51軒目の幽霊屋台
これは、怪談や噂話が大好きな、仲良し3人組の女子生徒たちの話。
「幽霊屋台?」
「そう。
近所の神社のお祭りで、
合計50軒の屋台が出店するんだけど、
51件目の屋台が現れる時があるんだって。
その51軒目の屋台が、幽霊屋台なんだとか。」
「それは、ただの無許可営業の屋台ではなくて?」
「幽霊が屋台をやるなんて、
どうして、そんなことをするんだろうね。」
夏の学校、授業中。
その仲良し3人組は、同じ教室で授業を受けている。
黒くて長い髪の女子生徒。
髪を頭の左右に分けて結っている、ツインテールの女子生徒。
おかっぱ頭の女子生徒。
これが、その仲良し3人組。
その3人は、
放課後、いつも教室に残って一緒におしゃべりするほど仲良し。
特に、怪談や怖い話が好きで、
どこからか怪談を聞きつけては、
その謎解きをすることが楽しみだった。
今日、この時も、
怪談の謎解きは始まろうとしていた。
年老いた先生が、
黒板に板書をしながら、生徒たちに話をしている。
「・・・というように、
古い書物には、
生者が死者の国の食べ物を食べると、
死者の国、つまり、あの世から帰ってこられなくなる、
という記述があります。
これを、ヨモツヘグイと言います。
これは・・・」
長い髪の女子が、
背筋を正して、先生の話を聞いていると、
ちょんちょんと、背中をつつかれる感触がした。
振り向くと、
後ろの席の生徒が、小さな紙切れを差し出していた。
その生徒が指差す先では、
ツインテールの女子が、手を振っている。
差し出された小さな紙切れは、
ツインテールの女子から回ってきた手紙のようだ。
長い髪の女子は、その手紙を受け取ると、
先生に見つからないように、そっと開いてみた。
その小さな手紙には、このように書かれていた。
「今夜、いつもの3人で、神社のお祭りに行かない?
せっかくの夏なんだから、浴衣を着てさ。」
手紙を読み終えて、
長い髪の女子が教室の中を見渡すと、
おかっぱ頭の女子が、小さく手を振って応えた。
それを見て、鼻でため息をついた。
「まったくもう。
こんな話をするために、わざわざ手紙を回してくるなんて。
授業が終わるまで待てないのかしら。」
小声でこぼしながら、自分も手紙に返事を書いた。
「特に用事もないし、良いわよ。
3人で浴衣を着るなんて、悪くないわね。
詳しい相談は、放課後にしましょう。」
返事を書いた手紙を、後ろの席の生徒に手渡した。
その小さな手紙は、
授業中の教室の生徒たちの手をぐるぐると回って、
宛先であるツインテールの女子と、おかっぱ頭の女子の手に渡った。
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子は、手で丸を作っている。
どうやら、話がまとまったようだ。
それから、
長い髪の女子とおかっぱ頭の女子は、授業に戻り、
ツインテールの女子は、コテンと頭を机に乗せて、
居眠りを始めてしまったのだった。
学校の授業が終わって放課後。
その3人は一旦帰宅して、
それから、お祭りの会場である、
近所の神社に集まることになっていた。
今、集合場所には、
長い髪の女子とおかっぱ頭の女子が、先に集まっていた。
その2人は、手紙で話した通り、
涼やかな浴衣姿になっていた。
長い髪の女子は、深い青に朝顔の模様の浴衣。
おかっぱ頭の女子は、白と薄い桜色の花柄の浴衣。
お互いに浴衣を見せ合って、嬉しそうに微笑んだ。
「あなた、その浴衣かわいいわね。
よく似合ってるわよ。」
「えへへ、ありがとう。
その青い浴衣も素敵だね。」
そうしてその2人が微笑ましく話をしていると、
ツインテールの女子がやってきた。
集合時間には、少し遅れての到着だった。
「ごめーん、遅れた!」
現れたツインテールの女子は、鮮やかな黄色の浴衣を着ていた。
その浴衣を見て、おかっぱ頭の女子が歓声をあげた。
「わぁ、素敵。
向日葵の浴衣かな。
すごくかわいいね。」
浴衣を褒めてもらって、
ツインテールの女子が照れ笑いして応える。
「ありがと。
あんたたち2人の浴衣もかわいいよ。」
「えへへ、ありがとう。
やっぱり、夏は浴衣だよね~。
かわいいし、涼しいし。」
「夏だったら水着もいいね。
今度、この3人で海にも行こうよ。」
ツインテールの女子のその言葉に、
長い髪の女子が、挑発的な笑みを浮かべて言う。
「あら、あなた。
水着で人前に出られるほど、
自分の体型に自信があるのかしら。」
長い髪の女子が、
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子の身体を、
わざとじろじろ見比べて見せた。
おかっぱ頭の女子は、
胸を隠しきれずに、もじもじしている。
それに比べて、
ツインテールの女子の体型は、
浴衣の上から見ても、まるで男の子のように見えた。
ツインテールの女子が、顔を赤くして不平を言う。
「う、うるさいな。
あたしはこれから成長するの!
ちょっと発育が良いからって、2人とも嫌味ったらしい。」
「わ、わたしは何も言ってないけど・・・」
「まあそれは良いとして、早くお祭りに行こうよ。」
おかっぱ頭の女子の小さな抗議は、
お祭りの喧騒にかき消されてしまった。
長い髪の女子が、時計を見ながら応えた。
「そうね。
あまり遅くなるのも良くないし、
そろそろお祭りをまわることにしましょうか。
まずは、会場の全体図が見たいわ。」
「それなら、
お祭り実行委員の受付に行くのが、良いんじゃないかな。」
「全体図なんて見るの?
そんなの気にしないで、
好きに歩いたらいいと思うけどな。
まあいいか。
じゃあまずは、お祭り実行委員の受付に行こう。」
そうしてその3人は、
お祭りの会場である、神社の境内に足を踏み入れた。
その神社の境内は、
お祭りの屋台が、所狭しと立ち並んでいて、
たくさんのお客で賑わっていた。
辺りからは、
たこ焼きや焼きそばの匂いが漂い、
金魚すくいや輪投げに興じる子供たちの声が、
祭り囃子に混じって聞こえてくる。
そんなお祭りの喧騒の中を、浴衣姿のその3人が歩いていた。
ツインテールの女子が、周囲を見渡して言う。
「えーっと、
お祭り実行委員の受付はどこかな。」
「あっ、あそこじゃないかな。」
おかっぱ頭の女子が指差す先に、
屋台とは様子が違う、会議用の机を並べたような場所があった。
その机には、
お祭り実行委員、受付。
と書いてあるのが見えた。
どうやらそこが、このお祭りの実行委員の受付らしい。
その周辺では、
実行委員らしき人たちが、お揃いの同じ法被を着て、
忙しそうに動き回っている。
受付の前には、
同じ法被を着た若い女が立っていた。
長い髪の女子が代表して、その若い女に話しかけた。
「失礼します。
このお祭りの、全体図のようなものがあれば、
見せて欲しいのですが。」
話しかけられたその若い女は、
顔をうつむけていたせいか、すぐには気が付かず、
ちょっと間があってから、ゆっくりと顔を上げて応えた。
「・・・あら、あなたたち。
同じクラスの。」
その3人と若い女は、お互いに見覚えがあった。
それもそのはず、
全員同じクラスの女子だった。
その女子は、少しだけ笑顔になって話した。
「あなたたち3人も、このお祭りに来ていたのね。
私、このお祭りの実行委員をしているの。
よろしくね。」
その女子は、
お祭りの実行委員をしているということだった。
長い髪の女子が、世間話のように話す。
「お祭りの実行委員なんて、大変でしょう。
自分は遊びに行けないんだから。」
「普段はそれほどでもないのよ。
他にも実行委員はたくさんいるから。」
そう受け答えする、実行委員の女子。
しかしよく見ると、その顔色はあまり良くないようだ。
頬が痩けて、やつれた表情をしている。
それを見て、
おかっぱ頭の女子が、
長い髪の女子とツインテールの女子に、そっと耳打ちする。
「あの子ね、
前にご両親を亡くしてから、ずっとあんな感じなんだよ。
できれば、何か手伝ってあげたいね。」
そんな説明を聞いて、
長い髪の女子は、心配して声をかけた。
「あなた、
ずいぶんと疲れてるように見えるけれど、
大丈夫かしら?」
「・・・うん、大丈夫。
ちょっと、お祭りの準備が忙しくて。
お祭りの全体図が見たいんだよね?
