#16 対決!アグリガルム卿!
どうも、作者です。
皆さんお待ちかねの戦闘回です。
ぜひお楽しみください。
「…では君から掛かってきたまえ」
「ではお言葉に甘えさせていただきます」
妙に弛緩した空気の中、試合が始まる。
『世界を司りし理の力よ 炎の矢で相手を撃ち抜け』
そんな厨二臭い詠唱を始めると、優樹の手先に炎が生まれる。
ゲイザーもあくまで試験だからか、流石にこの間に攻撃してくることは無いようだ。
『火矢!』
優樹の両手に集まった炎が矢の形になっていく。
右手と左手にそれぞれ二つ炎の矢があるのだが、ゲイザーがそれを見て目を見開く。
「何!?二重展開だと!?」
この世界では同じ魔法を同時に複数展開するのは珍しくない。
しかし、明らかに子供に見える優樹が出来るとは思っていなかったのだろう。
予想外の行動に動きが鈍るゲイザー。
優樹相手にその隙は明らかに致命的であった。
「くっ、がぁ!?」
時間差をつけて放たれた炎の矢は吸い込まれるようにゲイザーに当たる。
流石腐ってもプラチナ、一発目は剣を使って何とか気合で弾くが、
予想外の二発目はもろに喰らってしまった。
「やってくれるじゃねぇか、ガキが」
予想外のダメージに明らかに苛立ちながら優樹を睨むゲイザー。
この時、彼が頭に血が上ってなければ優樹の異常性に気付いただろう。
ゲイザーも色々と問題はあるが、ギルドにプラチナとして認められている。
それはつまり様々な能力が高いという事であり、幾ら防具を着ていないとはいえ
本来ならばこの程度の魔法が効くわけないのだ。
だが実際には初歩の魔法であるファイアーアローにも拘らず大ダメージを受けている。
それはつまり相手の魔法攻撃力が非常に高いという事である。
しかし格下だと思っていた相手に大ダメージを与えられ、
完全に頭に血が上ったゲイザーはそんなことさえ理解できなかった。
実際の所、ゲイザーは戦いにおいてはかなり強い上、この国の貴族である。
なので何とかプラチナになる事が出来たが、貴族でなければシルバー止まりなのだ。
何しろゴールド以上は知力や常識等の面も重要になってくる。
だが彼は貴族である為、勉強はできるが頭が良くは無い。
寧ろ短絡的であり、すぐに周りが見えなくなる。
戦闘能力で言えば歴代アグリガルム家の中でも目を見張る物があるが、
知能面の能力の低さが仇となり、プラチナ以上に上がれていなかったりする。
暫く殺意をガッツリ乗せた視線を優樹に送っていたゲイザーが
手に持つバスタードソードを天に掲げる。
すると何やら魔力の様な物がバスタードソードに集まる。
「…アグリガルム卿、何をなさるおつもりですか?」
「いやなに、このクソガキにいっぺんホンモノの力を味わってもらおうと思ってな」
明らかに正気ではない顔でとんでもないことを言い放つゲイザー。
彼が使おうとしてるのは剣術系スキルの一つであり、殺傷力が非常に高い技である。
当然こんな場所で、試験で使うような技ではない。
「いくらアグリガルム卿と言えど、今それを使えば冒険者資格の剥奪は確実ですよ」
「ふん、貴族である私にそんなことが出来ると思っているのか?」
そう平静を装って言っているが、実際は簡単に可能である。
ギルドに対して間接的に妨害することは出来なくはないが、
貴族の権威を笠に着て命令したり、融通を利かせるのは不可能である。
これは幾つもの国を跨ぐ冒険者ギルドが中立を宣言しているからだ。
国家間の争いに巻き込まれては本来の目的に集中出来ない為、
国々とは切り離されたシステムを持っている。
その為、実際にゲイザーがここでこの技を放てば間違いなくはく奪されるだろう。
しかし今のゲイザーはそんなことすら理解できないほど狂っている。
本来は流石にここまで酷くない筈なのだが、何故だろうか。
「クソガキの分際で私を傷つけたことを後悔させてやる!
これでも喰らえ!『裂海衝波斬』!!」
名前の通り海を割るほどの威力を秘めた一撃が優樹に向かって放たれる。
普通はそんな一撃を食らえば跡形もなくミンチになる事間違い無しである。
しかしここに居るのは少々…いやかなり普通と呼ぶのが憚られるタイプの人間だ。
つまり何が言いたいかと言うと……
「……『反射』」
その無慈悲な一言によって必殺の一撃は無力化される。
いや、無力化されるだけだったらまだマシだったかもしれない。
この魔法はその名の通り受けた攻撃を反射、つまり跳ね返す魔法だ。
つまりどういうことかと言うと……
「ぐぼあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
そんな情けない断末魔と共に自分の攻撃を自分で食らう羽目になるゲイザー。
いや、一応優樹が反射する際に色々弄って死なない程度にした為、死んではいない。
ただ、"死ぬほど痛い"事には間違いなく、どう聞いても断末魔のそれであった。
死んで無いので断末魔というのは違うだろうが、まぁどうでもいい。
「ち、父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
観客席から見ていたゲイスこと件の青年が目ん玉が飛び出しそうな顔をしている。
いつからこの世界はギャグの世界になったのだろうか。
「……これ、死んでないですか?」
「いや、絶対に死なないようにしたから問題ないさ」
「……はぁ、そうですか」
死んだ蛙のように痙攣していて明らかにやばそうな状況のゲイザーを見て
頬を盛大に引き攣らせながらそう問うレイン。
それに対して何でもないように答える優樹、人を人と思っていないのだろうか。
一切興味がなさそうな優樹にため息しか出ないレイン。
何はともあれ満を持して登場したゲイザーというプラチナランクの男は
たった一話で、しかもほぼ説明という悲惨な状態で何もできずに敗北したのであった。
R.I.P
「いや、死んで無いから、って私は何に突っ込んでるのかしら?」
上空で見守ってたリリスが呟いた言葉は誰にも聞こえておらず、
また誰かに聞かれてたとしても全く理解はできなかっただろう。
どうやらこの世界は着々とギャグ路線を進んでいるようだ。
それもこれも優樹という頭のおかしい青年のせいなのだが、
この時は誰一人、神さえも予想することなど出来なかったのであった。
まともな戦闘が見れると思った諸君。
ねぇねぇ、今どんな気持ち?NDK?NDK?
タイトルに対してこの内容、流石私()
これからも遠慮なくギャグ路線に突っ走っていくので
これからも安心して見ていってくださいね!




