11.君の話
「さて、僕らの話はこれで終わり。次は君の番」
急にロイから水を向けられて、レイナはたじろいだ。
「私の話、ですか…」
「そなたと我らがもはや一心同体となるしかあるまい。そなたの身の上も聞いておこうではないか」
アイゼルは心底イヤそうな顔で言った。
「あの…。ロイさんの話を聞いて、理解できていないことがあります。お2人がかつて王宮にいて、マレビトをよく思っていないことはわかりました。マレビトが、国の中枢に関わることをよしとしていないことも…。それではなぜ、私のことを助けようとしてくれているのでしょうか?」
「助けようとはしてないでしょ? 現にこの村から引き離そうとしているわけだしさ」
「いいえ、そういうことではないです。マレビトがお2人にとって不要な存在なら、私がマレビトとわかった時点で人知れず殺したりすることも可能だったのではないですか?」
レイナの問に、2人の動きが止まった。アイゼルはつまらなそうにフンッとそっぽを向く。
「そなた、本当にマレビトか? マレビトとは死をことさら怖がる向きがあると思っていたが…」
「…それは、怖いですよ。私たち、一度死んでいるので」
「そうなの!?」
ロイが叫んだ。
んん…とグジが呻いて、ハッと我に返る。グジが起きていたら事だ。びくびくとグジの顔色をうかがうと、アイゼルが答えた。
「…問題ない。先ほど眠りの気を誘っておいた。朝まで起きることはない」
「念力は、そのようなこともできるのですね」
感心していうレイナに、ロイが呆れたように言った。
「ここまでできるのはアイゼルの力が強いからだ。首長一族の傍系でしかない僕だと、半刻がせいぜいだよ」
ロイは首をすくめるが、レイナはなおも驚いた。ロイも念力使いだったのか。
「ま、そんなことは追い追いでいい。レイナは、僕らがなぜ君を殺さなか、と言ったね。理由はいろいろある。マレビトに追いやられている僕らは、マレビトの思考を知りたい。味方のマレビトを手に入れたい、というのは正直なところだ。君が味方になってくれると、今後いろいろと動きやすい。それと、君のここ1か月の生活ぶりを見て、信用できると思った」
ロイの言葉に、レイナは少しうれしくなる。
「それから、まぁこれが、僕らがいつまでもお尋ね人な理由なんだけど」
ロイがレイナの瞳を見据えた。
「僕ら、人を殺したりしたくないんだよ。権謀渦巻く王宮から来たけど、殺されそうになったけど、でも、だからって人を殺すのは当たり前のことじゃないから」
わかるかな? というロイの声に切なさが混じる。レイナは息を飲み、どっと後悔や申し訳なさが押し寄せてくるのを感じた。
この世界は、自分が生きてきた世界と違う。権謀術数がうずまく王宮。親を殺されて逃げている2人。凄まじい人生だ、と悲しくなると同時に、心のどこかで『この世界ってそういう、フィクションみたいな世界なんだ』と思っていたことに気づかされる。
目の前の2人は、自分となんら変わらない人間なのに。
涙がこぼれそうになる。けれど、自分が泣いても仕方ない。彼らがいちばん嫌うことだ。そう奮い立たせて、ロイを見る。
「私を、受け入れてくださって、ありがとうございます」
力強いレイナの視線に、ロイがほほ笑んだ。
「…君は、初めから強い瞳をしていたね。ほかのマレビトとは違う瞳だ」
アイゼルが、レイナを見ないまま言う。
「我らにはマレビトのことは、よくわからぬ。高度な知識と、意地汚い野心をもつ者たちだ。…だから、そなたのようなマレビトは初めてなのだ。そなたには野心がないな。それは、いつか芽生えるものなのだろうか? それとも、一度死んだというそなたは、以前の生で本懐を遂げていたのだろうか?」
なかば独り言のようなアイゼルの言葉が少しずつ、本質に近づく。レイナは、自分がこれまでのことを話さねばならないのだと理解した。
「私にも、ほかのマレビトの方のことはわかりません。これから野心が生まれるかもわかりませんし、以前の人生で本懐を遂げたとも思いません」
ゆっくりと、言葉を紡いでゆく。
アイゼルとロイは、レイナの言葉を待つように口を閉ざす。
「でも、そうですね。私は以前の人生で、すべてを手に入れていたのかもしれません。なにも手にできていなかったのかもしれません。今となってはそれもわかりませんが…。けれど自ら死を選んだとき、私は、自分がいちばん欲しいものを手に入れられなかった、と絶望していたのです。そのとき手にしていたものをすべて手放しても、欲しいものが手に入らない人生から逃れたかったのです」
レイナは静かに続けた。
「どれくらい、お2人にわかるようにお話できるかわかりませんが…私の話をします」