はい。これ。
これに、お祭りの全体図と屋台の配置図が載ってるよ。」
神社の地図のような紙を手渡された。
そこには、
お祭りの全体図と屋台の配置図が載っていた。
ツインテールの女子が、横から覗き込んできた。
「おっ、これこれ。
屋台の配置図も載ってる。
よし、
この地図を頼りに、早速お祭りをまわろうか。」
しかし、
おかっぱ頭の女子は、実行委員の女子のことが心配のようだ。
うつむき加減のその顔を覗き込んで、心配そうに話しかける。
「でも、本当に大丈夫かな。
すごくつらそうに見えるし、ちょっと休憩した方がいいよ。
何か、わたしたちに手伝えることはないかな。
出来ることなら、手伝うよ。」
その言葉に、長い髪の女子とツインテールの女子が続く。
「あなた、つらそうな顔しているわよ。
私たちに手伝えることがあったら、言って頂戴。」
「同じクラスだし、
そんな顔してるのを見たら、放っておけないよ。
何か出来ることがあったら言ってよ。」
その3人の心配そうな顔を見て、
実行委員の女子は、ちょっと迷ってから口を開いた。
「あなたたち、
幽霊のこととか、よく調べてるんだっけ。
・・・相談したいことがあるんだけど、良いかな?」
近所の神社のお祭りにやってきた、その3人。
お祭りの実行委員で受付をしていたのは、同じクラスの女子だった。
その3人は、
実行委員の女子が、とても疲れた顔をしているのを見て、
何か手伝えることは無いかと申し出た。
すると、実行委員の女子は、
ある相談を持ちかけたのだった。
「あなたたち3人に、
相談したいことがあるんだけど、聞いてくれるかな。」
長い髪の女子が応える。
「ええ、いいわよ。
私たちに出来ることなら、手伝うわ。
それで、相談って何かしら。」
「えっと、
相談っていうのは、
このお祭りの屋台のことなんだけど。
・・・出るのよ。」
「出るって、何が?」
実行委員の女子が、キッと虚空を見つめて言った。
「幽霊よ。
このお祭りには、幽霊が出るの。
幽霊が屋台をやっている、幽霊屋台が出るのよ。」
「幽霊・・・屋台?」
その3人は、思わず顔を見合わせた。
相談に乗る、とは言ったものの、
まさか、幽霊が出るなどと言われるとは思わなかった。
戸惑っているその3人を差し置いて、
実行委員の女子は、真剣な様子で話を続けている。
「そう、幽霊屋台。
このお祭りはね、
屋台が毎回50軒、出店してるの。
神社の境内の大きさから、屋台は毎回50軒って決めてあるの。
それで、出店する屋台は、実行委員に届け出して貰ってるんだけど。
それがどういうわけか、
実際に出店してる屋台を数えてみると、51軒あるのよ。」
「その51軒目の屋台が、幽霊屋台?」
「そう。」
50軒あるはずの屋台が、数えてみると51軒になっている。
それはいいとして。
51軒目の屋台が何故、幽霊屋台という話になるのだろう。
俄然、興味がわいてきた。
その3人は、実行委員の女子に質問を開始した。
長い髪の女子がまず口火を切る。
「ちょっと質問いいかしら?」
「どうぞ。」
「50軒に制限してるはずの屋台が、
数えてみると51軒ある、という話なのよね。
それは、
こっそりと無許可で営業してるだけではなくて?」
実行委員の女子は、首を横に振って否定する。
「それは無いと思う。
この神社のお祭りは、屋台の登録料金を取ってないの。
それどころか、登録した屋台には、
お祭りの時に着る法被や、道具一式も貸し出ししてる。
登録はお祭りの当日も受け付けてるから、
無許可で営業する意味が全然無いのよ。
屋台側から見たら、返って損しちゃうくらい。」
ツインテールの女子が、横から口を挟む。
「それでもなお、
無許可で営業してる屋台がいて、それが51軒目なんじゃないの?
登録が面倒とか、屋台の数がいっぱいだったとか、そういう理由で。」
それでもやはり、実行委員の女子は否定する。
「それも違うと思う。
理由は何であれ、
登録してない屋台が出店してたら、近隣の屋台の人が気付くと思うの。
配置図を見れば、
自分の隣が本来は空いているはずだって分かるから。
でも、屋台を出店してる人たちは、
自分の屋台の隣に幽霊屋台がいたってことに、誰も気が付かなかった。
毎回、お祭りが終わった後で気が付くのよ。」
おかっぱ頭の女子が、おずおずと質問する。
「お祭りの屋台の配置図があるんだから、
それを見ながら探したら、
幽霊屋台が見つけられたりしないかな?」
その質問にも、実行委員の女子が首を横に振る。
「屋台の配置図をチェックしながら探しても、
それでも幽霊屋台は見つからなかったのよ。
当日、たまたま出店を見合わせた屋台がいて、
その空いてる場所に紛れ込んでたり、
あるいは単純に見落とされたりしてね。
そんなことが何度も続いてるの。
偶然とは思えないわ。」
長い髪の女子が、メモを取りながら質問する。
「欠席した屋台がいなかった場合、
幽霊屋台はどこに屋台を出しているのかしら?
屋台を出す場所が無いから、50軒に制限してるって話のはずだけれど。」
「それはね、
荷物置き場とか防災の都合で、いつも少し余剰スペースがあるのよ。
どこにも空きが無かった場合、
幽霊屋台は、そこに出店してるみたい。
それも、後からわかったことなんだけどね。」
「いつの間にか出店してる屋台があったとして、
それがどうして、幽霊の仕業ってことになるの?」
ツインテールの女子が、一番の疑問をぶつけた。
実行委員の女子は、重々しく応えた。
「幽霊屋台はね、
何の気無しに行くと、そこあるのに、
行こうと思って行くと、たどり着けないんだ。
だから、幽霊屋台って言われてるの。
そんなことが何度も続いていたら、
それは、ただの無許可営業とは違うと思う。」
話を聞いてその3人は、首を捻って考え込んでいた。
お祭りの実行委員の女子の相談。
このお祭りの屋台は50軒のはずだが、51軒目があるという。
その屋台は、
探そうとすると見つからない、幽霊屋台だとか。
長い髪の女子が話を続ける。
「なるほど。
探すと見つからない、それが何度も続く。
そういう理由で、幽霊屋台だというのね。
それで、
私たちはどうしたらいいのかしら。
その幽霊屋台を探してくればいいのかしら。」
「そう。
まずは、その51軒目の幽霊屋台を探して来て欲しい。」
それを聞いて、ツインテールの女子が口を挟む。
「51軒目の幽霊屋台を探したら、
それからどうしたらいい?
説得して、出店を止めてもらう?
それとも、
その屋台の人達を、ここに連れてくる?」
実行委員の女子が、考えながら応える。
「幽霊屋台の人たちを、
ここに連れてきてもらえるなら、それが一番いいんだけどね。
でもきっと、
幽霊屋台の人たちは、ここには来たがらないと思う。
私が自分で幽霊屋台に行きたいところだけど、
行こうと思うとたどり着けないし。
だから、あなたたち3人には、
その幽霊屋台で売ってるものを、買ってきて欲しいの。
そうしたら、
その売り物を使って、私の方で調べてみるから。」
「幽霊屋台を見つけたら、
そこで何か買い物をしてくればいいのね。
何を買ってくれば良いのかしら。」
その問いに、
実行委員の女子が、努めて冷静に応えた。
「・・・食べ物が良いな。
何でもいいから、幽霊屋台の食べ物を買ってきて欲しい。
どんなものでもいいから、
口に入れられるものが欲しい。」
そうお願いする、実行委員の女子の顔は、
目だけがギラギラと光り輝いていた。
幽霊屋台で食べ物を買ってくるように頼まれて、
その3人は、
お祭りの配置図を睨みながら、お祭りの屋台の間を練り歩いていた。
「あっ、
あのりんご飴、美味しそうだよ。」
おかっぱ頭の女子が、屋台を指差して嬉しそうに言う。
それを、ツインテールの女子がたしなめる。
「それより、幽霊屋台をちゃんと探してよ。」
さらにその頭を、長い髪の女子が軽く小突く。
「そういうあなたも、
ソースせんべいを食べてないで、ちゃんと探して頂戴。」
「はーい。」
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子の2人が、
声を揃えて返事をした。
しかし、
それからいくらお祭り中を探し歩いても、幽霊屋台は見つからなかった。
「幽霊屋台、見つからないわね。」
「今回は、幽霊屋台は休みなんじゃないの。」
「やっぱり、
探そうとすると見つからないのかな。」
そんな話をしながら、
その3人が通り過ぎようとしていた時。
おかっぱ頭の女子が、配置図を見ながら声を上げた。
「・・・あれ?
