土器ッ!丸ごと縄文!縄文人だらけの縄文生活!〜ナウマン象も出るヨ〜
タカシは12歳の縄文人。ぱっちり二重で四角顔の、ザ・縄文人な顔立ちの男児だ。
朝、竪穴式住居から外へ出て、タカシは叫ぶ。
「アニミスティック!!」
頭上には素晴らしき縄文空が広がっている。
今日のタカシは早朝からすっかりコーフンして……おっとイケナイ、古墳時代はまだ何世紀も先だった……すっかり土器土器して、いつもより早く筵から飛び起きた。
今日は彼がゾッコンラブのマミちゃんと待ち合わせしているのだ。
隣の集落のマミちゃんはタカシより一個歳上だけど、ちっちゃくって何だか守ってあげたくなるのだ。
現在タカシはお年頃。もう母ちゃんが用意した、ツギハギだらけのシカの毛皮も恥ずかしい。
「やだい、やだい。こんなダサいシカの毛皮なんてやだい。今キテるのはイノシシの毛皮だい!」
ホの字の女の前で精一杯カッコつけたいのは、現代人も縄文男児も同じコト。
結局タカシは無理言って、父ちゃんのイノシシの毛皮を着て住居を出た。
「あらあら、タカシも服を自分で選びたい年頃になったのね。何だか寂しいわ」
母ちゃんはタカシの成長にホロリとした。
マミちゃんの事は、この辺の集落全体でのお祭りで初めて見た。
焼き団栗の屋台に友人と並んでいた彼女を見て、なんて可愛い子チャンなんだと胸が土器ンコ土器ンコした。だから話しかけることが出来なかった。
次に会ったのは、彼女がタカシの集落に貝と翡翠を交換しにきた時だ。
タカシは海辺で漁の手伝いをしていた。
彼は思い切ってマミちゃんに話し掛けた。
「初めまして。名前、なんて言うの?俺はタカシ」
するとマミちゃんはにっこり笑ってこう言った。
「私はマミ。3度の飯より団栗が好きな13歳ヨ」
彼女は笑うとホッペにえくぼが出来て、とびっきりチャーミングだとタカシは思った。
……恋の丸木舟が、走り出した。
タカシはこの前彼女がまた土器と石器を交換しにきた時に思い切って壁画描きに誘った。
それが今日だ。
しかし、彼女はなかなかやって来ない。
待ち合わせの「太陽が丁度てっぺんの時間」を過ぎて彼は待ち惚けだ。
タカシは一人、そこら辺に咲いているヒナゲシで花占いをする。
来る、来ない、来る、来ない……
好き、嫌い、好き、嫌い……
丘の上のヒナゲシというヒナゲシが全て禿げ散らかした頃、マミちゃんはやって来た。
貝の耳飾りでオシャレなんかしちゃって、さては俺に気があるのカナ、そうタカシは期待した。
「ゴメン、団栗拾いについ夢中になっちゃって」
マミちゃんは息を切らしてホッペがリンゴみたいに色付いて、タカシはそれに触れてみたいと思った。
「いいよ、おれも今来たとこだから。団栗クッキーおいしいよね」
「そう?良かった!えぐみがえげつないけど、私はコナラの団栗が好きなの。今度作ってくるね」
「本当?ヤッター!」
「なんか最近味覚が変わった気がする。前はアクの少ないマテバシイを良く食べてたんだけど。大人になったのかな?」
ま、まさか……第二次性徴の発現か⁉︎タカシは土器リとした。
2人はそれから、近くの洞窟に行って絵を描いて遊んだ。
「それ、犬でしょ。タカシ君上手だねぇ」
「そう?ありがとう。マミちゃんのも犬だよね」
「違うヨ、イノシシだヨ!」
マミちゃんはヒロインとしてのポイントをしっかり押さえてて、タカシはますます好きになったんだ。
4年後。
16歳になり、タカシは逞しい青年へと成長した。
彼も狩りに参加するようになった。
今日は2人死んだ。1人はナウマン象の牙に貫かれ、1人はその巨大な前脚に踏み潰されたのだ。
生きて帰ってまたマミちゃんに会いたいと、タカシは狩りの度に彼女の顔を脳裏に描きながら必死に野生動物たちと格闘した。
そして、タカシとマミちゃんは結婚した。
大きな団栗の木の下で、タカシがプロポーズしたのだ。
「マミちゃんの作ったキノコ汁を、俺は毎日食べたい。そして、一緒の土坑墓に入りたいッ!」
マミちゃんはホッペをバラ色に染めて、はにかんでこくんと頷いた!
「私もタァ君に勾玉を作ってあげたいって思ってた……」
2人が手を繋いで集落に戻ると仲間達が待っていて、
「Aまで行った?それともBまで?」
と、ヤンヤヤンヤと囃し立てた。
2人は野いちごみたいに真っ赤になった。
マミちゃんは子どもを次々と4人産んだ。
お産で命を落とす女性は多い。でも、タカシとマミちゃんが2人で懇切丁寧に作った土偶サマのおかげか、彼女は4回とも立派に耐え抜いた。
そしてマミちゃんはぶくぶくと横に膨張し、ついにはBMIが40を越えた……!
黒曜石で獲物の肉をバッサバッサと切り分ける様は、もう肝っ玉母ちゃんそのものだ。
タカシは愛する妻子と共に縄文ライフを楽しんだ。これが幸せってヤツだな、と彼は満足していた。
12年が過ぎた。
タカシは竪穴式住居の床に横たわり、妻と4人の子ども達に囲まれていた。
ナウマン象との壮絶な戦いで深い傷を負ったのだ。
彼の意識は朦朧とする。
……タカシは夢を見る。
春は野山を散歩して花の蕾に胸踊らせ、夏は木陰で昼寝して、秋は子ども達と団栗を拾って、冬は縄文土器で煮炊きしながら冷たい手を握り合って熱を交換する。
何でもないような事が、幸せだったと思った。
妻の声が聞こえ、彼女の若い頃の姿がドアップで目の前に映し出される。
まだBMIが19だった頃の、スレンダーなマミちゃんだ。
例えどんな時代でも、マミちゃん、俺はまた君と結ばれたい、君と家族を増やして、美味しいものを食べて、一緒に「美味しいね」って笑い合いたい。
タカシの精神は身体から離れてふわりと浮かび上がり、空高く引っ張られた。そして最後には世界と混ざり合い、輪廻に乗っかった。
……約1万2000年後。
タカシはスーツを着て、路面電車に乗り込んだ。信号待ちで電車はしばらく止まったままだ。
彼はドラッグストアに勤めていたが、客の対応などで日々疲弊していた。
俺は何の為に生きているのだろう、と彼は手のひらの団栗を見つめた。電停へ来る途中の公園で拾ったのだ。
それを見ていると、タカシの心は不思議と安らいだ。
その時、閉まったドアが再び開き、女が1人乗ってきた。息を切らし頰が紅潮している。耳には貝の形をした小さなピアスを付けている。
そしてタカシと目が合うと、恥ずかしそうにニッコリと微笑んだ。えくぼがチャーミングだ、とタカシは思う。
信号が青になり、路面電車が走り出した。
……恋の路面電車も、走り出した。
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