きらめきのバレンタイン
銘尾友朗さま主催『冬の煌めき企画』企画参加作品です。
「そうそう、今日お店にね、卯月ちゃんが来たんだよ。びっくりしちゃった」
「弥生? なんでまた」
「大学がリモートになったんで、実家に戻ってるんだって」
弥生卯月ちゃんは中学時代の同級生で、前に睦月と付き合ってるって噂になってた人。元々睦月のこと好きだったっぽいのを知ってたから、僕は噂を信じて睦月を諦めようとしてた時期があった。
あ、睦月っていうのは、今電話で話してる相手。如月睦月って名前。
僕の幼なじみで、初恋の相手で、恋人。1年前にやっと付き合えた。
「あんま褒められた話じゃねえな、それ」
「年末に帰ってきて、一応、半月くらいは引きこもってたらしいよ」
「だとしてもだ。帰ることによるリスク自体は全く変わらねえ。
俺がどんだけ我慢してると思ってんだ」
睦月は、おじさん達のことを考えて、全然帰ってこないもんね。でも、僕は会いたかったんだよ。
「睦月は気にしすぎだよ。
お正月も帰ってこないんだもん。僕がどんだけ淋しかったかわかる?」
「俺だって同じくらい辛いっつうの。
万が一、お前が倒れでもしたらって思ったら、怖くて帰れねえよ」
「ぶう。大事に想ってくれんのは嬉しいけどさあ、僕、接客業だよ? 睦月と会えないまんま倒れたりしたら嫌なんだけど」
僕神在葉月は、この春、製菓専門学校を卒業して、パティシエールを目指して市内のパティスリーに就職した。
今は、彼氏の──きゃーっ──睦月とテレビ電話中。これだとマスクしなくていいから、睦月の顔が見られて嬉しい。
あ、僕は自分のこと「僕」って言ってるけど、女の子だからね。
ずっと好きだったのに、睦月と高校別々になっちゃって──僕の成績じゃついていけなかった──しかも睦月に彼女ができたって噂を聞いて、諦めようとしたんだ。
でも、諦められなくって。
結局、噂は噂でしかなくって、睦月もずっと僕のこと好きだったって。去年のお正月にそれがわかって、僕は睦月と付き合いはじめた。そのことはお互いの両親も知ってる。
お母さんは、僕の気持ちも睦月の気持ちも知ってたらしくって、僕達が付き合うこともすごく喜んでくれた。
ただ、睦月は東京の大学に通ってるから、遠距離恋愛になっちゃったんだよね。
付き合いだしてすぐにコロナ騒ぎがあって、デートもあんまりできてない。
睦月に言われてスマホに変えたから、こうやって顔見て話ができてるけど、やっぱり会いたいよね。恋する乙…女としてはさ。
「卯月ちゃん、明日がバレンタインだからって、チョコケーキ買いに来てくれたみたい。
よかったよ、ライバル減って」
僕としては、卯月ちゃんみたいな可愛い子が睦月の近くにいると落ち着かないから素直にそう言ったんだけど、睦月はいかにも呆れたって顔をした。
「お前、ま~だそんなこと心配してんのか?
あいつとは、東京来てから会ったこともないって何度言ったらわかんだよ」
「わかってても、不安なものは不安なんだよ。
睦月みたいなかっこいいのが東京で野放しになってるんだよ? 田舎娘の僕なんかじゃ太刀打ちできないような美人が睦月を好きになったらって思うと、心配でしょうがないよ」
「あのな。
俺にはお前だけだからっつってんだろ」
「それはわかってるんだけどさ。不安なものは不安なの。
傍にいてくれたら、安心できるんだよ。
傍にいてくれたら、明日直接渡せたんだし」
「ああ、バレンタインか」
「明日、楽しみにしててね。
僕の大好きをいっぱいこめたの送ったから。午前中に届くからね」
「ああ、楽しみにしてる」
クール便で送ったチョコケーキ。
本当は直接渡したいけど、会えないから、せめて当日に届くようにした。
今の僕にできる最高の飴細工を載せてある。
この前見た樹氷。
吹雪の夜が明けて、晴れ渡った空をバックに、凍り付いた街路樹がキラキラしててすごく綺麗だった。
この景色を睦月と一緒に見たいって、すっごく思った。
だから、撮った写真は見せないでおいて、プリントしたのをケーキと一緒に入れた。
睦月、びっくりするかな。
チョコケーキって言ってたのに、真っ白な生クリームのケーキが届いて。
ちゃんと、中はチョコのスポンジとチョコクリームなんだよ。
短いカステラみたいな長方形のケーキの両脇に、飴細工で作った樹氷の街路樹を並べて、片方の端に、クッキーで作った僕と睦月の人形。タキシードはチョコ、ドレスは飴で作って、バージンロードなんだから。向かう先には、飴細工のハート。「Just Married!」って綴った力作だぞ。
睦月、大好きだよ。
早く会いに来てね。
届いたケーキを見た睦月は、葉月を抱きしめたくて身もだえたとか(^^)
このお話は、去年の『冬のドラマティック』企画に書いた「初詣の奇跡 ~初恋の相手がフリーに戻るよう、神様に祈ってみた~」の続編です。
ちょうどネタを考えている時に、樹氷っぽく凍った街路樹を見たので、それを使ってみました。