あそこ、何か変じゃないかな?」
おかっぱ頭の女子が指差す先。
配置図によれば、
そこは予備スペースとして空いているはずだった。
しかしそこには今、
屋台が出店してるようにみえる。
ツインテールの女子が、
口の中にあったソースせんべいを飲み込んで口を開いた。
「配置図によれば、あそこに屋台は無いはず。
もしかして、あれが幽霊屋台?」
飛び出そうとするツインテールの女子を、
長い髪の女子が慌てて止める。
「待って、まだわからないわよ。
他所の屋台の荷物が、置いてあるだけかもしれないわ。」
長い髪の女子が言う通り、
法被を着た男が、そこに置いてあった荷物を運んでいった。
しかし、
荷物がどかされた後でも、まだそこには屋台が残っている。
その屋台は、
使い込まれてボロボロになっているせいで、
それがただの荷物なのか、それとも営業できる状態なのか、
その3人には、よくわからなかった。
「きっとあの屋台に見えるものも、
一時的にそこに置いてあるだけでしょ。」
「そうかもしれないわね。」
「あんなにボロボロなんだもの。
捨ててあるのかも。」
そうしてその3人が、そこから立ち去ろうとした時。
そのボロボロの屋台に、中年の男女が近付いていくのが見えた。
その中年の男女は、
シャツとジーンズにエプロンをかけていて、
手慣れた様子で、屋台の準備をしている。
屋台の中から道具を取り出すと、飾り付けをしていく。
すると、見る見るうちに、
ボロボロだった屋台が、お祭りらしい華やかな屋台に姿を変えた。
そうして、その屋台の営業が始まったのだった。
その一連の様子を見ていて、
ツインテールの女子が、目を輝かせる。
「すごい。
あんなにボロボロだったのに、
飾り付けをしたら、すっかり素敵な屋台になったよ。
赤いお花がすごくきれい。
あの屋台、金魚すくいだって。
ちょっと見てみようよ。」
おかっぱ頭の女子が、
長い髪の女子とツインテールの女子の手を取って引っ張る。
それに引きずられるようにして、
その3人は、その屋台の方に近付いていった。
そのボロボロだった屋台は、金魚すくいの屋台だった。
屋台には、真っ赤な花がたくさん添えられて、
まるで花屋のように綺麗に飾り付けされていた。
近付いてきたその3人を、屋台の中年の男が出迎えた。
「いらっしゃい!
うちはお金を取らないから、好きなだけ遊んでいってね。」
それを聞いて、
おかっぱ頭の女子が、小さく飛び跳ねて喜ぶ。
「えっ、無料で良いんですか?
やったあ。」
エプロンをかけた中年の女が、それに応える。
「うちはね、
私たち夫婦の趣味で、この屋台を出してるのよ。
だから、
お客さんが来てくれたら、それだけで嬉しいの。
その代わり、掬った金魚は、池にでも放してあげてね。」
ツインテールの女子が、金魚の水槽を覗き込みながら言う。
「へーすごい。
そんなにサービスいいのに、
なんでお客さんが少ないんだろ。」
ツインテールの女子の言う通り、
その金魚すくいの屋台には、
その3人以外の客は、寄り付きもせずに素通りしていく。
「この屋台、
いつ頃から出店されてるんですか?
ずいぶんと使い込まれた屋台に見えたんですが。」
長い髪の女子は、何気なく質問しただけだった。
しかし、
そう質問された中年の男女は、
一瞬凍ってしまったみたいに、ピタリと動きを止めた。
目は開いているのに、何も見えていないような、虚ろな目をしている。
「あの、私、
何か失礼なことを聞いてしまったかしら。」
中年の男女が急に黙ってしまったので、
長い髪の女子が、その顔色を伺った。
間もなくして、その中年の男女は、
何事もなかったように笑顔に戻った。
中年の女が、取りなす。
「あら、ごめんなさい。
えっと、何の話だったかしら。」
「この屋台、サービスいいのに、お客が少ないんですね。」
その様子に気が付かなかったのか、
ツインテールの女子がズケズケと質問した。
中年の女は、
気を悪くした様子はなく、はにかみながら応えた。
「そうでしょう?
サービスよくしてるはずなんだけど、お客さんが中々気付いてくれなくて。
だからあなたたちは、好きなだけ遊んでいってね。」
中年の男女は、すっかり元の笑顔に戻っていた。
さっきの間は、何だったんだろう。
長い髪の女子が、ふと水槽の金魚を見てみると、
そこには、見たことがないような品種の金魚が、たくさん泳いでいた。
それから、その3人は、
あのボロボロだった屋台を後にした。
それからは、特に気になるところも無く、
お祭りをおおよそ確認し終わった。
他に異常がないのを確認して、
その3人は、
あのボロボロだった屋台から、ほど近い場所に戻ってきた。
頭を突き合わせて、話し合いをしている。
「2人とも、
お祭りを見回ってみて、どうだったかしら。
何か、気がついたことはあった?」
「やっぱり気になったのは、
あのボロボロだった屋台、かな。
あの場所は、屋台が無いはずの場所だったよね。」
しかし、ツインテールの女子は、
頭の上で手を組んで、のんびりと応えた。
「そう?
あたしは、特に不審な感じはしなかったけどな。
無料だし、いい人たちじゃないかな。
あたしは、あの屋台が一番サービスよかったと思う。」
「そうじゃないでしょ。
どこが一番の屋台だったか聞いているのではなくて、
私たち、幽霊屋台を探しに来たのよ。」
「ああ、そうだっけ?」
ツインテールの女子は、
屋台の楽しさで、本来の目的を忘れかけていたようだった。
長い髪の女子が話を続ける。
「私は、あの金魚すくいの屋台が、
探していた幽霊屋台で、間違いないと思うわ。」
「その根拠は?」
「根拠は、2つあるわ。
それを今から説明するわね。」
おかっぱ頭の女子が、小さく手をあげた。
「あ、
わたし、分かるかも。」
そして、配置図を見ながら口を開く。
「さっきも言った通り、
あの金魚すくいの屋台があった場所は、
本来は、荷物置き場みたいだね。
実行委員の女子の話では、
幽霊屋台は、荷物置き場にも現れるって話だったよね。
だから、あの場所に屋台があれば、それは幽霊屋台かも。
そうだよね?」
「ええ、そうね。
それともうひとつ、不審なところがあるわ。」
「もうひとつ不審なところ?
なんだろう。」
長い髪の女子が、唇を湿らせて話し始めた。
「それは、あの屋台の人たちの服装ね。
実行委員の女子の話を、覚えているかしら?
お祭りの実行委員に届け出をして、登録した屋台には、
道具の他に、法被を貸し出ししてるはずなの。
実行委員の女子は、そう言っていたわ。
でも、
あの屋台の人たちは、
どちらもシャツにエプロンをかけていて、法被を着ていなかった。
それは、無登録だからに他ならないと思うわ。」
ツインテールの女子が、疑問を口にする。
「それって、
人数分の法被が、用意出来なかっただけじゃないの?」
それには、長い髪の女子が否定する。
「法被を、
屋台の人たち全員分用意出来なくても、
各屋台で最低一人分は、用意するんじゃないかしら。
届け出をした証にもなるわけだから。
試しに、他の屋台を見て頂戴。」
そう言われて、
ツインテールの女子とおかっぱ頭の女子が、他の屋台の様子を眺めた。
近くにある屋台の人たちは皆、
少なくとも1人は、同じ法被を着ていた。
「確かに、みんな同じ法被を着ているね。」
「道具が足りてるんだから、法被も足りてるに決まってるか。
足りなかったら、あの実行委員の女子が教えてくれてるだろうし。」
長い髪の女子が頷く。
「これで、おおよそ確定したかしら。
あの金魚すくいの屋台の場所は、
配置図では荷物置き場に指定されている。
届け出をした屋台に貸し出しされているはずの、同じ法被を着ていない。
この2つから、
あの屋台が、探していた幽霊屋台でしょうね。」
その3人は、
お祭りの配置図に載っていない屋台を発見した。
その屋台の中年の男女が、
貸し出しされているはずの法被を着ていないことからも、
その屋台こそが、
探していた幽霊屋台で間違いないだろうという結論に達した。
しかし、疑問は残る。
「でも、
それがどうして幽霊になるのかな?
無届けの屋台ってだけじゃないのかな。」
「試しに本人たちに、幽霊ですかって聞いてみる?」
ツインテールの女子が、ちょっと馬鹿にした風に言った。
長い髪の女子が、冷静に応える。
「止めておきましょう。
今回、実行委員の女子から頼まれたのは、
そういうことではなかったはずよ。」
「頼まれたことって、何だったっけ?
無許可営業の屋台の摘発?」
頭を掻いているツインテールの女子の横から、
おかっぱ頭の女子が口添えする。
「違うよ。
実行委員の女子から頼まれたことは、
幽霊屋台を見つけて、
おみやげを買ってくることだったよ。」
「そう。
今回のお願いは、
幽霊屋台を見つけて、食べ物を買ってくること。だったわ。
無登録の屋台をどうするか、
それは実行委員の人たちに任せましょう。
私たちは、ただのお客でしかないのだから。」
ツインテールの女子が、にんまりと笑って言う。
「いいね、そうしよう。
屋台の取り締まりまで手伝ってたら、
あたしたちがお祭りで遊ぶ時間がなくなるよ。
早く終わらせて、あたしたちもお祭りを楽しもう。」
「そもそもあの場所って、
荷物が無い時間帯なら、屋台があっても害はないものね。
実行委員の人たちに見つかっても、
そんなに問題にはならないと思うな。」
「では、決まったわね。」
長い髪の女子が、そう締めくくる。
そうしてその3人は、
実行委員の女子にお願いされた通りに、
食べ物を買うために、
その金魚すくいの屋台に、再度近付いていった。
その3人は再び、
その金魚すくいの屋台に近付いていった。
屋台の中年の男女は、
その3人の顔を覚えていて、明るく迎えてくれた。
「いらっしゃい!
