。

急病人やけが人がいない日は、ロイの小屋は静かだ。アイゼルは水田づくりに同行しているから、日中のロイは、時折やってくる患者の相手をしつつ、熱が出たときや腹を壊したときのための薬を煎じたり、1人でさっと山へ行って山菜や薬草を採ってきたりしているらしい。

2人は主食となる米やあまり野菜はこの村からもらって生活をしている。その代わり、薬代や診療代はとらない。医者など街に行かなくてはかかれず、医者にかかる金ももたない村人たちにとって、生活を助けることで医者にかかれるというのは相当幸運なことのようだ。


ロイは説明しながら木の枝で地面に国の形を描いていく。横長の楕円のような国の真ん中に王都があり、それを放射線状に13の州が取り巻いている。ロイは説明しながら、真ん中になにやら象形文字のようなものをふたつ書き、「王都」と言った。


「…これがこの国の文字なんですね。左の文字の読みが『オウ』で、右の文字の読みが『ト』、ということですか?」


ロイは一瞬いぶかしむような顔をしてアゴに手を当てた。


「今、『オウ』、『ト』と言ったかい? おかしいなぁ。王都のことだよね? 発音が違う。もしかして、レイナの元の国の言語で王都と同じ意味のものに変換されてしまうのかな。王都、王都だよ」

「王都、ですよね」


レイナは困惑しながら答える。今度は間違っていないようだ。


「じゃあ、この字はなんて読むとさっき言った?」


ロイがひと文字めを指差して聞く。


「ええと…『オウト』をふた文字で表すのだから、『オウ』か、もしくは単音の『オ』、でしたか?」


ロイが額に手を当ててため息を吐いた。


「なるほどね。おそらくだが、僕らの言葉で教えたものは、レイナにはそのまま発音できているのだけど、レイナの頭の中では元の言語の近い単語に変えられていて、その言葉を思い浮かべながら話すと発音が変わってしまうんだな。とはいえ僕の発音も『オウト』に聞こえるのかい?」

「そうですね、先ほどから変わらず『オウト』です」


「困ったなぁ」とロイが考えこむ。どうやらレイナの頭には自動翻訳機能みたいなものが搭載されていて、ここの人々が話す言葉は日本語として聞こえ、レイナが日本語として話す言葉は勝手にこちらの言葉に翻訳されていたようだ。そのため、日本語の発音を思い浮かべて話すと、こちらの人には聞きなれない発音になってしまう。


「ちなみに、レイナの国でいうその…『オウト』? ってどんな字を書くの?」


レイナはロイから木の枝を受け取り、地面に「王都」と書いた。


「左の字が王様を意味します。右は都…栄えている街、本拠地のような意味です。なので、王の本拠地の街、のような意味になります」

「ヘぇ、意味や組み合わせ自体は結構近いな」


レイナはコクリと頷いた。


「私が今書いた字は、漢字と言って、もともと私の国にはなかった文字なんです。とある国で発祥し、私の国に伝えられました。まぁ、今は一般的に普及しているんですけど…。そのとある国と、こちらの国が、どうも風習などから近いように感じています」


ロイは目を見開いて驚いた。


「えっそうなの!? マレビトって、まったくの別世界から来ると思ってたんだけど…。それにマレビトの文化ってとても進んでるんだよね?」

「たしかに文化は進んでいます。なので、なんとなく生活や知識のレベルから考えて、私のいた時代から1000年前後遡った時代の文明に似ているなって。でも、私たちの世界には念力なんて存在しませんし、髪の毛の色や目の色も、地域や人種によってある程度固定されます。こちらの世界とは人種含めて違う存在なのでしょうから、やっぱり別世界ではあると思うのです」

「そうか、1000年も…。うーん、マレビトについては謎が多いけど、実は念力とマレビトにはなんらかの関係があるんじゃないかって言われているんだよね」

「え、そうなんですか?」


今度はレイナが驚く。不思議なことばかり起こる世界なので、そこが結びつくとは考えていなかったのだ。


「さっき言ったように、この国は約1000年前に興っている。文献があまりない時代で失われているものも多いから一概には言えないけど、それより以前には念力は存在していなかった、とされている。初代王が突然念力の使い手となり、その力を兄弟に分け与えた。そして血筋によって念力が守られている。だから、シン王国以外には念力が存在しないんだよ。そして、最初のマレビトを呼んだのも初代王だと言われている」

「呼んだ、のですか? 来たのではなく?」


ロイが頷いた。


「そう。今はマレビトは突然現れるものとされるが、初めは初代王が念力を使って呼び寄せたそうだよ。はるかに進んだ文明の民に教えを請い、この国を強力にするために、とかなんとか。ただ、マレビトを呼ぶ術というのは長い歴史のなかでいつのまにか失われてしまった。今はいつどこで現れるのかわからないから、王族や首長一族はマレビト探しに躍起になっているし、マレビトの希少価値が上がって権力が向上していく一方なわけ」


レイナは、マレビトが念力を使ってこの国に招かれた者だと知り、心臓が高鳴るのを抑えられなかった。呼ぶことができたのなら、返すこともできるのだろうか。そして、この世界とレイナのいた世界は、念によって結ばれている世界ということだろうか。

自分以外のマレビトと会ってみたい、という気持ちが不意にレイナの中に湧く。けれど、それを振りきるように頭を振った。それは王宮へ行くということで、アイゼルとロイを裏切るのに等しい。この2人にできるだけ迷惑をかけず、マレビトだということもバレずに生きていく道を探すのがレイナの急務だ。

そのためには文字を覚えないと…と絶望していると、ロイが言った。


「まぁ、読み書きをしなきゃいけない場面ていうのは少ないよ。この国では平民は文字を覚えないことが多い。商人なんかは別だけど。レイナは、カンジ? と言ったかな、それを思い浮かべて発音すると、きっと違う言葉になってしまう。だから読み上げずに、書いてあるものの意味を知ることができればまずは十分」


レイナは少しほっとしてロイを見上げた。ロイは心なしかニヤニヤしている。


「アイゼルほどではないけど、僕も厳しく指導させていただこうかな。代わりに…レイナ、あちらの世界の話をもっと聞かせてくれる?」


どうやらあちらの世界の話は、好奇心旺盛なロイを存分に刺激してしまったらしい。レイナは少しだけ引きつつ、笑顔を返した。

畑仕事も大変だったが、こちらもこちらで大変そうだ、とレイナは覚悟を新たにした。


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