絶望の始まり
もし、想いを伝えられなかった人に限られた時間の中で想いを伝えられるとしたら、何を伝えるのだろう。感謝の気持ち。謝りたい事。本当の気持ち。大切な人が死んだ時に限って伝えたい言葉が溢れて来る。
でも、伝えたいと思った時にはもう手遅れだ。いなくなった時に初めて気付く。本当に大切な事は、言葉で直接伝えるって事を。
僕は恋愛もした事無く、ただいい成績を取る為に勉強する。一般的にはつまらない人生を送っていた。お父さんは5年前に事故で亡くなってお母さんと二人で過ごしていたが、幸せに暮らしていた。あの電話が掛かって来るまでは。
「お母さんが倒れたって本当ですか!?」
僕はお母さんが運ばれた病院まで全力で走った。曲がり角で自転車に轢かれそうになったが、すみませんと言う暇なく走った。何時もと違って今は謝ってる場合じゃ無かった。
病院に着くと、病室まで連れていって貰った。そこには、ベッドで目を瞑って寝ているお母さんと病院の先生がそこにいた。
「お母さんは大丈夫なんですか!?先生!」
先生は僕の目を見てハッキリと言った。
「カイト君のお母さんは死にました」
先生のその一言が、僕の心を抉り取った。先生の言葉が信じられず、僕は聞き返した。
「嘘ですよね?冗談ですよね?先生!」
先生は目を瞑って首を横に振った。僕はお母さんの手を取ると、血が通ってないのが分かった。とても冷たかった。僕は涙を流しながら嗚咽を漏らした。お母さんは僕の学費を稼ぐ為に無理をして働き続けたそうだ。死因は過労死だった。
「相当体を酷使させたのでしょう。一年前にはいつ死んでもおかしく無かったです。医者として私は止めたんですけどね……。カイト君の為にって聞かなくて……」
お母さんが僕の為に一生懸命働いているのは知っていた。朝早くに起き、弁当を作り仕事に出る。夜は遅くに家に帰って来て、わざわざご飯を作り一緒に食べる。中学生の僕でも仕事がどれだけ大変なのかは分かっていた。
それでも、僕の前では弱音を一言も言わずに笑顔を見せていた。「無理しないでいいよ」「ゆっくり休んで」の言葉は頑張っているお母さんに言うのは失礼だと思って口に出さなかった。
「僕があの時、お母さんを止めていれば、お母さんは死ななかった」
でも、今後悔したところでお母さんは戻って来ない。それは絶対に変わらない事実だ。死んだ人は帰って来ない。今更僕の気持ちは、言葉はもう伝わらない。頭の中で一度でいいから止めていればいう言葉がぐるぐると頭を駆け回る。
「ごめん……。お母さん……。僕のせいで……!!僕のせいで……!!」
何度もお母さんに謝りながら涙を流し続けた。そこには僕が泣く声以外何も聞こえなかった。
初めましての方も初めましてじゃない方もどうも。こじーです。今回の作品は「伝える」をテーマに作らせて頂きました。初っ端から重い方向に飛ばしてる感じはありますが、長い目で見て頂けると幸いです。