おっ、さっきの子たちか。
また来てくれたんだね。」
「いらっしゃい。
好きなだけ楽しんでいってね。」
そう言って、
中年の女が、金魚すくいの道具を手渡してくる。
長い髪の女子が、
それを丁重に断って、説明しようとする。
「ありがとうございます。
でも私たち、
金魚すくいをするために来たのではないんです。」
「あら、そうなの?」
「じゃあ、何か他のご用かな?」
中年の男女は、
にこにこと人懐っこい微笑みを浮かべている。
そんな顔をされると、言い出しにくくなってしまう。
それを察して、おかっぱ頭の女子が説明を引き継いだ。
「わたしたち、
人に頼まれて、お土産を買いに来たんです。
何か食べ物はありませんか。」
そう言われて、中年の男女は顔を見合わせた。
それから、すまなそうに応える。
「残念だけど、
うちは金魚すくいの屋台で、食べ物屋じゃないんだよね。」
ツインテールの女子が食い下がった。
「そこを何とか!
どんなものでも良いんです!」
ツインテールの女子は、ハエのように手をすり合わせている。
中年の男女は、すっかり困り顔になっていた。
「そう言われてもねぇ・・・。」
「どんなものでも、食べ物ならいいんです!
絵画の授業に使うだけなので、
食べられないものでもいいんです!」
ツインテールの女子が言っていることは、
もちろん、口からの出任せ。
長い髪の女子が、小声でそれをたしなめる。
「ちょっとあなた、何を適当なことを言っているのよ。」
「いいじゃん。
食べ物をもらえれば、理由は何でも。
どうせ、この屋台を調べるために使うだけなんだから。
食べたりはしないでしょ。」
「まったくもう。」
そこまで頼み込まれてしまっては、断りきれない。
中年の女は肩をすくめると、
屋台の裏から、粗末な弁当箱を持ってきた。
「本当は、人にあげちゃいけないんだけどね。
そこまで言うなら仕方がないわね。
これ、私たち夫婦のお弁当。
これを持っていったら良いわ。
ただし、絶対に口に入れちゃだめよ?
私たちはちょっと特殊な・・・体質だから。
私たち以外が食べちゃだめ。
わかった?」
「はーい。」
そうしてその3人は、
金魚すくいの屋台でお弁当を貰って、
実行委員の女子がいる受付へと戻っていった。
その3人は、おみやげの弁当箱を持って、
実行委員の女子のところに戻ってきた。
「ただいまー。
幽霊屋台を見つけて、お弁当を貰ってきたよー。」
ツインテールの女子が、お弁当箱を掲げて手を振った。
その様はまるで、午前帰りの酔っ払いのようだった。
それを見て、
実行委員の女子は、信じられないという顔になった。
「お弁当って・・・。
まさか、本当に幽霊屋台を見つけたの!?」
「うん。
多分、あの屋台で間違いないと思うよ。」
おかっぱ頭の女子が、配置図を見せて説明した。
あの金魚すくいの屋台が出店している場所は、荷物置き場であるはずという事。
屋台の中年の男女が、貸し出しされている法被を着ていなかったこと。
それらから導き出された結論として、
あの金魚すくいの屋台が、探していた幽霊屋台であろうと伝えた。
その説明をしている間、
実行委員の女子はずっと上の空だった。
説明もそこそこに、
実行委員の女子は、おみやげのお弁当箱を受け取った。
受け取るやいなや、それを大事そうに抱え込んだ。
「そっか。
本当に、食べ物を貰ってきてくれたんだね・・・。
ありがとう。」
実行委員の女子は、その3人に深々と頭を下げた。
そうして、その3人は、
実行委員の女子からのお願いを叶えることができたのだった。
「じゃああたしたち、お祭りに戻るね。」
「あんまり、根を詰めないようにね。」
その3人がそう話しても、
実行委員の女子の耳に届いているのかいないのか、返事はなかった。
「・・・じゃあ、行きましょうか。」
仕方がなく、その3人は返事を待たずに歩き始めた。
その3人が、実行委員の受付を離れて行っても、
実行委員の女子は気にすること無く、弁当箱を抱きしめ続けていた。
その3人は、
実行委員の女子のお願いを叶えてあげて、
お祭りの中に戻っていった。
しかし、
実行委員の女子の、ただならぬ様子が、気になっていた。
ツインテールの女子が、顎に手を添えて唸っている。
「なーんか、引っかかるんだよね。」
長い髪の女子とおかっぱ頭の女子が、怪訝な顔をしている。
「引っかかるって、何が?」
「うん、何がってわけじゃないんだけど・・・」
「実行委員の女子、
ずいぶんと疲れていたみたいだよね。
ちゃんと休めてると良いね。」
それから、
おかっぱ頭の女子も、首を捻って言った。
「結局、
あの屋台が本当に幽霊だったのか、分からなかったね。」
長い髪の女子が応える。
「どうする?
気になるなら、もう一度行ってみるかしら?」
「あーっ!わかった!」
その時、
ずっと考え事をしていた、ツインテールの女子が、
突然頭を上げて大声を出した。
長い髪の女子が、怪訝な顔で咎める。
「急に大声を出して、どうしたのよ。」
「びっくりしたー。」
ツインテールの女子が、2人に向かって、唾を飛ばしてまくし立てる。
「それどころじゃないよ!
あたし、思い出したの。」
「何が?」
「覚えてる?
実行委員の女子の頼み事。」
「頼み事?
幽霊屋台を見つけて、お土産を持ってくることでしょう?」
長い髪の女子には、何を言わんとしているのかわからない。
ツインテールの女子が、もどかしそうに言葉を続ける。
「そう!
あたしたち、幽霊屋台で、お弁当を貰って来ちゃったんだよ!」
「それがどうしたのよ。」
「あっ!
ヨモツヘグイ!」
そこまで説明を聞いて、
おかっぱ頭の女子も、大声を上げた。
長い髪の女子が、落ち着いて聞き返す。
「ヨモツヘグイって、
今日の日本史の授業で聞いた、あれかしら。」
「そう。
あの世の食べ物を食べたら、あの世に行っちゃうんだよ!」
その時、長い髪の女子にも、2人が何を言おうとしているのか理解出来た。
「・・・そうか。
実行委員の女子は、
無届けの屋台は幽霊屋台だと、そう言っていたわね。」
「うん。
つまり、実行委員の女子は、
あの屋台の人たちが幽霊だって、確信してるんだよ。
その屋台から、食べ物を持って来るように言った。
日本史の授業は、実行委員の女子ももちろん受けていたよね。
ということは・・・」
「まさか、
わざとヨモツヘグイを起こそうとしている?
食べるのは自分?
それとも、他の誰か?」
「あの屋台が、
本当に幽霊屋台なのかどうか、
ヨモツヘグイが実在するのかはともかく。
実行委員の女子は、正気では無さそうね。
あのお弁当を受け取った時の様子は、普通じゃなかったもの。
心配だわ、急いで戻りましょう!」
その3人は、浴衣にサンダルの姿で、
実行委員の女子のところに向かって、全力疾走していった。
その3人が、急いで実行委員の受付に戻ると、
実行委員の女子が、今まさに、
あのお弁当を口にするところだった。
「そのお弁当、食べちゃだめー!」
おかっぱ頭の女子が、大声で叫んだ。
それを聞いて、
近くにいた人たちが、何事かと振り返る。
実行委員の女子も、それにつられて手が止まった。
その手に握られたおにぎりを、ツインテールの女子が蹴飛ばした。
蹴飛ばされたおにぎりは、地面に落ちて転がっていった。
実行委員の女子が、泡を食って叫ぶ。
「な、何をするの!止めないで!」
地面を転がっていくおにぎりを、必死の形相で追いかけていく。
その3人は、
それを追いかけて、実行委員の女子を羽交い締めにした。
おかっぱ頭の女子が、もみくちゃにされながら叫ぶ。
「止めて!
そのおにぎりって、
わたしたちが、あの屋台で貰ってきたお弁当だよね?
それを食べたら、ヨモツヘグイになっちゃう!」
ツインテールの女子が、ツインテールを振り乱して言う。
「ヨモツヘグイが起こったら、
あの世から戻ってこられなくなるんだよ!
それじゃ自殺と変わらないよ!」
実行委員の女子は、
いやいやをするように頭を横に振る。
「止めないで!
父さんと母さんのところに行かせてよ!」
「そんなことさせるか!
こんなもの、こうしてやる!」
ツインテールの女子が、
地面に転がっていたおにぎりを追いかけて、踏み潰した。
踏み潰されたおにぎりは、砂のように崩れて消え去ってしまった。
「ああ、母さんのお弁当が・・・」
それを見て、実行委員の女子は、やっと大人しくなった。
その様子を、実行委員の他の人たちが遠巻きに見ていた。
幽霊屋台の食べ物を失って、実行委員の女子は大人しくなった。
しかし、怒りは収まっていないようで、
その3人をキッと睨みつけた。
「どうして邪魔をするの?
あなたたちには、そんなことは頼んでないわ。」
地面に座り込んでいる、実行委員の女子。
その周りで、長い髪の女子とおかっぱ頭の女子がへたり込んでいる。
立ち上がったツインテールの女子が、腰に手を当てて口を開いた。
「あたしたち、
あんたの自殺を手伝うつもりなんてなかった。」
「そうよ。
私たちを騙してまで、幽霊屋台の食べ物を取って来させるなんて。
ちゃんと、事情を説明して頂戴。」
「困ったことがあるんだよね?
わたしたち、
何か助けになれることがあるかも。
事情を教えてもらえないかな。」
そうして、
実行委員の女子とくっついたまま、時間が過ぎていった。
何事かと、
実行委員らしい大人たちが遠巻きに見ていたが、
その3人が面倒を見ているのを確認したのか、
誰も止めに入らずにいてくれた。
お祭りの実行委員の受付は、他の人が代行してくれているようだった。
しばらくして、
実行委員の女子が、少しずつ事情を話し始めた。
実行委員の女子は、
数年前に両親を亡くし、今は祖父母のところで生活していた。
両親を亡くした寂しさを抱えてはいたが、祖父母との生活に不便は無かった。
そんな生活が続いて、1年ほど前。
偶然、この神社のお祭りで、両親そっくりの人を目撃した。
その両親そっくりの人は、ある屋台の人たちだった。
半信半疑で、その両親そっくりの人に話しかけた。
会話をしてみると、少し話の食い違いはあったが、
これが自分の両親で間違いないことに、確信を持つようになった。
しかし、いざそれを確認しようとしたところ。
その両親らしい人たちは、突然姿を消してしまった。
それから何度探しても、その姿を見つけることは出来なかった。
調べてみると、その神社では、
幽霊屋台が出るという噂があったのだそうだ。
その幽霊屋台が、きっと亡くなった両親の屋台に違いない。
もう一度、亡くなった両親に逢いたい。
一度逢えたのだから、またお祭りを探せば逢えるはずだ。
そう考えた。
しかし、いくら探しても、
幽霊屋台を見つけることは出来なかった。
でも、幽霊屋台の噂自体は、消えること無く続いていた。
であれば、幽霊屋台はまだ存在するはず。
きっと、幽霊屋台は、一度しか姿を現さないのだ。
だったら、別の誰かに頼もう。
そこで、
その3人に、両親の屋台である幽霊屋台探しを頼んだのだった。
「なるほど、そういう事情だったのね。」
大人しくなった実行委員の女子を椅子に座らせて、
その3人は肩の力を抜いた。
おかっぱ頭の女子が、
実行委員の女子の顔を覗き込むようにして話した。
「でも、どうして、
ヨモツヘグイなんて起こそうと思ったの?」
実行委員の女子は、ぽつりぽつりと応える。
「・・・父さんと母さんに、逢いたかったから。
私、両親がいなくなって、寂しかったの。
私もあの世にいけば、一緒になれるかもしれない。
でも、普通に死んだら、私だけ別のところに行くかも知れない。
私は、いい子ではないから。
死んでも、両親と離れ離れになるかもしれない。
そんな時、
今日の授業で、ヨモツヘグイのことを知ったの。
生者が死者の世界の住人になる、ヨモツヘグイ。
これなら、亡くなった両親とも、
確実に一緒になれる。
そう思って、実際に試すことにしたの。」
その話を聞いて、長い髪の女子がちょっと首を捻っている。
「でもあなた、
そんなに孤独でも無いわよね?
お爺さんお婆さんもいるし、
こうして、お祭りの実行委員をやるくらいなのだから。
学校の内外で、知り合いも多いんじゃないかしら。
それでも、寂しいものなのかしら。」
冷静に質問されて、実行委員の女子は首を横に振って応えた。
「お爺ちゃんもお婆ちゃんも、私よりずっと年上よ。
今は健康でも、いずれ私よりも先に死ぬわ。
友達や知り合いはたくさんいるけれど、どこまでいっても友達は友達よ。
友達や知り合いは、家族の代わりにはならないわ。
家族連れの姿を見るたびに、私ずっと不安だったの。」
「親だって、子供よりは先に死ぬよ。」
ツインテールの女子が、口を尖らせて文句のように言っている。
「それでも、一緒にいられる時間は長いわ。」
実行委員の女子は頑なで、
簡単に説得に応じる感じでは無さそうだ。
そうしていると、
実行委員の女子の様子を心配したのか、大人たちが数人やってきた。
どうやら、医務室に連れて行ってくれるようだ。
その3人は、
実行委員の女子のことを大人たちに任せて、一旦引き上げることにした。
実行委員の女子がいた受付から離れて、
その3人は、また頭を突き合わせていた。
ツインテールの女子が、くたびれた感じで口を開いた。
「どうする?
お願いされたことは、もう済んだんだけど。
実行委員の女子は、
あたしたちの言葉に耳を貸してくれないし、
もう後のことは大人たちに任せて、お祭りを楽しもうか?」
おかっぱ頭の女子が、困った顔で応える。
「うん、話は聞いてくれそうもないね。
でも、事情を知っちゃったから、
放っておくのも後味が悪いよ。」
長い髪の女子も、ちょっと疲れているようだ。
「実行委員の女子は、
今すぐに何かするほどでは無いでしょうけど、
放っておくのも心配ね。
お互い、知らない仲でもないし、何か力になってあげたいわ。」
「じゃあさ、
もう一回、あの幽霊屋台に行ってみるのはどうかな?」
「でも、実行委員の女子は、
もう一回、幽霊屋台に行こうと思ったら、
もう行けなくなってしまったのでしょう?
それなら私たちも、もう行けないんじゃないかしら。」
ツインテールの女子が、考えながら言う。
「う~ん。
よく考えたら、
あたしたちってもう、2回目の幽霊屋台に行ってるよね。
お弁当をもらいに行った時。
ということは、
幽霊屋台を探そうとして、ちゃんと行けたことになる。
そもそも一回目だって、事前情報があったわけだし。
きっと、
幽霊屋台に行けなくなるのは、何か条件があるんだよ。」
「なるほど・・・そうね。
このまま放っておくのも後味が悪いし、
他に出来ることもなさそうだから、
もう一度、幽霊屋台に行ってみましょうか。」
そうしてその3人は、
実行委員の女子の力になれることはないかと、
もう一度あの幽霊屋台に行くことにした。
その3人が、配置図を片手にお祭りを歩いて行くと、
何の問題もなく、あの幽霊屋台の場所にたどり着いてしまった。
その3人は、拍子抜けして口を開いた。
「・・・意外とあっさり見つかったわね。」
「やっぱり、
幽霊屋台に来られなくなるのには、何か条件があるんだね。」
「なにはともあれ、幽霊屋台の人たちに相談してみよう。
実行委員の女子の言うことが正しいなら、
あの幽霊屋台の夫婦が、実行委員の女子の両親みたいだから。」
幽霊屋台に近付く。
その屋台は、相変わらず他に客はいない。
屋台全体が、鮮やかな赤い花で飾られていて、
見たことがない品種の金魚が水槽を泳いでいた。
その3人が近付いてきたのを見て、屋台の中年の男女が笑顔になった。
「いらっしゃい!
何度もやってきてくれるなんて、ありがとうね。」
「同じお客さんが何度もうちの屋台に来られるなんて、珍しいわ。
殆どの人は、見つけてもくれないのよ。」
「・・・それって、あなたたちが幽霊だから、ですか?」
その3人は、真剣な表情で尋ねた。
幽霊なのかと言われて、
中年の男女は、顔を見合わせた。
そして、観念した表情になって応えた。
「・・・そうか。
君たちには、わかっちゃったか。」
「わたしたちを見つけてくれる人は、
今までにもいたけれど、
正体に気がつく人は、そうそういなかったのにね。
さすが、何度も来られるだけのことはあるわね。」
「俺たち、この辺りが潮時かもしれないな。」
そう言うと、
その中年の男女の姿が、透けるように薄くなっていった。
それを見て、その3人は慌てて声をかけた。
「待って!消えないで!
私たち、あなたたちの娘さんのことで、相談に来たんです!」
「・・・娘の相談?」
娘という言葉を聞いて、中年の男女の変化が止まった。
「あなたたち、娘の友だちなの?」
おかっぱ頭の女子が、一歩前に出て応える。
「そうです。
娘さんが、寂しがってます。
話を聞いてもらえませんか。」
その中年の男女が、お互いに顔を見合わせて頷きあった。
透けかかったその中年の男女の姿が、元に戻っていった。
「わかりました。
お話を伺いましょう。」
それからその3人は、
幽霊屋台の中年の男女に、今日起きたことの事情を説明した。
実行委員の女子が、両親を亡くして寂しがっていること。
確実に両親と一緒になれると思って、ヨモツヘグイを実行しかけたこと。
説得に応じないので、困り果てて相談に来たことを伝えた。
話を聞いて、
幽霊屋台の中年の男女は、恐縮して頭を下げた。
「あの子が、
そんなことをするだなんて。」
「うちの娘が、
ご迷惑をおかけしました。」
これで、幽霊屋台の中年の男女が、
実行委員の女子の両親であることは、確認できたようだ。
その3人は、疑問をぶつけていく。
まずは、長い髪の女子が質問する。
「そもそも、
あなたたちは本当に幽霊なんですか?
何か未練があって、幽霊になったんですか?」
実行委員の女子の両親は、頭を掻いて照れている。
「改めてそう聞かれると、返答に困るけどね。
気がついたら、
夫婦二人で、この神社の境内にいたんだ。」
おかっぱ頭の女子が確認する
「あのお弁当を、
絶対に食べてはいけないって念を押してたのは、
ヨモツヘグイを避けるためだったんですね。」
実行委員の女子の母親が、大げさに手を振って否定する。
「いえいえ。
あのお弁当は、私たちが懐かしさから作っただけのものよ。
この神社にあったもので作ったから、
食べても、あの世のに行くことは無いと思うわよ。
でも、
お腹を壊すと思うから、食べないように言ったのよ。
ヨモツヘグイが実在するか分からないけれど、
そんな危険なものを、あなたたちに渡したりしないわ。」
ツインテールの女子は、責めるような口調で言う。
「娘さんに会いに行こうとは、
思わなかったんですか?
あんなに寂しがってるんだから、
ちょっと夢見枕に立ってあげたらいいのに。」
「それはそれで怖がらせることにならないかな。」
おかっぱ頭の女子が、横やりを入れた。
詰問された実行委員の女子の父親は、顎に手を当てて考え込んでいる。
「それが、
どういうわけか、
私たち夫婦は、この神社の境内から出られないんだよ。
だから、あの子が住んでいる家には行けないんだ。
それに、あの子の面倒は、
私の両親、つまりあの子の祖父母にちゃんと任せておいたからね。
他にも、面倒を見てくれる親戚もいるし、
私たち夫婦がいなくても、ちゃんとやっていけるはずだよ。」
実行委員の女子の母親が、説明を追加する。
「それに、
わたしたち夫婦は、記憶にも制約が多くて。
屋台に関係がないことは、思い出せないことが多いのよ。
逆にそれが、
私たちが生身の人間ではない証明かもしれないわね。」
「どうして、屋台をしようと思ったんですか?」
「私たちは独身の頃、
この神社のお祭で屋台をやっていたんだよ。
実は、それが縁で夫婦になったんだ。
そのせいか、屋台のことは記憶がしっかり残っていてね。
それで、せっかくこの神社に来られたのだから、
また夫婦で屋台をやることにしたんだよ。」
実行委員の女子の父親の話は続く。
「そうして、夫婦で屋台をしていたら、
偶然、
そこにあの子がやってきてしまってね。
あの子には、幽霊になった私たちの姿を見せたくなかったんだ。
私たちはもういなくなった存在。
いつまでも私たちのことに拘って欲しくなかったから。
それに、怖がらせてしまうかもしれなかったからね。
それからは、動揺させないように、
あの子の前には姿を現さないようにしたんだ。」
「なるほどねぇ・・・。」
説明を聞いて、その3人は事情が飲み込めた。
実行委員の女子の前に、幽霊になった両親が現れたのは、偶然だった。
でも、幽霊になった姿を見せたら、動揺させてしまうかもしれない。
実行委員の女子には、助けてくれる人がたくさんいるので、
自分たち両親はもう必要ないはず。
だから両親は、実行委員の女子の前には、姿を現さなくなった。
そういう事情のようだった。
悪意のない、親と子のすれ違いだった。
しかし、悪意がないから害がないとは限らない。
長い髪の女子が、実行委員の女子の両親に話しかけた。
「実行委員の女子に会って、
話を聞いてあげて貰えませんか?
本人はとても寂しがっているんです。」
しかしそのお願いには、実行委員の女子の両親は揃って否定した。
「さっき言ったように、
あの子には、助けになる人たちが、周りにたくさんいるはずなんだ。
いつまでも、亡くなった私たちに拘っていてはいけない。」
「いくら親子とはいえ、
幽霊に出会ったら、動揺するのは当然よね。
だから、あの子を動揺させないためにも、
わたしたちは、もうあの子に会わないほうが良いのよ。」
「あの子がしっかりやっていけるよう、
よろしくおねがいします。」
実行委員の女子の両親が、
その3人に向かって丁寧に頭を下げた。
そうして、お願いが聞き入れられることもなく、
その3人は、幽霊屋台を後にすることになってしまった。
幽霊屋台から離れて、その3人は頭を抱えていた。
長い髪の女子が、眉間に皺を寄せて口を開く。
「まさか、幽霊が本当に実在して、
こうして話をすることになるだなんて。
今でも信じられないわ。」
それに対して、ツインテールの女子は冷静だった。
「まだ、
あの人たちが本物の幽霊だとは、確定してないんじゃない?
本人たちも、言ってたじゃない。
記憶が確かじゃないって。
頭を打って、どっかの病院に入院してるだけじゃないの。」
「どっかの病院って、どこよ?」
「さあ、あたしは知らないけど。」
おかっぱ頭の女子が、2人をたしなめる。
「ふたりとも、あのおにぎりを見たでしょ?
踏んづけたら、砂になっちゃったじゃない。
だから、少なくとも人間ではないと思うの。
わたしも、まだ信じられないけどね。」
「どっちにしろ、この後どうする?
あの両親には、
娘に会う気は無いって、きっぱり言われちゃったよ。」
「娘が娘なら、その両親も頑固ね。
親の顔が見てみたいわ。」
長い髪の女子が、腕組みして言った。
「娘の親の顔なら、もう見てるけどね。
それじゃあ、
もうあの親子は放っておいて、お祭りを楽しむ?」
「そんなの、実行委員の女子がかわいそうだよ。」
おかっぱ頭の女子は、
実行委員の女子を放ってはおけないようだ。
「でも、
あの両親は、絶対に娘には会わないって言ってるじゃない。」
「でも、
娘の方は、どうしても両親に逢いたいって言ってるわよね。」
「うーん。」
娘は、
両親を亡くして寂しい、逢いたいと言っている。
両親は、
娘には助けてくれる人がたくさんいるから、会う必要は無いと言っている。
堂々巡りになってしまった。
人生経験が豊富な大人ならともかく、
ただの女子生徒であるその3人には、荷が重いようだ。
どうしたら良いか分からず、その3人がうんうんと唸っていると、
そこに、年老いたお爺さんが通りがかった。
「・・・おや。
君たち、こんなところでどうしたんですか。」
唸っていたその3人が、そのお爺さんの方を向く。
そして、揃って声をあげた。
「・・・先生!」
実行委員の女子は、
幽霊になった両親に逢いたがっている。
しかし、
その両親は、娘に会う必要は無いと言っている。
親子で堂々巡り。
どうしたら良いか分からず、その3人が考え込んでいると、
そこに、年老いたお爺さんが通りがかった。
「君たち、
こんなところでどうしたんですか。」
「・・・先生!
先生こそ、こんなところでどうしたんですか。」
その年老いたお爺さんは、その3人の学校の先生だった。
丁度、
授業でヨモツヘグイを話していた、あの日本史の先生。
あの先生こそが、今目の前にいるお爺さんだった。
日本史の先生は、柔和そうな表情をしている。
曲がりかけた背中の後ろに手を組んで、その3人に話しかけた。
「こんなところで、
3人で頭を突き合わせて、どうしたんですか。
今日はお祭りなのだから、遊びに来たのでしょう?
それとも、何か困ったことがあったんですか。」
「ええと、それは・・・。」
長い髪の女子が、思わず口ごもる。
家族の問題なんて、
自分たち若輩者には、解決できそうもない。
この日本史の先生くらいの年の人なら、
相談に乗ってもらえるだろうか。
「でも、
相手が幽霊だなんて、説明できないよね。」
おかっぱ頭の女子が、ひそひそと話しかけた。
長い髪の女子とツインテールの女子が、口に手を添えてひそひそと話す。
「その辺のことは伏せて、相談したら良いんじゃない?
あたしらにはもう、手に負えないよ。」
「それもそうね。
他所の家の事情を無闇に話すのは良くないから、
誰の話かは伏せて相談してみましょうか。」
そうしてその3人は、
実行委員の女子と両親の行き違いについて、
日本史の先生に相談することにした。
・・・もちろん、幽霊の部分は伏せて。
長い髪の女子が、手短に事情を説明した。
「というわけで、
ある友達が、両親と遠く離れたところに住んでいて、
今偶然、その子と両親が近くにいるんです。
その子は、
寂しいから両親に逢いたいって言うんですが、
両親の方は、
助けてくれる人がたくさんいるから、会う必要はないって。
どちらも譲らないんです。
その友達を放っておくのは心配で。
それで、どうしたらいいのか困ってしまって。」
話を静かに聞いていた日本史の先生は、
顎を撫でながら、穏やかな表情で話し始めた。
「なるほど。
そういう事情でしたか。
私も、経験があるんですけどね。
そういう場合、
子供は困ったら親を頼ったら良いんですよ。
多少、強引でもいい。
子供は困ったら親を頼ればいい。
そうやって、
子供が親になったら、今度は自分が頼られることになる。
その準備をしているんですよ。
あなたたち3人は、
その手伝いを、してあげてくれませんか。」
そう言うと、
日本史の先生はその3人に頭を下げた。
おかっぱ頭の女子が、慌てて手を振って応える。
「そんな、
先生に頭を下げられることじゃないです。
でも、確かにそうかもしれませんね。」
ツインテールの女子は、
あまり納得していない感じで聞き返した。
「子供は親を頼れって、
その親が拒否してる場合は、どうしたらいいの。」
日本史の先生は、小さく笑いながら応えた。
「その時は、騙し討ちでも何でもいい。
まずは、親子で顔を合わせてみることですよ。
そうしたら、後は家族の問題だから。
それまでの、手助けをしてあげてください。」
そう言って、軽くウインクをしてみせる。
日本史の先生は、年に似合わずお茶目な性格だった。
先生の話を聞いても、その3人は考え込んでいた。
「そんなものかなぁ。」
「あんまりピンと来ない話ね。」
「うん。
でも、他に手がかりもないし・・・」
「やってみますか!」
そうしてその3人は、
日本史の先生に頭を下げてから、
実行委員の女子がいる受付へ向かった。
その3人が実行委員の女子のところに戻ると、
実行委員の女子は、椅子に座って塞ぎ込んでいた。
ツインテールの女子が、その手を取って声をかけた。
「ほら。
落ち込んでないで、行くよ!」
実行委員の女子は、動こうとしない。
「なによ。
私のことは、放って置いてよ。
せっかく手に入れたお弁当を失って、
私はもう、両親と一緒になれないんだから。
両親は、私の前に姿を現してくれないし。
もう私に出来ることは何もない。」
実行委員の女子は、相変わらずふてくされていた。
何か、動くための理由が必要かもしれない。
両親が会おうとしてくれなくても、動いたほうがいい理由。
両親と一緒になるために、今動いたほうがいい理由。
長い髪の女子は、しばらく考え込んだ。
そして、何かをひらめいたのか、顔を上げる。
改めて、実行委員の女子に向かい合った。
長い髪の女子が、唇を湿らせて話し始める。
「そのことなんだけど、聞いてほしいの。
あなたの両親は、あなたに会おうとしないかもしれないけれど、
それでも、あなたは今動いたほうが良い。
そうすることで、たとえ今両親に逢えなくても、
後で一緒になれるようになると思うの。
逆に、今動かなかったら、
今後、二度と両親とは一緒になれないかもしれない。」
実行委員の女子が、怪訝そうな顔を向ける。
「それって、どういうこと?」
しめた。
話に食いついてきた。
餌に食いついた獲物を離さないために、
長い髪の女子は、自分が言ったことを理屈で説明することにした。
「あなたは、
亡くなった両親と一緒のところに行きたくて、
両親が持っていた、あの世の食べ物を食べようとした。
ヨモツヘグイによって、あの世の住人となって、
亡くなった両親と一緒になるために。
そうよね?」
「・・・うん。」
「じゃあ、確認したいのだけれど、
あなたのご両親が幽霊になったのは、どうしてかしら。」
「それは・・・」
実行委員の女子が、返答に困っている。
それを見て、長い髪の女子は自分で応えてみせる。
「あなたのご両親が幽霊になった理由。
それは、
娘であるあなたのことが心配で、
心残りだからじゃないかしら。
大抵の親だったら、
この世への未練なんて、子供のこと以外は無いと思うの。
あなたに、心当たりは無いかしら。」
そう問われて、実行委員の女子は考え込んだ。
「私の両親のことだから、そうかもしれない。
生前も、私にとても優しかったから。
亡くなる前に、私のことを親戚に頼んでいたくらいだから。
幽霊になった理由は、私のことが心配だったからかも。
でも、じゃあどうして、私の前に姿を現してくれないの。」
「それは、
実際に本人に聞いてみないとわからないから、
私からは答えられない。
私が言えるのは、
あなたの両親が幽霊になったのが、
あなたのことが心残りだったからだとしたら、
あなたは今動いたほうが良い、ということよ。」
「どうして?」
「あなたの両親が幽霊になったのは、
あなたのことが心残りだったから。
もしそうだとしたら、
あなたが生きているうちに、両親を成仏させてあげなければ、
あなたは、両親と永遠に一緒になれなくなるかもしれない。」
長い髪の女子が、話を続ける。
「なぜなら、
もしあなたの両親が、未練があって幽霊になったのだとしたら、
人は死後、未練によって居場所が決まることになる。
つまり、
もし両親が成仏する前に、あなたが死んでしまったら、
両親は、心残りの原因であるあなたを失って、成仏する手段を失ってしまう。
あなたは、あの世へ行っても、そこには両親はいない。
両親は幽霊となって、この世にいるのだから。
つまり、
あなたは、死んだ後に両親と一緒になるためには、
あなたが生きている内に、両親を成仏させてあげなければならないの。
だから、ヨモツヘグイが失敗してよかったのよ。
ヨモツヘグイでは、あなたたち一家は永遠に幽霊のままだった。」
両親を成仏させずに、先に自分が死んではいけない。
その理由を、理屈で説明されて、
実行委員の女子は、目をパチクリしている。
それから、おずおずと聞き返した。
「私、幽霊のことは、よくわからないけど・・・。
たとえば、私が死ねば、
両親の幽霊も、あの世について来てくれるんじゃないの?」
長い髪の女子が、それを即座に否定する。
「それは無いと思うわ。
あなたが死ねば、両親も一緒にあの世に行けるというのなら、
両親は、最初からあなたを死なせて、
あの世に連れて行ってしまえばいいのよ。
ヨモツヘグイによって、生者と死者が一緒になれるのなら、
あなたがヨモツヘグイをするのを、黙って見ていればいい。
でも、あなたの両親の幽霊は、そうしなかった。」
そこで、長い髪の女子は、
おにぎりが踏み潰されて消えた辺りの地面を見た。
「あなたが、ヨモツヘグイに使おうとした、あのお弁当。
あれはね、絶対に食べないように言われていたの。
あなたの両親は、
あなたにヨモツヘグイをさせようなんて、全く思っていなかったのよ。」
それに、
もしあのおにぎりを食べても、ヨモツヘグイは多分起きなかった。
あれは、この世のもので作られたから。
長い髪の女子は、心の中で、そう付け加えた。
そんな心の声は知らず、実行委員の女子が質問する。
「そう。
死んだ人間の居場所は、未練が決める。
そういう見方もできるかも知れない。
じゃあ、こうも考えられるんじゃない?
人間の魂は、いくつもあって、
あの世には、あの世の魂があるのかも。
未練の対象があの世に移動したら、それを追いかける幽霊も移動するかも。」
長い髪の女子は、それも否定した。
「それも無いと思うわ。
もし、幽霊が複数あるのなら、
あなたと一緒にいようとする両親の幽霊もいたはずよ。
あなたの両親の幽霊は、
あなたのことが心残りで現れたという前提なのだから。
でも、
あなたの両親の幽霊はひとつだけ、このお祭りにしか現れていない。
それは、
幽霊が1つだけで、その行動に制約がある証拠よ。」
長い髪の女子は、話を結ぶ。
「だから、結論。
親が幽霊になった場合、
その幽霊を成仏させる前に子供が死んでしまった場合、
親の幽霊は成仏出来ず、あの世に行った子供とは永遠に一緒になれない。
だから、あなたは生きている内に、
両親の幽霊を成仏させないといけないのよ。」
長い髪の女子は、腹の中で言葉を続ける。
幽霊が未練によってこの世に縛られ続けたら、
この世には幽霊が増える一方になる。
なぜなら、
子供が親より先に死ぬということは、しばしば起きてしまうことだから。
もしも、
未練を解消する手段を失った幽霊が、この世に残り続けるなら、
この世は幽霊だらけになっているはず。
でも、実際にはそういう様には感じない。
だから、
きっと人と幽霊の関係は、そんな単純なものではないのだろう。
でも、嘘も方便。
今は、実行委員の女子を動かせたら、それで良い。
その実行委員の女子は、
立て続けに理屈を並べられて、乾いた笑いを漏らした。
「幽霊の存在を、
いちいち理屈で説明する人なんているのね。
・・・わかった。
そこまで言うのなら、あなたたちの考えに乗ってみるわ。
それで?
私はどうしたらいいの。」
その言葉に、ツインテールの女子が返した。
「あんた、両親に会いたいんでしょ?」
「そうよ。
でも、会ってくれないのよ。」
「でも、あたしたちは、あんたの両親に会うことができた。
ということは、あんたの両親は、
あんたの姿を見て、隠れてるんじゃないかな。
つまり、
姿を見られなければ、両親に会えるんじゃない?」
「姿を隠すって、どうやって?」
「そこはそれ、
変装でもすればいいんだよ。」
「変装って誰に?」
そこで、ツインテールの女子は、
長い髪の女子と、実行委員の女子の全身を、ジロジロと見比べた。
長い髪の女子は、深い青に朝顔の模様の浴衣。
実行委員の女子は、学校のジャージの上にお祭りの法被を着ていた。
身体をジロジロと見られて、長い髪の女子が居心地悪そうにしている。
「何よ。
人の体をジロジロと見て。」
ツインテールの女子が、にんまりと笑って応える。
「あんたたち2人って、体型が結構似てるよね。」
「そうかもしれないけれど、それがどうしたの。」
ツインテールの女子が、
今度は実行委員の女子に話しかける。
「ねえ、
どこかに着替えられる場所、ない?」
「・・・向こうの控え室に、女子更衣室があるけど。」
「ちょっとさ、あたしに考えがあるんだ。
みんな、聞いてくれるかな。」
そうして、
その3人と実行委員の女子は、
着替えができる控え室の方に移動していった。
それから小一時間ほど経ってから。
実行委員の女子の両親がいる、
幽霊屋台の前に、3人が姿を現した。
3人の姿を見て、
実行委員の女子の両親が、声をかけた。
「おやおや。
君たち、また来てくれたのか。
今日はよく来てくれるね。」
「私たちは、いつでも歓迎するわよ。」
そう話す2人の前に、
深い青の浴衣姿の女子が進み出た。
顔には、お祭りの白い狐のお面を被っている。
「おや、どうしたんだい?
お面なんか被っちゃって。」
実行委員の女子の両親は、
その青い浴衣を見て、長い髪の女子だと思って話しかけた。
深い青の浴衣姿の女子が、ゆっくりとそのお面を外した。
その下から現れたのは、実行委員の女子だった。
体型が似ている2人が、衣服を交換して、
お面を被って化けていたのだった。
「君は・・・!?」
長い髪の女子だと思っていたのに、
その下から娘の顔が現れて、
実行委員の女子の両親は、泡を食って逃げようとした。
「ちょっと待った!」
その行く手を、
浴衣姿のツインテールの女子と、おかっぱ頭の女子、
それから、ジャージに着替えた長い髪の女子が遮った。
通行人を装って、近くに潜んでいたのだった。
ツインテールの女子が、してやったりという表情で口を開いた。
「ふっふっふ。
さしもの親でも、
お面で顔を隠していたら、
それが自分の娘だとは、分からなかったみたいだね。
育ち盛りの娘の体型は、すぐに変わるからね。
わかりにくかったでしょう。」
おかっぱ頭の女子が、手を合わせてお願いしている。
「逃げないで、話を聞いてあげて下さい。」
「しっかりしてる子だって、
時には助けが必要な場合があるんだよ。」
幽霊になっても、人の親であることには変わりがない。
娘ほどの年の女子にそれを指摘されて、
実行委員の女子の両親は、逃げ場を失ってしまった。
観念したようで、自分の娘の方に向き直った。
「うーん。
こうなっては、仕方がない。
でも、期待しないでくれよ。
私たちはもう、生きていた時とは違うんだから。」
「みなさん、ご迷惑をおかけしました。」
そうして、やっと、
実行委員の女子の両親は、
娘と向かい合ったのだった。
そうして、
幽霊になった両親と再会が叶った、実行委員の女子。
両親と3人で家族水入らずで過ごせるように、
その3人は席を外したのだった。
それから今。
その3人は、お祭りの中、
実行委員の受付に向かいながら、並んで話をしていた。
ツインテールの女子が、頭の後ろで腕を組んで話す。
「あの3人、うまく話ができてるかな?」
長い髪の女子は、肩をすくめて応える。
「さあ?
そこは、あの家族の問題だから。
私たちが口出しすることでは無いわね。」
おかっぱ頭の女子が、頷いている。
「そうだね。
わたしたちが出来るのは、
家族で話し合うための、そのお手伝い。
でも、うまくいってくれるといいね。」
おかっぱ頭の女子の言葉に、
長い髪の女子とツインテールの女子も頷いた。
それから、
長い髪の女子が、手を打ち合わせて言う。
「あの一家が家族会議をしている間、
私たちは、そのお手伝いをしておきましょうか。
お祭りの実行委員の受付を、
他の実行委員の人たちに、任せっきりなのも悪いわ。
早く戻って代わりをしましょう。」
「迷惑をかけたのは、あたしたちのせいじゃないんだけどな。」
「まあ、そう言わずに、ね。」
幽霊屋台から引き上げる間際、
「そんなに忙しい仕事じゃないから。
少しの間だけ、お願いね。」
実行委員の女子は、そう言っていた。
しかし。
その3人に待ち受けていたのは、そんな生易しいものではなかった。
受付が見えてくると、
遠目からでも、混乱している状況がわかった。
その3人の姿、
特に、実行委員の女子のジャージと法被を着ている、長い髪の女子に向かって、
実行委員の大人たちが悲鳴を上げた。
「君!
もう休憩はいいだろう?
早く受付の仕事を頼む!
仕事が溜まっちゃって、大変だったんだ。」
「私たちだけじゃ、対応できないわ!」
受付の前では、
迷子の子供が泣き叫び、
落とし物の山が積み上がり、
迷い込んだ野犬が、机の端でおしっこをしているところだった。
それから一時間ほど経って。
その3人は、
お祭りの実行委員の仕事を肩代わりさせられ、
その激務で汗だくになっていた。
迷子の子供をあやしながら、
ツインテールの女子がその2人に向かって大声で言う。
「ねえ!
あたしたち、
お祭りに遊びに来たはずだったのに、
どうしてこんな目に遭わなきゃいけないわけ!?」
長い髪の女子が、落とし物の書類の山を崩しながら応える。
「この作戦を思いついたのは、あなたでしょうが!」
おかっぱ頭の女子が、
迷い犬に顔をべろべろと舐められながら応える。
「仕方がないよ。
わたしたち、
家族を引き合わせる手伝いは出来たけど、
問題自体は解決できなかったんだから。
失敗しちゃったバチが当たったんだよ。」
「それ、あたしたちのせいじゃないんだけど!?」
そこに、実行委員の女子が戻ってきた。
その顔は、
両親と話をする前に比べて、いくらか穏やかなものになっていた。
しかし、その3人の様子を見て、
穏やかな表情を崩して、慌てて声をかけた。
「3人とも、大丈夫?」
「あたしたちは大丈夫・・・でもないけど。」
「それより、ご両親とお話は出来たのかしら?」
「それは・・・うん。
あなたたちのおかげで、父さんと母さんと話せたよ。
色々と制約があるみたいで、何でも話すってわけにはいかなかったけれど。
でも、悩んでたことはいくらか解決出来たと思う。
ありがとう。あなたたちのおかげよ。」
「そう、良かった。」
「そんなことより、早く交代して~。」
そうして、その3人は、
実行委員の女子にバトンタッチして、
やっと一息つけたのだった。
実行委員の役割を、実行委員の女子に引き継いで、
その3人は、やっと自由になれた。
しかし、
既にお祭りは終盤に差し掛かっていて、
ろくに屋台をまわることもできず、お祭りは終わってしまった。
その3人は、
ほうほうの体で、お祭り会場である神社を後にしたのだった。
夜の帰り道を、3人で並んで歩いている。
長い髪の女子が、肩をがっくり落として言った。
「ねえ。
私たち、今日は良いところが全然なかったわね。」
おかっぱ頭の女子が、汗を拭いながら応える。
「うん。
だってわたしたち、
実行委員の女子を家族に引き合わせる手伝いをしただけで、
他に出来ることが思いつかなかったんだもん。」
ツインテールの女子が、足を引きずりながら言う。
「それも、両親の幽霊を騙す形でね。
やりようによっては、幽霊でも騙せるものなんだね。
ところであれ、本当に幽霊だったのかな?
ちょっと記憶が曖昧になってるだけの、
ただの人じゃないの。」
「さあ。
もうどっちでも良いわよ、そんなこと。
せっかくの浴衣が汗だくだわ。」
「でも、あの一家、
うまくいったみたいで、よかったね。
もしかしたら、
わたしたちが口出しする必要なんて、最初から無かったのかも。」
「やっぱり、
他人の家の事情に関わるなんて、私たちには無理よね。」
そうしてその3人は、家族が待つ家に帰っていった。
それからしばらくして。
実行委員の女子は、心の平穏を取り戻していた。
元より、特別に孤独だったわけではなく、
家族が少ないことへの不安を感じていただけだったわけで。
助けてくれる人が、周りにたくさんいたのも大きかった。
あのお祭りの後も、
実行委員の女子は、お祭りの実行委員を続けている。
50軒の屋台が出店する、あの神社のお祭り。
そのお祭りでは、今も時折、
51軒目の屋台が見つかるのだという。
終わり。
夏とお盆ということで、お祭りと幽霊の話を書きました。
もしも親が幽霊になったら、
自分が死ぬまでに、それを成仏させてあげた方が良い、
ということの理由を、理屈で考えてみました。
幽霊かもしれない相手と会話をするという、
ちょっと非現実的な話に、
少しでもリアリティを持たせたいと思い、
この説明を入れました。
他人の家の事情に介入するのは難しいということで、
3人娘たちは、ひどい目に遭ってしまいました。
お読み頂きありがとうございました。
2024/11/8 誤植訂正
第10段落16行目
(誤)救った金魚は、
(正)掬った金魚は、




